兄は、10数年前に家を出たまま所在が分かりません。父親の相続について、除外して「遺産協議」できますか?

配信日: 2025.03.25

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兄は、10数年前に家を出たまま所在が分かりません。父親の相続について、除外して「遺産協議」できますか?
時代とともに、親戚間の付き合いが希薄になりつつあるという話はよく耳にします。それだけでなく、家族内の関係性についても、父親が絶対的な発言力をもつといった時代とは異なり、それぞれの事情が存在するようです。
 
今回は、父親の相続手続きにおいて、相続人が子である兄と弟の2人であった場合の事例を紹介します。相続人である兄は、10数年前に、ある日突然家を出たまま行方がしれません。「所在が分からない兄については、除外して『遺産協議』できますか? 」という弟からの質問に対する回答とともに対処法を考えてみます。
大竹麻佐子

執筆者:大竹麻佐子(おおたけまさこ)

CFP®認定者・相続診断士

 
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表
証券会社、銀行、保険会社など金融機関での業務を経て現在に至る。家計管理に役立つのでは、との思いからAFP取得(2000年)、日本FP協会東京支部主催地域イベントへの参加をきっかけにFP活動開始(2011年)、日本FP協会 「くらしとお金のFP相談室」相談員(2016年)。
 
「目の前にいるその人が、より豊かに、よりよくなるために、今できること」を考え、サポートし続ける。
 
従業員向け「50代からのライフデザイン」セミナーや個人相談、生活するの観点から学ぶ「お金の基礎知識」講座など開催。
 
2人の男子(高3と小6)の母。品川区在住
ゆめプランニング笑顔相続・FP事務所 代表 https://fp-yumeplan.com/

所在不明の相続人を除外して、遺産分割協議はできる?

結論からいうと、所在が分からない兄を除外して「遺産協議」できるか、という質問に対しては、「できません」という回答になります。
 
遺産分割協議は、法定相続人全員の合意が必要です。そのため、所在不明の相続人を除外して協議を行った場合、その協議は無効となります。後になって、その相続人が現れた場合には、トラブルになる可能性とともに協議のやり直しを行う必要があります。
 

所在不明の相続人がいる場合の対処法

所在不明の相続人がいる場合の対処法を3つ紹介します。
 

まずは、所在確認を行う

まずは、相続人(事例の場合、10数年前に出ていった兄)の居場所を確認する努力が必要です。
 
■戸籍の附票を取得する
戸籍の附票には、住民票上の最新の住所が記載されています。役所で請求できるため、まずは戸籍の附票を確認しましょう。
 
戸籍制度は、戸籍法に基づいて、出生から死亡に至るまでの親族的身分関係を戸籍簿に登録し、公証する制度です。戸籍の附票とは、戸籍が作られてから現在に至るまでの住所の履歴を記載した証明です。
 
■住民票の閲覧申請
戸籍の附票で確認した最後の住所地で住民票の閲覧を申請し、転居先などの手掛かりを得ます。
 
ただし、閲覧できるのは、本人または同一世帯の家族(住民票上で同じ世帯に登録されている場合)に限られるため、弟が単独で住民票の閲覧や取得はできません。弁護士や司法書士などの専門家に依頼すると「職務上請求」により住民票を取得することが可能です。
 
■弁護士や探偵を利用する
費用は発生しますが、弁護士などの士業のほか、探偵などを利用し、所在の調査を依頼する方法もあります。
 

不在者財産管理人の選任を申し立てる

それでも所在が分からない場合には、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てます。
 
「不在者財産管理人」とは、行方不明の相続人に代わって、その財産を管理する人です。
 
最高裁判所のWebサイトによれば、
「従来の住所又は居所を去り,容易に戻る見込みのない者(不在者)に財産管理人がいない場合に,家庭裁判所は,申立てにより,不在者自身や不在者の財産について利害関係を有する第三者の利益を保護するため,財産管理人選任等の処分を行うことができます。このようにして選任された不在者財産管理人は,不在者の財産を管理,保存するほか,家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で,不在者に代わって,遺産分割,不動産の売却等を行うことができます。」
とされています。
 
つまり、「不在者財産管理人」は、裁判所の許可を得て、遺産分割協議に参加することができます。ただ実際には、申立てから「不在者財産管理人」の選任、遺産分割協議を経て、分割が完了するまでには相当に時間がかかります。
 

失踪宣告を申し立てる

行方が分からなくなってから7年以上が経過している場合、「失踪宣告を申し立てる」という手段も考えられます。
 
つまり、手を尽くして探したものの、生存が確認できない状況である場合に、家庭裁判所がその人を「死亡した」とみなす制度です。失踪宣告が認められると、その人は、法律上死亡したと扱われ、相続手続きが進められます。
 
流れとしては、家庭裁判所に「失踪宣告」の申し立てを行うと、裁判所が公告(通常6ヶ月間)を行います。その間に行方不明者が現れなければ、失踪宣告が確定し、行方不明となった方の相続手続きが開始されます。
 
ただし、失踪宣告後に本人が生存していたことが明らかとなった場合には、相続のやり直しなどの法的問題が発生する可能性があります。
 

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まとめ

所在不明の相続人がいる場合、その相続人を除外して遺産分割協議を行うことはできません。家を出ていったときの事情にはそれぞれ理由があることと理解できます。そして、それぞれの事情において対処法は異なるものの、いずれにしても、所在を知るための努力は必要です。
 
そのうえで、所在が分からない場合には、不在者財産管理人の選任や失踪宣告の申し立てといった法的手段を利用することになります。どの方法を選ぶかは、相続財産の規模や相続人の意向によります。そもそも亡くなられた方が有効な「遺言書」を残していたか否かにもよります。
 
しかし、くれぐれも相続人の所在が分からないことを理由に除外して遺産分割を進めることは避けなければなりません。トラブルを防ぎ、円滑な相続手続きを進めるためにも適切な手続きを踏むことが大切です。
 

出典

法務省 戸籍とは
最高裁判所 不在者財産管理人選任
 
執筆者:大竹麻佐子
CFP®認定者・相続診断士

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