親の介護費「月8万円」を兄弟の誰も負担してくれません…。長男の私が負担すれば、将来「遺産」が多くもらえるのでしょうか?
そう期待したくなる気持ちはもっともですが、介護費を負担したからといって自動的に遺産が増えるわけではありません。大切なのは、きちんとした証拠です。
本記事では、兄弟が介護費の負担を拒否した場合に取れる法的な対処法や、「寄与分」を主張するための準備の進め方について、分かりやすく解説します。
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目次
兄弟が親の介護費を払わない……扶養義務と請求の可否を法律で確認
親の介護費用については、兄弟姉妹すべてに扶養義務があり、特定の子どもだけが全額を負担する決まりはありません。
民法第877条は「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定め、生活状況に応じた分担(経済的扶養も含む)を前提にしています。
まず兄弟間で「費用項目・金額・割合・支払方法」を可視化して協議し、合意が難しければ家庭裁判所の「扶養請求調停」で負担割合の調整を図るのが一般的です。
調停に先立ち、介護サービス利用明細、施設請求書、医療費、紙おむつ等のレシート、送金履歴などのエビデンスをそろえると、負担の必要性と相当性の説明がスムーズになります。
介護費を負担した長男でも自動で「遺産加算」はない! 増える可能性は寄与分の立証次第
「介護費の負担をしていれば将来の遺産が増える」という自動加算ルールは存在しませんが、相続時に「寄与分」が認められれば、遺産を多く相続できる余地があります。
寄与分は、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした相続人に加算を認める民法の制度で、民法第904条の2に規定があります。
介護の場合、「継続的に療養看護し、その結果として財産の維持などに特別の寄与があった」と主張・立証できるかがポイントです。介護日誌やサービス利用表、支出の領収書などが証拠となるでしょう。
「月8万円」は高い? 介護費用の平均額
月8万円の自己負担は重く感じられますが、公益財団法人生命保険文化センターの「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、介護費用の平均月額は9.0万円、「在宅」5.2万円、「施設」13.8万円、平均介護期間は約4年7ヶ月とされています。
この水準感から見れば月8万円は珍しくないレンジです。介護が長期化する可能性もあるため、兄弟間での定率・定額分担や、親の年金・貯蓄の優先充当、自己負担割合(1~3割)の確認、介護保険外費用の見直しがカギになります。
数字を軸に合意形成するには「費用の見える化」と「合意の書面化(負担割合・起算日・振込先・見直し条件)」が有効で、将来の寄与分主張も意識して、負担の証拠を保存しておくと後々のトラブル予防に役立つでしょう。
生前対策で不公平と争いを防ぐ
介護費を負担しても、自動的に相続分が増えるわけではなく、将来多く受け取るには寄与分の主張・立証が必要です。まずは民法を前提に兄弟間の分担ルールを策定し、まとまらない場合には家庭裁判所の調停を視野に、費用の可視化と支払実績の証拠化を進めましょう。
親が元気なうちから対策を講じておけば、将来的な争いを避けられます。早めに家族間で合意形成を図り、必要に応じて専門家に相談しながら準備を進めましょう。
出典
e-Govポータル法令検索 民法(明治二十九年法律第八十九号) 第四編 親族 第七章 扶養 第八百七十七条(扶養義務者)、第八百七十七条 第五編 相続 第三章 相続の効力 第二節 相続分 第九百四条の二(寄与分)
公益財団法人生命保険文化センター 2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査 第II部 生活保障に対する意識 2.生活保障に対する考え方 (5)世帯主または配偶者が要介護状態となった場合の公的介護保険の範囲外費用に対する経済的備え (エ)介護経験 (b)介護期間(176ページ)、(e)介護費用(180ページ)
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
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