子どもの学費が足りず、亡くなった「母の預金」を使わせてもらいました。残りの遺産はすべて兄に譲って「相続放棄」しても問題ないでしょうか?
今回は、相続放棄ができなくなる理由や相続したときの税額例、相続放棄を検討しているときの注意点などについてご紹介します。
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住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。
目次
亡くなった親の口座からお金を下ろすと法定単純承認とみなされる可能性がある
もし、相続放棄するつもりであっても、亡くなった人の財産を動かすと「法定単純承認」と判断される可能性があります。
法定単純承認とは、「相続する」と言っていなくても、相続をしたと判断される行為のことです。民法第921条では、相続をした意思表明と判断される行為として以下が示されています。
●相続財産の一部もしくはすべての処分
●相続開始を知ってから3ヶ月以内に限定承認や相続放棄をしなかった
●限定承認や相続放棄後であっても相続財産の一部もしくはすべてを隠したり自身のために使用したりした、あるいは悪意を持って相続財産の目録に記載しなかった
例えば、相続放棄をする前に母の預金口座からお金をおろし、子どものために使う行為は単純承認と判断されるでしょう。法定単純承認は相続をしたと判断される行為なので、その後の相続放棄はできません。
もし、相続したくないのでれば、母の遺産には手を付けずに親せきから支援してもらうなどの方法で、子どもの学費を工面した方がいいでしょう。
もし遺産を相続すると相続税はいくらになる?
子どもの学費に遺産を使用した結果、相続したと判断されたときは、相続財産の金額によっては相続税の申告が必要です。今回は、以下の条件で遺産を相続したときの税額を求めましょう。
●法定相続人の長男と次男のみが実際に相続した
●遺産総額は6000万円
●次男が子どもの大学費用として下ろした600万円以外は長男が相続した
●基礎控除以外の控除は考慮しない
●葬式費用などには使用していないとする
まず、相続税の基礎控除は「3000万円+法定相続人数×600万円」なので、今回の基礎控除は4200万円です。基礎控除を引いた1800万円が課税対象となります。法定相続分と異なる割合で相続したときの相続税の求め方は以下の通りです。
(1)基礎控除を引いた相続財産を法定相続分通りに分けたとして各相続人の税額を計算する
(2)(1)の税額を合計したあと、実際の相続割合で税額を各相続人に分ける
今回のケースだと、まずは1800万円を子ども2人で分けるため900万円ずつで税額を計算します。税率は10%なので、一人90万円、合計180万円です。
しかし、実際に相続した割合は長男が10分の9、次男は10分の1になります。税額を実際の相続割合でかけると、長男の負担する相続税は「180万円×10分の9」で162万円、次男は「180万円×10分の1」で18万円です。
相続放棄をするときの注意点
もし、相続放棄を考えているのであれば、遺産を使わないことがポイントです。また、間違えて母の遺産を下ろしてしまったときは、使わないように封筒や入れ物にしまい、分けておきましょう。
保管するときには、いつ引き出していくら保管しているのかを分かるようにし、ほかの相続人に間違って引き出し、一時的に保管している旨を伝えておくことをおすすめします。
ただし、「自分でお金を引き出した」という行為自体が相続トラブルにつながる可能性もあります。トラブルに発展したときは、弁護士などの専門家に相談した方がいいでしょう。
自分のために遺産を使うと相続放棄はできない可能性がある
もし、相続放棄を検討しているなら、遺産を下ろして使う行為はやめた方がいいでしょう。遺産を自分のために使う行為は法定単純承認とみなされ、相続の意思を示したと判断される可能性があるためです。
相続放棄をしたいのにうっかりお金を下ろしてしまったときは、そのお金を使わないようにし、ほかの相続人に報告しておきましょう。
出典
デジタル庁 e-GOV 法令検索 民法(明治二十九年法律第八十九号) 第九百二十一条
執筆者 : FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー
監修 : 高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー