「父の遺産3000万円」は“すべて母親”が相続予定だったのに…姉妹で「相続放棄」の予定が、急に「父の兄」が相続人と名乗り上げ!「母のため」が裏目に出る理由とは? 注意点を確認
そのような状況で、姉妹で相続放棄を予定していたときに、突然父の兄が「自分も相続人だ」と名乗り出て来たら、「伯父なのに遺産を支払う義務はあるのか」、「母に全額渡すことができるのか」という問題が発生してしまいます。
本来、妻と子にしかないはずの相続権を伯父が持つことができるのはなぜなのでしょうか。本記事では、相続の基本的なルールと、伯父が相続人になるケースを解説し、「母にすべて相続させるための対策」について紹介します。
ファイナンシャルプランナー2級
故人の兄(伯父)が相続人になるのはどんなとき?
今回の相続について、亡くなった父親の親族が、故人の妻、子ども2人、兄(直系尊属の父母は既に亡くなっている)であるとしましょう。
相続の基本として、配偶者は必ず相続人となります。その次に相続人となるのは子で第1順位、子がいなければ父母など直系尊属が第2順位、それもいなければ兄弟姉妹が第3順位と相続の権利が移行していきます。
また下位の順位の人が相続人となるためには、上位の順位の相続人がいないか、またはその人たちが一切相続しないという条件が必要となります。
今回のケースだと、母親が遺産の半分、子ども2人で残った遺産を均等に分けるのが基本的な相続です。しかし、姉妹2人が相続放棄をすると、「父親には最初から子がいない」という状態となり、代襲相続で、父親の父母(祖父母)から伯父へと相続権が渡ってしまうことになります。
つまり、姉妹の相続放棄の目的が「母に単独で相続してもらいたい」という意図で行われたとしても、法律上は「放棄」したことにより、伯父にも相続権が発生してしまうのです。
母親に全額を相続させるための対策
母親の老後のために3000 万円をすべて相続させたいという場合、次のような対策をとることで、伯父への相続を回避することができます。
姉妹2人で相続を放棄しない
姉妹が相続放棄をしなければ、「子」が持っている相続権が伯父に移ることはありません。そのため姉妹が放棄せずに、母と姉妹の法定相続人全員が相続人となって遺産分割をするという方法があります。
遺産分割協議で母親に全額相続させる
やはり母親に全額相続してほしい場合は、「遺産分割協議」を行いましょう。「母が全額取得する」という内容の協議を母親と姉妹で成立させ、遺産分割協議書を作成すれば、法定相続分とは異なる分割で遺産を分けることができます。
この協議は、姉妹が「放棄」したのではなく、「遺産の分け方に同意した」という形をとるので、相続権は下位の順位に移行することはありません。そのため実質的に母親がすべて遺産を取得することができるのです。
父親に遺言書を用意しておいてもらう
父親の生前から姉妹の間で、「父に万一のことがあれば、遺産はすべて母に」という話し合いが持たれているのであれば、あらかじめ父親に頼んで遺言書を用意しておくのも有効な手段です。
父親が「遺産はすべて妻に相続させる」という内容の遺言書を用意しておけば、「遺言者の意思」が尊重され、法定相続分や分割協議よりも優先されます。
母親に安心して全額相続させるために
「遺された母のために」と姉妹で相続を放棄しても、そのやり方によっては、伯父に相続権が移行してしまうことがあります。もし母親にすべての遺産を渡したいのであれば、姉妹で「あえて遺産を放棄しない」という選択を取り、母親と姉妹で遺産分割協議を行うことで、母親に実質的に全額を相続してもらうことが可能です。
また、親とあらかじめ遺産の分け方について話し合う機会が持てる場合は、遺言者と家族の意見をまとめた遺言書の作成をしておくと、死後のトラブルを減らすことができるでしょう。
執筆者 : 渡辺あい
ファイナンシャルプランナー2級
