生活保護を受けていた母が亡くなり、約100万円の「生活保護返還金」があることが発覚。相続放棄したら支払わなくても大丈夫ですか?
本記事では、その「生活保護返還金」がある母親が亡くなった場合に、相続放棄をしたら支払わなくて済むのか、合わせて相続放棄の手続きと留意点について解説します。
ファイナンシャル・プランナー
中小企業診断士
早稲田大学理工学部卒業。副業OKの会社に勤務する現役の理科系サラリーマン部長。趣味が貯金であり、株・FX・仮想通貨を運用し、毎年利益を上げている。サラリーマンの立場でお金に関することをアドバイスすることをライフワークにしている。
相続放棄は可能か? 手続きは?
結論からいうと、相続放棄の手続きを家庭裁判所に申請し、受理されれば、マイナスの財産である生活保護返還金(債務)の支払い義務を回避することができます。次に、どのような手続きが必要かを解説します。
1. 申請する人
相続人(亡くなった方の財産を引き継ぐ人)
なお、相続人が未成年者または成年被後見人の場合は、その法定代理人が代理して申請をします。
2. 申請の期限
民法により「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内にしなければならない」と定められています。ただし、亡くなった方の相続財産の状況を調査しても、相続を承認するか放棄するかを判断することができない場合には、家庭裁判所へ申立てをすれば、3ヶ月の期間を延ばすことができます。
3. 申請先
被相続人(お母さま)の最後の住所地の家庭裁判所
4. 必要な費用
収入印紙800円分(申請者一人について)と連絡用の郵便切手代
5. 必要な書類
相続放棄の申述書および標準的な申立添付書類
相続放棄する場合の留意点
下記につき、留意する必要があります。
1. 相続放棄の期限
すでに解説したように相続放棄もしくは相続判断の延期は、原則としてお母さまの死亡を知った日、すなわちご自身が相続人になったことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申立てる必要があります。
この期限を過ぎると、相続を承認した(単純承認)とみなされ、相続放棄ができなくなるため、早急な検討が必要です。
2. 相続放棄が認められないケース
相続放棄をする前に、お母さまの遺産(預貯金、不動産、動産など)の一部でも「相続財産を処分した」とみなされる行為をしてしまうと、相続を承認したと判断され、相続放棄ができなくなる恐れがあります。
具体的には、お母さまの預貯金を、お母さまの葬儀費用以外の目的で引き出して使用することやお母さまの財産(貴金属や高価な家具など)を売却して自分のためにそのお金を使用したりすることなどが該当します。
3. 相続放棄しても支払い義務が残る費用
相続放棄をしても、お母さまの葬儀をあなたが契約して行った場合には、葬儀費用は相続放棄したとしても支払う必要があります。
ただし、生活保護者や経済的に困窮している場合には、自治体の費用で「火葬」を行ってもらえる葬祭扶助制度を利用できる場合があります。詳細は、お母さまの住民票のある市区町村の福祉課・福祉事務所に確認を取るとよいでしょう。
また、お母さまが賃貸住宅に住んでいた場合で、お母さまの賃貸借契約などの連帯保証人になっている場合は、原状回復費用やハウスクリーニング代など連帯保証人としての支払い義務は相続放棄をしても残りますので注意が必要です。
まとめ
生活保護を受けていた母親が亡くなり、「生活保護返還金」があると分かった場合には、相続放棄をすれば支払いを回避することができます。ただし、家庭裁判所への申立てが必要であり、相続が開始してから3ヶ月以内に行う必要があります。
仮に相続財産を自分のために使った場合、相続を承認したことになりますので注意が必要です。なお、相続放棄の手続きは複雑でもあるので、判断に迷う場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。
出典
厚生労働省 生活保護制度
最高裁判所 相続の放棄の申述
執筆者 : 堀江佳久
ファイナンシャル・プランナー
