実家の隣にある「空き地」を相続しましたが、草刈りも維持費も大変です……。お金をかけずに手放す方法はないのでしょうか?
相続の場合には、相続人が望まないにもかかわらずやむなく取得することとなる場合もあり、そのまま放置され、管理不全となり、周辺環境に影響を及ぼすことも多々あるようです。
本記事では、比較的利用ニーズの低い土地を相続した場合に、できるだけお金をかけずに手放す方法を考えていきます。
ファイナンシャル・プランナー
住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。
お金をかけずに手放す方法はあるのか?
結論からいえば、「全く」お金をかけないで土地を手放す方法は、ほぼないと考えたほうがよいでしょう。土地を相続した場合、所有しているだけで毎年固定資産税や都市計画税がかかります。
もちろん、そのほかに草刈りやその他維持費などの費用が発生する場合もあります。これらの維持費用を削減し、可能なかぎりお金をかけずに手放す方法としては、主に以下のようなものが考えられます。
(1)土地を売却する
売却する場合は、もちろん買い手が見つかることが前提条件となります。利用ニーズの低い土地の場合には、長年買い手が付かないケースもあり得ます。また売買契約が成立しても、宅建業者に媒介などをお願いした場合には、仲介手数料や売却益に対する所得税等の費用が発生します。
(2)自治体に寄贈する
ひとつの方法として自治体への寄贈がありますが、自治体が土地の引き取りを受け付けてくれるかは状況によるようです。また、逆に断られるケースも多いようです。
とはいえ、まずは自治体窓口への相談から始めるしかありません。また、可能であれば相談の対象を町内会や自治会などの団体に広げることも想定しましょう。
(3)個人に無償譲渡する
隣地の所有者や友人、知人などに無償譲渡する方法です。「無償」といっても、個人から財産をもらう契約は税法上「贈与」となり、贈与税が課税される可能性があります。
「贈与税の基礎控除110万円を超える場合には、贈与される側が贈与税を負担する必要がある」と想定しておくことが重要となります。
(4)法人に無償譲渡する
法人に土地を贈与したときは、贈与資産を時価で法人に譲渡したものとみなされ(みなし譲渡)、贈与した個人に所得税が課税されます。
また贈与された法人においても、資産の時価を受贈益として計上し、法人税が課税されます。ただし、譲渡先が神社仏閣・学校・NPO法人などの公益法人の場合には、譲渡所得税が非課税となる場合があります。
できるかぎり少額の負担で土地を手放す方法
少額の負担で土地を手放す方法として、主に以下のような方法が考えられます。
(1)相続を放棄する
相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申し出ることで、相続を放棄することができます。ただし放棄した場合には、被相続人の財産をすべて承継せず、相続人とならなかったことになります。
つまり、土地以外に現預金や有価証券などの財産があった場合でも、財産を承継することはできません。また、放棄する場合にも、収入印紙代、郵便切手代、戸籍謄本などの交付手数料、司法書士などに依頼した場合の報酬がかかります。
(2)相続土地を国庫に帰属する
相続土地国庫帰属法(令和5年4月27日施行)により、相続または遺贈により土地を取得した相続人が、申請により土地を国庫に帰属する制度が始まっています。
ただし、土地の要件として、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地は不可となります。
また、土地の性質に応じた標準的な管理費用として10年分の土地管理費用相当額の負担金を納付する必要があります。例えば、市街化区域の土地の場合は、100平方メートルで約55万円、200平方メートルで約80万円など面積に応じて負担金が算定されます。
相続放棄した場合の財産の保存の責任
土地の放置、管理不全化の進展を考慮し、民法では、たとえ相続放棄した場合でも相続財産の管理に責任が生じる場合があることを明確にしています。
「(民法九百四十条)相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」
つまり、現に土地を占有している相続人が放棄した場合でも、他の相続人や相続財産清算人に引き渡すまでは、財産を管理する責任が生じることとされています。
相続財産清算人は、相続人がいない場合に被相続人の債務を債権者に支払うなどの清算を行い、残った財産を国庫に帰属させる役目を担いますが、その家庭裁判所への選任申立てにも収入印紙代、郵便切手代、予納金など一定の費用がかかります。
まとめ
ここまで記載してきた、空き家や空き地に関する話題のほかにも、特定空き家や管理不全空き家など、長期間使われない建物についても対策が始まっています。また、こうした建物は固定資産税が6倍になる可能性があることなども話題となっています。
いずれにしろ、相続した土地や建物を放置したままにしておくことは、できるかぎり避けるべきでしょう。まずは、土地の所在する自治体の相談窓口に相談することをおすすめします。
出典
高等裁判所 相続の放棄の申述
法務省 相続土地国庫帰属制度について
デジタル庁 e-GOV 法令検索 民法 第九百四十条(相続の放棄をした者による管理)
執筆者 : 高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー