父の遺産は2000万円。父には離婚歴があり、母と子ども2人、前妻とその子どもが1人いるのですが、どのように遺産分割すればいいですか?
家族構成は、現在の配偶者であるお母さまと子ども2人に加え、前妻との間にもう一人お子さまがいらっしゃるとのこと。「前妻の子にも相続権があるのだろうか?」「一緒に暮らしていなかったのに、分ける必要があるのか?」このような疑問や戸惑いを抱く方は少なくありません。
実は、離婚歴がある場合の相続では、法的な理解不足や感情的な行き違いから、思わぬトラブルに発展しやすいのが実情です。今回はFPの視点から、こうしたケースで遺産分割を進めるうえで、まず押さえておきたいポイントを整理します。
CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプラン二ング技能士、円満相続遺言支援士(R)
外資系IT企業を経て、FPとして「PCとFPオフィス植田」を起業。独立系のFPとして常に相談者の利益と希望を最優先に考え、ライフプランをご提案します。
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目次
まずは法定相続人を正確に把握する
相続手続きを進めるうえで最も重要なのは、「誰が相続人になるのか」を感覚ではなく、法律に基づいて正確に把握することです。そのために必要なのが、被相続人であるお父さまの「出生から死亡までのすべての戸籍謄本(除籍・改製原戸籍を含む)」です。
これらの戸籍をたどることで、婚姻歴や離婚歴、認知された子どもの有無がすべて確認できます。前妻との間の子どもも、法律上の親子関係があれば、現在の家族と同様に法定相続人となります。一方で、前妻本人はすでに離婚しているため、相続人には該当しません。
確認した内容をもとに相続関係説明図を作成しておくと、相続人全員が状況を共有しやすくなり、金融機関や不動産手続きも円滑に進みます。
-(補足)戸籍謄本が「出生から死亡まで」まとめて取得できるようになっています-
以前は、被相続人の本籍地が変わるたびに市区町村へ個別に請求する必要があり、戸籍収集は相続手続きの中でも特に手間のかかる作業でした。
現在は、「戸籍証明書等の広域交付制度」が始まり、本籍地がどこであっても、最寄りの市区町村窓口で出生から死亡までの戸籍謄本をまとめて請求できるようになっています。
これにより、相続人調査にかかる時間と負担は大幅に軽減されました。相続手続きの初期段階でこの制度を活用することで、相続人の確定をスムーズに行うことができます。
遺言書の有無を必ず確認する
遺言書があるかどうかで、相続の進め方は大きく変わります。有効な遺言書があれば原則としてその内容が優先されますが、後述する遺留分を侵害している場合には、調整が必要になることもあります。
相続が始まったら、できるだけ早い段階で以下の方法で遺言書の有無を確認します。
(1)自宅・金庫・通帳保管場所を確認する(自筆証書遺言)
まず確認したいのが「自筆証書遺言」で、以下の場所に保管されていることが多くあります。
■自宅の机・引き出し
■金庫
■重要書類をまとめたファイル
■通帳や印鑑と一緒に保管されているケース
自筆証書遺言が見つかった場合、開封せずに家庭裁判所で「検認」を受ける必要があります(※後述する法務局保管制度を利用している場合は検認不要)。
(2)法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を確認する
現在は、法務局で自筆証書遺言を保管してもらえる制度があります。この制度を利用しているかどうかは、全国どこの法務局でも照会可能です。相続人等が、死亡の事実を証明する書類を添えて請求すると、以下を確認できます。
■遺言書が保管されているか
■保管されている場合とその写し
この制度を利用している遺言書は、検認が不要で、比較的スムーズに相続手続きへ進めます。
(3)公証役場で公正証書遺言を検索する
公正証書遺言が作成されている場合、原本は公証役場に保管されています。最寄りの公証役場で、「遺言検索制度」を利用することで、全国の公証役場にある遺言書を検索できます。
相続人や代理人が、戸籍謄本など必要書類を提出することで、以下を確認できます。
■公正証書遺言の有無
■作成されている場合は保管されている公証役場
法定相続分の基本
今回のケースで遺言書がない場合、相続人は「配偶者1人と子ども3人(前妻の子を含む)」となり、法定相続分は図表1のとおりです(※1, 2)。
図表1:法定相続分
遺留分にも配慮する
配偶者や子どもには、最低限保障される遺留分があります(※3)。遺言や分割内容がこれを下回る場合、後から遺留分侵害額請求が行われる可能性があり、相続後の関係悪化につながりかねません。
今回の場合の遺留分は、図表2のとおりです。
図表2:遺留分
お母さまの生活維持という視点
法定相続分どおりであれば、お母さまの取得額は1000万円が目安です。しかし、年金収入や今後の生活費、医療費・介護費を考えると、必ずしも十分とはいえないケースもあります。
一方で、子どもたちは就労世代で、相続財産への依存度が低い場合も少なくありません。このような場合には、以下のような柔軟な分割も検討に値します。
■お母さまが現金を多めに取得する
■子ども側は将来の相続で調整する
相続は「今の公平」だけでなく、「残された配偶者の将来の安心」を見据えて考えることが重要です。
特別寄与分の考え方
子どもの配偶者など、相続人ではない親族が被相続人を献身的に介護していた場合、従来は遺産を受け取ることができませんでした。現在は民法改正により、こうした貢献を金銭評価して請求できる「特別寄与分」の制度があります(※4)。
特別受益の調整
特定の子どもが、海外留学費用や住宅購入資金など多額の援助を受けていた場合、それを「特別受益」として考慮し、相続分を調整することで公平性を保ちます。
遺産分割協議と実行
これらを踏まえ、相続人全員で遺産分割協議を行い、合意内容を「遺産分割協議書」として書面化します。あわせて、手続きを円滑に進めるため、代表者や執行役を決めて実務を進めると安心です。
おわりに
相続は、法律どおりに分ければ必ず円満に進む、というものではありません。特に離婚歴がある場合は、「知らなかった」「聞いていなかった」という認識のズレが、後々の対立につながることもあります。家族関係や生活状況、これまでの支援や貢献を踏まえつつ、早い段階で全体像を整理し、冷静に話し合うことが大切です。
不安がある場合は専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
出典
(※1)国税庁 No.4132 相続人の範囲と法定相続分
(※2)デジタル庁 e-Gov法令検索 民法 第二節 相続分
(※3)デジタル庁 e-Gov法令検索 民法 第九章 遺留分
(※4)デジタル庁 e-Gov法令検索 民法 第十章 特別の寄与
執筆者 : 植田周司
CFP(R)認定者、一級ファイナンシャルプラン二ング技能士、円満相続遺言支援士(R)


