夫の遺産「4000万円」を子どもと2人で相続しますが、子どもにできるだけ多く渡したいです。私が全額相続したあとに渡せば子どもの支払う税額は少なく済みますか?
しかしこの方法だと、子どもが遺産を相続するよりも税金の負担が大きくなる可能性もあるため、注意が必要です。
今回は、相続後に遺産を再び分けると課税される可能性がある理由や、相続後に遺産を渡したい場合のポイントなどについてご紹介します。
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目次
相続後に遺産を再び分けると課税される可能性がある
相続税法基本通達第19条の2-8によると「当初の分割により共同相続人又は包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、その再配分により取得した財産は、同項に規定する分割により取得したものとはならないのであるから留意する」と示されています。
つまり、一度分割により相続人が取得した財産を、再び遺産分割として分配しなおしても相続により取得したとは認められないということです。
そのため、妻が全額相続後に子どもへ遺産の一部を渡すと、相続ではなく通常の贈与として贈与税の課税対象になる可能性があります。贈与税は年間110万円の基礎控除が設けられているため、110万円よりも多い額を子どもに贈与する場合は、子どもが贈与税を支払うことになるでしょう。
相続税と贈与税では税率や控除が異なる
相続税の方が負担が軽くなるもうひとつの理由として、税率や控除額の差が挙げられます。贈与税の方が税率が高く、控除額が少なく設定されており、贈与されたときの方が税額も高くなるためです。
まずは、課税金額が3000万円までの税率を比較しましょう。国税庁によれば、相続税の税率は以下の通りです。
・1000万円以下:税率10%
・1000万円超~3000万円以下:税率15%、控除額50万円
同じく国税庁によれば、親から成人した子どもへ贈与した場合の、課税金額別贈与税率は以下の通りです。
・200万円以下:税率10%
・400万円以下:税率15%、控除額10万円
・600万円以下:税率20%、控除額30万円
・1000万円以下:税率30%、控除額90万円
・1500万円以下:税率40%、控除額190万円
・3000万円以下:税率45%、控除額265万円
同じ課税金額でも、贈与税率の方が徐々に高くなっていくことが分かります。
さらに、相続税は基礎控除「3000万円+600万円×法定相続人数」を正味の遺産額から差し引いてから、各相続人の税額を求める税金です。妻と子ども1人のみが法定相続人の場合、基礎控除額は4200万円になります。今回のように4000万円を相続するのであれば、相続税はかかりません。
一方、先述したように贈与税の基礎控除は年間110万円です。遺産の半分である2000万円を成人した子どもに一度に渡すと、基礎控除を差し引いた1890万円が課税金額となり、45%の税率がかかります。子どもの負担する贈与税額は「1890万円×45%-265万円」の585万5000円です。
計算結果からも分かるように、あとから子どもに渡すよりも、今回のケースでは最初の相続時点で子どもと分割した方が税金の負担がありません。
贈与税の非課税項目を活用すると税金の負担を軽くできる可能性がある
すでに相続をしてしまった場合、贈与税の非課税項目を活用して子どもに遺産を渡すと、子どもの税金の負担を軽くできる可能性があります。
国税庁によると、贈与税には12の非課税項目が設けられています。例えば、親から子どもへ生活費や学費、治療費などのために必要な金額を必要なタイミングで渡すのは、非課税です。ほかにも、お年玉やお祝いのお金であれば、社会通念上相当と認められる範囲であれば非課税になります。
ただし、一度に2000万円などの大金を渡すと、非課税項目に該当しなくなる可能性があります。子どもが生活においてお金を必要としたときや、進学・就職などのお祝いのタイミングで小分けにして渡すとよいでしょう。
あとから贈与するよりも相続で分けてしまった方が税金負担は軽いケースがある
夫の遺産を妻が一度相続したあとに改めて子どもに贈与するよりも、最初から2人で遺産を分割した方が、子どもの税金の負担を軽くできる可能性があります。贈与税の方が相続税よりも税率が重く設定されているためです。
相続したあとに子どもへ遺産を分けたいのであれば、まとめて財産を渡すのではなく、非課税項目などを活用するとよいでしょう。
出典
国税庁 法令解釈通達 第19条の2≪配偶者に対する相続税額の軽減》関係 (分割の意義)
国税庁 パンフレット「暮らしの税情報」(令和7年度版) 財産を相続したとき
国税庁 タックスアンサー(よくある税の質問) No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
国税庁 タックスアンサー(よくある税の質問) No.4405 贈与税がかからない場合
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
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