夫から相続した遺産「2500万円」のうち「500万円」を孫の教育資金として娘に渡したら、税金はかかる? 相続に含めたほうが節税になるの?
本記事では、相続後に教育資金としてお金を渡す際の税金の取り扱いや、節税の観点からどうすべきかを解説します。
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娘に渡す500万円は贈与? それとも相続?
まず、「500万円を孫の教育資金として娘に渡す」といっても、どういう形で渡すかによって税務上の扱いは大きく変わります。
例えば、夫の死後に妻が遺産2500万円を相続し、その後自分の判断で娘に「孫の教育資金として使ってね」と500万円を渡した場合、それは妻から娘への贈与とみなされ、贈与税がかかる可能性があります。
贈与税には年間110万円の基礎控除があり、これを超える部分には税率が適用されます。500万円を一括で渡した場合、基礎控除を差し引いた390万円に対して贈与税が発生する可能性があります。
一方で、相続の際に遺言で孫に500万円を遺贈するなどして渡す場合は、その500万円は贈与税ではなく相続税の対象になります。ただし、相続税の基礎控除は「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」と定められており、遺産総額がこの基礎控除を下回る場合は相続税がかからないことが多いです。
なお、孫が代襲相続人(親がすでに亡くなっている場合など)でないかぎり、相続税が2割加算されるという可能性があるため注意が必要です(相続税法第18条)。
このように、「いつ、誰から、どう渡したか」によって、贈与税がかかるのか、相続税として処理されるのかが変わります。節税のためには、遺言の作成や専門家への相談など、事前の準備が大切です。
教育資金なら贈与税がかからない? 非課税制度の活用法
孫の教育費に使う目的であれば、一定の条件を満たすことで贈与税がかからない特例制度があります。それが、「教育資金の一括贈与の非課税制度」です。
この制度では、祖父母や両親などの直系尊属から30歳未満の子や孫等(直系卑属)へ最大1500万円(学校以外の教育費は上限500万円)まで、贈与税をかけずに教育資金を渡すことが可能です。
ただし、利用には主に以下の条件を満たす必要があります。
・贈与者が直系尊属(父母・祖父母・曽祖父母等)であること
・受贈者が30歳未満の直系卑属であり、さらに前年の合計所得金額が1000万円以下であること
・贈与金は金融機関で開設した教育資金専用口座へ一括で入金し、使途ごとに領収書等で教育資金として利用したことを証明し報告すること
・非課税となる金額は学校等への支払いが最大1500万円まで、そのうち学習塾や習い事等の学校等以外への教育活動に使う場合は最大500万円まで
所得要件や利用期限、非課税計上できる費用の範囲など細かな制約がありますが、要件を満たすことで、500万円を非課税で孫のために渡すことができ、教育資金の生前贈与による相続税・贈与税の節税効果も期待できます。
なお、教育資金贈与の非課税制度を利用して贈与した金額のうち、使い切れなかった分が残っている状態で贈与者が亡くなった場合、その未使用分は相続財産として加算され、相続税の課税対象になる可能性があります。
そのため、制度を利用する際は、贈与した資金が実際に教育目的で適切に使われるかどうか、そして期間内に使い切れるかどうかも考慮して計画を立てることが大切です。
相続に含めた場合と贈与した場合、どちらが得か?
相続財産として処理する場合と、教育資金の一括贈与の非課税制度を利用して贈与する場合とでは、どちらが節税につながるかは状況によります。
まず前述のとおり、相続税の基礎控除は「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」です。例えば、相続人が娘1人だけの場合の基礎控除は3600万円となるため、遺産が2500万円であれば相続税は発生しません。
この場合、一見するとわざわざ贈与を活用する必要はないように思えますが、将来の相続財産が増える予定がある場合は、贈与によって教育資金を非課税で前渡しをして相続財産を減らすほうが有利な場合もあります。
しかし、通常の贈与には年間110万円の基礎控除額しかありません。そのため、制度を使わずに500万円を娘に一括で渡した場合、贈与税が発生します。ただし、教育資金の一括贈与の非課税制度を利用すれば、最大1500万円(うち学校等以外は最大500万円)まで贈与税が非課税になるため、節税効果が期待できます。
制度の活用と相続の仕方で税負担は変わる
孫の教育資金として娘に500万円を渡す場合、遺産の額にもよりますが、相続財産に含めるか、教育資金の一括贈与の非課税制度を利用して贈与するかで税負担が大きく変わります。
制度を利用すると、最大1500万円までの教育資金を贈与税なしで渡せますが、利用には贈与税はかかりませんが、利用にはいくつかの条件があり、領収書の提出など利用状況の報告も求められます。
また、制度の利用期間は2026年3月31日までに贈与を完了する必要があります。さらに、使い切れなかった未使用分がある場合は、贈与者の死亡時に相続財産として加算される可能性があるため、計画的な活用が重要です。
自分に合った方法を選ぶには、制度の理解と専門家への相談が大切です。
出典
国税庁 No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税
国税庁 No.4152 相続税の計算
デジタル庁 e-Gov 法令検索 相続税法 第十八条 相続税額の加算
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
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