知人から「70歳の親から生前贈与で毎年100万円をもらっている」と聞きました。本当に贈与税はかからないのでしょうか?
CFP(日本FP協会認定会員)
1級FP技能士(資産設計提案業務)
住宅ローンアドバイザー、住宅建築コーディネーター
未来が見えるね研究所 代表
座右の銘:虚静恬淡
好きなもの:旅行、建築、カフェ、散歩、今ここ
人生100年時代、これまでの「学校で出て社会人になり家庭や家を持って定年そして老後」という単線的な考え方がなくなっていき、これからは多様な選択肢がある中で自分のやりたい人生を生涯通じてどう実現させていくかがますます大事になってきます。
「未来が見えるね研究所」では、多くの人と多くの未来を一緒に描いていきたいと思います。
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生前贈与とは?
生前贈与とは、将来の相続を見据え、財産を譲ろうとする人(贈与者)が生存中に無償で他者(受贈者)へ財産を譲渡することを指します。
一般的にいわれる「贈与」との違いはその目的にあります。財産を無償で与えるという行為は同じですが、贈与の目的が「贈与そのもの」であることに対して、生前贈与の主な目的は「相続税対策」や「財産の早期移転」です。つまり、「生前贈与」は「贈与」の一部となる行為を指します。
生前贈与のメリット
生前贈与を行うメリットとしては、次のようなものがあります。
●相続時にまとまった財産があることで相続税がかかると考えられる場合に、贈与税の非課税枠や特例制度を生かすことで、税負担の軽減が図れる。
●受贈者が受け取った財産を必要な時期に活用できる。
贈与税の課税方法と非課税枠(基礎控除と特別控除)
贈与税の課税方法には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあります。受贈者は贈与者ごとにそのどちらかを選択することになりますが、相続時精算課税を選択した場合、その選択に係る贈与者(特定贈与者)に対しては、暦年課税を選択しなおすことはできないことに注意が必要です。
■暦年課税
贈与税には基礎控除(非課税枠)があり、1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産価額から基礎控除額110万円を控除した残りの額に対して贈与税が課税されます。
つまり、110万円までが非課税枠となります。また1年間に複数人から贈与を受けた場合、その贈与を受けた財産価額の合計額から控除できる基礎控除額は、贈与者の人数に関わらず110万円となります。
■相続時精算課税
相続時精算課税は、原則として60歳以上の父母または祖父母などの特定贈与者から、18歳以上の子または孫などに対し財産を贈与した場合において選択できる制度です。
特定贈与者ごとに、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産価額の合計額(課税価格)から相続時精算課税に係る基礎控除額110万円を控除し、さらに特別控除額2500万円を控除した残りの額に対して、贈与税がかかります。ただし、相続時精算課税における基礎控除額については、2024年以降の贈与にのみ適用されます。
なお、1年間に複数人の特定贈与者から贈与を受けた場合、それぞれの特定贈与者の相続時精算課税に係る基礎控除額は、110万円を特定贈与者ごとの贈与税の課税価格で案分した金額となります。また、特別控除額の2500万円については、前年以前にすでにこの特別控除額を控除している場合、その残額が限度額となります。
贈与税の特例制度における非課税限度額
贈与の目的が、「住宅取得等資金」「教育資金」「子どもの結婚や子育ての資金」といったことであれば、贈与額の一部が非課税となる特例制度もあります。その目的に応じた贈与の特例制度を利用することにより、子どもや孫といった受贈者は、まとまったお金が必要な時期に、税負担の軽減とともに親などから資金を受け取ることができます。
図表1
| 贈与の目的 | 特例期間(贈与期間) | 非課税限度額 |
|---|---|---|
| 住宅取得等資金 | 2024年1月1日から 2026年12月31日まで |
・省エネなどの住宅:1000万円 ・上記以外の住宅:500万円 |
| 教育資金 | 2013年4月1日から 2026年3月31日まで |
・1500万円 |
| 子どもの結婚や子育ての資金 | 2015年4月1日から 2027年3月31日まで※ |
・1000万円 (うち結婚費用は300万円を限度) |
※令和7年度税制改正により適用期限を2027年3月31日まで延長
国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」「No.4510直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」「No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」より筆者作成
生前贈与の注意点
生前贈与を行う際には、いくつかの注意点があります。
定期贈与とみなされる場合がある
定期贈与とは、一定額を一定期間、定期的な贈与として事前に約束したうえで行う贈与です。例えば、「1000万円を10年間かけて毎年100万円ずつ贈与する」といった約束が、贈与者と受贈者の間で交わされたうえで贈与が行われる場合などが該当します。
「毎年110万円以内の贈与であれば非課税」と思われがちですが、定期贈与と認定された場合には、(上記の例では総額1000万円から基礎控除額を除いた部分に対して)贈与税が課されることがあるため、注意が必要です。
定期贈与を目的としないのであれば、贈与が必要となる都度、必要な額だけの贈与を行うようにしましょう。
名義預金とみなされる場合がある
例えば、親(贈与者)が子ども(受贈者)名義の預金口座に贈与するお金を単に入金しただけでは、贈与したとはみなされません。
子どもが親からの贈与に対し、「確かに贈与として受け取りました」といったように、その贈与を承諾していなければ贈与は成立せず、無効となる場合があります。さらに、子どもの名義口座であっても、実際の管理が親によるものであれば、その預金は子どもの財産とは認められない可能性があります。
いずれの場合も、そのお金が入金された口座は、子ども名義の口座であっても「名義預金」とみなされる可能性があります。そのようなケースでは、名義預金口座にある財産は実際には親のものであるとみなされ、相続時には相続税の対象となる場合があることに、注意が必要です。
名義預金とみなされないようにするためには、贈与者と受贈者の間で「贈与契約書」を作成することが有効な方法の一つです。また、受贈者の銀行口座は印鑑や通帳、キャッシュカードも含めて、受贈者がいつでも口座を利用できるように管理されていることが重要です。
特別受益に当たる場合がある
被相続人(亡くなった人)から一部の相続人だけが生前贈与や遺贈(遺言で財産を取得させること)などを受けていた場合、残った遺産だけを分配の対象にすると、生前贈与や遺贈を受けていない相続人にとっては、不公平なことになってしまいます。「特別受益」は、相続人の間でこのような不公平を防ぐために定められているものです。
民法では、生前贈与となる「婚姻のための贈与」「養子縁組のための贈与」「生計の資本としての贈与」の3つと、「遺贈」を特別受益の対象としています。
相続が起きた際には、実際に残されていた相続財産の額と特別受益を合算したうえで、相続人同士が協議し、各相続人の相続分を決めなければなりません。原則として、相続開始前の10年間に行われた相続人に対する贈与が対象となります。これを「特別受益の持ち戻し」といいます。
まとめ
生前贈与で毎年100万円を受け取っていても、それが定期贈与に該当しないかぎり、基礎控除内であるため贈与税は課税されません。
ただし、生前贈与を行う場合は、後になって家族間でのトラブルや多額の相続税が発生してしまわないように、必要に応じて税理士や弁護士などの専門家に相談することも含め、慎重に検討することが大切です。
出典
国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合
国税庁 No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税
国税庁 No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税
国税庁 No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税
デジタル庁 e-GOV 法令検索 民法 第九百三条(特別受益者の相続分)
執筆者 : 小山英斗
CFP(日本FP協会認定会員)