実家を売りたい私と売りたくない兄。相続した家の「売却」でもめたとき、解決策はあるのでしょうか?
例えば、自分は「実家を売って現金化し、現金を兄弟で分けたい」と思っていても、兄弟は「親との思い出があるから家は手放したくない」と考えているケースなどです。感情や経済的な事情が絡み合う状況になれば冷静な判断は難しく、トラブルが長期化することもあるでしょう。
本記事では、兄弟間の不動産相続トラブルの背景と、法律・専門知識を使った解決策を解説します。
ファイナンシャルプランナー
FinancialField編集部は、金融、経済に関する記事を、日々の暮らしにどのような影響を与えるかという視点で、お金の知識がない方でも理解できるようわかりやすく発信しています。
編集部のメンバーは、ファイナンシャルプランナーの資格取得者を中心に「お金や暮らし」に関する書籍・雑誌の編集経験者で構成され、企画立案から記事掲載まですべての工程に関わることで、読者目線のコンテンツを追求しています。
FinancialFieldの特徴は、ファイナンシャルプランナー、弁護士、税理士、宅地建物取引士、相続診断士、住宅ローンアドバイザー、DCプランナー、公認会計士、社会保険労務士、行政書士、投資アナリスト、キャリアコンサルタントなど150名以上の有資格者を執筆者・監修者として迎え、むずかしく感じられる年金や税金、相続、保険、ローンなどの話をわかりやすく発信している点です。
このように編集経験豊富なメンバーと金融や経済に精通した執筆者・監修者による執筆体制を築くことで、内容のわかりやすさはもちろんのこと、読み応えのあるコンテンツと確かな情報発信を実現しています。
私たちは、快適でより良い生活のアイデアを提供するお金のコンシェルジュを目指します。
なぜ兄弟で意見が対立するのか?
現金や預貯金と異なり、不動産は物理的に分けることができません。そのため、「売却して現金で分けよう」と考える相続人と、「住み続けたい」「手元に残したい」と思う相続人の間で利害が対立しやすいのです。
例えば、「自分が親の面倒を見ていたのだから家は譲ってほしい」との兄の主張に対して、弟は「それなら代償金(公平に分けるための現金)を支払ってもらいたい」と考えることがあり、金額で折り合いがつかないケースも珍しくありません。
不動産の評価方法にも問題がある
不動産の評価方法にも問題があります。固定資産税評価額と実際の市場価値が大きく異なることも多く、「代償金をいくらに設定するか」でもめる恐れがあります。感情面と金銭面のズレが、兄弟間の争いをより複雑にしてしまうのです。
売却を進めたいなら遺産分割協議がカギ
実家の売却は、単独の相続人の判断だけでは実行できません。法定相続人全員による「遺産分割協議」が必要であり、その内容を文書化した「遺産分割協議書」には実印の押印と印鑑証明書の提出が求められます。つまり、弟が実家の売却を希望しても、兄が反対すれば売却はできないのです。兄弟の協力を得られないかぎり、不動産の処分は進みません。
話がまとまらなければ遺産分割調停を申し立てる
相続人の間で合意形成が難しい場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」の申し立てができます。調停でまとまらなければ、最終的には裁判所が判断する「審判」によって分割方法が決まる流れになります。
ただし、裁判所が売却を命じるには、分割の必要性や相続人間の公平性などの根拠が重要です。
遺留分の基本と請求手続きの方法
遺言書に「兄にすべての財産を相続させる」と明記されていたとしても、弟には最低限の遺留分が認められています。
遺留分の基本
遺留分を請求できるのは、図表1に挙げた相続人です。
図表1
| 優先順位 | 続柄 | 遺留分の割合 |
|---|---|---|
| 必ず相続人になる | 配偶者 | 2分の1 |
| 第1順位 | 子(または代襲相続人である孫など) | 2分の1 |
| 第2順位 | 直系尊属(親や祖父母) | 3分の1 |
| 第3順位 | 兄弟姉妹(またはおい・めい) | なし |
法務省 大阪法務局「法定相続人(範囲・順位・法定相続分・遺留分)」より筆者作成
遺留分が認められるのは、配偶者、直系卑属である子ども、直系尊属である親や祖父母などのみです。法定相続人とは異なり、兄弟姉妹には遺留分が認められていません。
また、同一順位の相続人が複数いる場合には、遺留分の範囲で等分します。例えば、相続人が子ども2人のみの場合、遺留分の合計(総体的遺留分)は遺産全体の2分の1となり、これを2人の子で等分します。遺産が2000万円の場合は、以下の計算からそれぞれに500万円の遺留分が認められます。
子どもの遺留分:2000万円×1/2=1000万円
各人の遺留分:1000万円÷2人=500万円
遺留分侵害額請求とは?
自分の遺留分を侵害されている場合に、金銭を請求する手続きが「遺留分侵害額請求」です。不当に偏った遺言に対しても、遺留分侵害額請求を行えば、相続人の最低限の権利を確保できます。
なお、請求には相続開始を知った日から1年間の時効があることに注意が必要です。
専門家に相談することも視野に入れよう
兄弟間での相続トラブルは、当事者同士の感情がぶつかりやすく、冷静な話し合いが困難です。弁護士などの専門家に相談すれば、客観的な視点を持って問題を整理できます。
必要に応じて、調停・訴訟への移行もスムーズに対応が可能です。
相続トラブルを防ぐには正しい知識から
実家の売却を巡る兄弟間の相続トラブルには、感情が先立つことで長引く傾向があります。しかし、相続には法的な枠組みがあり、「遺産分割協議」や「遺留分侵害額請求」といった制度を正しく活用すれば、自分の権利を守りつつ冷静な交渉ができるでしょう。
なお、弁護士などの専門家は、相続問題の解決やトラブル防止に大きな役割を果たしますので、積極的に相談することをおすすめします。
出典
最高裁判所 遺産分割調停
法務省 大阪法務局 法定相続人(範囲・順位・法定相続分・遺留分)
執筆者 : FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー