母が亡くなった際、遺言で兄が遺産をすべて相続したそうです。あとから遺留分を請求したら「遺言書に書いてあるから渡せない」と言われたのですが、本当でしょうか?
ただし、遺留分を受け取ると必要に応じて相続税の納付も必要です。今回は、遺留分の請求ができる条件や受け取れる割合、受け取った場合の相続税額の例などについてご紹介します。
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目次
遺言書に「全額を長男に譲る」と書かれていても遺留分は請求できる
遺言書は正式なものであれば、基本的には遺言書通りに相続がなされます。「遺言自由の原則」と呼ばれ、遺言書の内容は亡くなった本人の意思が尊重されるためです。ただし、最低保障として相続には「遺留分」が定められています。遺言書に書かれていなくとも、亡くなった本人の兄弟姉妹以外の法定相続人は遺留分の請求が可能です。
民法第1042条によると、遺留分の割合は直系尊属のみが相続人だったときが3分の1、それ以外は2分の1です。もし子ども2人が相続人だった場合は、それぞれその半額(4分の1ずつ)を遺留分として請求できます。
ただし、遺留分を受け取るためには遺言書により財産をすべて相続した相続人に対して支払いの請求が必要です。民法第1048条によると、遺留分侵害額請求は相続があることを知った日から1年以内、もしくは相続が始まってから10年以内にしないと時効が成立します。
兄が相続していることを知ったうえで請求する場合は、兄が相続開始してから1年を超えていると遺留分を受け取れない可能性があります。遺留分を受け取りたいのであれば、相続が始まった時点でできるだけ早く請求しましょう。
遺留分を受け取ったときは必要に応じて相続税の申告も必要
遺留分を受け取った場合、相続財産を受け取ることになるので金額によっては相続税の課税対象です。仮に長男と次男の2人が法定相続人かつ5000万円の相続財産があった場合で、次男が遺留分を請求したときの税額を求めましょう。
まず、相続税の基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人数」です。今回のケースだと、基礎控除額は4200万円になるので、課税金額は800万円になります。相続税の計算では、それぞれが法定相続分を相続した場合の税額を求めたあと、実際に相続した割合で税金を按分した金額が、各相続人の実際の負担額です。
法定相続分は子ども2人で2分の1ずつなので、それぞれ400万円に対して課税されます。国税庁によると、税率は10%のため、相続税は40万円ずつです。遺留分は4分の1のため、次男の実際の負担額は20万円が課されます。
ただし、遺留分を請求して税金が課されるのは、先に相続していた長男が「更正の請求」を行った場合です。全財産を相続した時点で長男が相続税の申告も終わらせていた場合、その時点で必要な税金は全額支払われています。
更正の請求では支払いすぎた金額の返還を求められるため、もし長男が請求をして還付された場合は、不足分の税金を次男が修正申告または期限後申告をし、納付しなければなりません。
遺言書に不備や問題があると内容が認められないケースもある
「長男がすべて相続する」と書かれていても、遺言書の内容自体に不備があれば認められないケースがあります。相続時点で遺言書に違和感を覚える場合は、問題がないかよく確認しておきましょう。
民法第968条によると、自筆の遺言書で効力が認められるのは以下の条件に該当している場合です。
●遺言者がすべての文章と日付、氏名を自書している
●遺言書に印が押されている
●相続財産の目録を添付する場合は内容を自書しなくてもよいが、目録1枚ごとに署名したうえで印が押されている
また、もし内容を変更したり加筆・削除したりした場合は、該当箇所が分かるように示したうえで変更の旨を付記して署名をし、該当箇所に印が押されていなければ効力はありません。
遺留分は遺言書の内容にかかわらず請求できる
遺言書で特定の相続人に全財産を譲る内容が書かれていても、亡くなった本人の兄弟姉妹以外の法定相続人であれば遺留分の請求ができる場合があります。遺留分は法律で定められている相続の最低保障とされているためです。ただし、遺留分は時効が定められており、時効を超えると請求できません。
また、遺留分を受け取った場合は、状況によっては相続税の申告が必要です。今回のケースだと長男が更正の請求をしたかで変わるので、遺留分請求時に確認しておきましょう。
出典
e-Govポータル法令検索 民法(明治二十九年法律第八十九号) 第五編 相続 第七章 遺言 第二節 遺言の方式 第一款 普通の方式 第九百六十八条(自筆証書遺言)、第九章 遺留分 第千四十二条(遺留分の帰属及びその割合)、第千四十八条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
国税庁 パンフレット「暮らしの税情報」(令和6年度版) 財産を相続したとき
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
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