亡くなった父の「定期預金」を解約して引き出したい! どうしたらいいのでしょうか?
本記事では、相続財産の中に定期預金が含まれていた場合における資金の引き出しまでの手続きなどについて確認していきます。
ファイナンシャル・プランナー
住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。
定期預金の引き出しには解約が必要
金融機関の口座が「普通預金」の場合、金融機関に対して名義人死亡の申し出などがあるまで口座は凍結されないため、親族などがキャッシュカードを所有していれば、資金の引き出しは可能となります。
しかし、「定期預金」の場合には、原則、資金の引き出し(現金化)のためには、満期を待つか、口座名義人本人が中途解約の手続きをとる必要があります。
そのため、本人が死亡したとき、たとえ相続人(配偶者や子など)が金融機関に出向いたとしても、手続きなしには直接資金を引き出すことはできません。
定期預金を相続したときの手続きの流れ
定期預金を相続した場合の標準的な手続きの流れは、以下のとおりです。
(1)金融機関に口座名義人が亡くなったことを知らせ口座凍結してもらう
(2)定期預金口座の遺産分割を決定する
遺言書による指定分割、遺産分割協議による協議分割
遺産分割協議書の作成(口座の解約、名義変更などの手続きに必要となる)
(3)口座を相続する人が定期預金を解約するのか、継続するのかを決定する
継続する場合でも口座の名義変更手続きが必要となる
上記のとおり、(1)で口座凍結することで、誰かが勝手に資金を引き出すことができなくなります。(2)で誰が定期預金を相続するのかを協議し、決定します。
(3)のとおり、定期預金の金利が高ければそのまま継続することも可能ですが、名義変更手続きが必要となります。金融機関ごとに異なりますが、手続きには被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、印鑑証明書など準備すべき資料も多いので、早めに金融機関に相談のうえ、準備を進めていきましょう。
そのほかに覚えておきたいこと
上記のほかで、定期預金を相続したときに覚えておきたいことを紹介します。
(1)遺産分割前の相続預金の払戻し制度
2019年7月の民法改正により、遺産分割前の相続預金の払戻し制度が施行されました。これにより、遺産分割前であっても、当面の生活費や葬儀費用などの支払いでお金が必要となった場合に、各相続人が一定額の払い戻しを受けることができるようになりました。
この制度では、家庭裁判所の判断を経ることなく、単独で金融機関から払い戻しが可能です。払い戻しができる金額は、同一の金融機関(複数支店に相続財産があればその全支店)から150万円が上限となります。
また、相続財産のうち普通預金などは口座ごと、定期預金は明細ごとに払い戻しの金額を計算します(相続開始時の預金額×3分の1×払い戻しを受ける相続人の法定相続分)。
さらに、家庭裁判所に遺産の分割の審判や調停の申し立てがなされている場合に、家庭裁判所の判断を経て、相続預金の仮払い(払い戻し)ができる制度もあります。
(2)定期預金の既経過利息も相続財産に含まれる
定期預金の相続税評価額には、相続開始時点での既経過利息(その時点で解約した場合の利息)も含まれます。具体的には、金融機関の利息計算書などで確認しましょう。
(3)名義預金と判断されると相続財産に含まれる
これは定期預金に限ったことではありませんが、口座の名義人が子や孫などであっても、実質的な名義人が被相続人と判断された場合、名義預金と見なされます。名義預金は全て相続財産となり、相続税の課税対象となります。相続税の税務調査で指摘されるケースが多いので注意しましょう。
まとめ
預金口座の払い戻しをはじめ、相続登記や相続税申告などの手続きには、被相続人や相続人全員の戸籍謄本など多くの書類の提出が必要となります。これらの省力化、簡素化を図るために「法定相続情報証明制度」があります。
この制度は、相続人から相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)とともに、戸除籍謄本等の束を登記所に提出していただき、一覧図の内容が民法に定められた相続関係と合致していることを登記官が確認したうえで、その一覧図に認証文を付した写しを無料で交付するものです。
これによって、手続きの都度、戸籍謄本等の束を提出しなくても「法定相続情報一覧図の写し」を提出することで手続きを進めることができます。ぜひとも覚えておきましょう。
出典
一般社団法人全国銀行協会 ご存知ですか? 遺産分割前の相続預金の払戻し制度
法務省 法務局 「法定相続情報証明制度」について
執筆者:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー