母の介護費「月9万円」、兄は“払えない”といいます…私が多めに負担した場合、相続で遺産を多く受け取ることはできますか?
今回は、生前の親の介護費の負担は相続時に考慮されるのか、制度のポイントを整理します。
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目次
介護費の負担は「寄与分」として認められる? 知っておきたい「扶養義務」と認定の壁
親の介護が始まると、精神的な負担に加えて金銭的な負担が大きくなる場合があります。特に今回のように「兄は払えないと言うので、自分が多めに負担している」といった状況では、その負担分を将来の相続において考慮してほしいと考えるのは自然なことといえるでしょう。
しかし、実際には、自分が多く出した介護費がそのまま相続分に上乗せされる(寄与分として認められる)ハードルは決して低くありません。民法上、直系血族や兄弟姉妹には「扶養義務」があるとされているため、通常の範囲内での金銭的援助は「家族として当然の助け合い」とみなされてしまう可能性があるからです。
相続時に、遺産分割で法定相続分を超える財産を相続できる制度のことを、「寄与分」と呼びますが、これが認められるには「特別の寄与」が必要です。単なる生活費の援助ではなく、被相続人(親)の財産の維持や増加に直接的に特別な貢献をしたかどうかが厳格に判断されます。
「寄与分」はどのような場合に認められる? おもな要件とポイント
もし月9万円を5年間負担し続けた場合、総額は540万円に達します。これだけの金額を1人で負担しながら、相続時には兄と同じ割合で分けるとなれば、不公平感は拭えません。
寄与分が認められるためには、前述のとおり「通常期待される範囲を超える貢献」であることに加え、おもに以下のような要素が重要視されるようです。
・無償性:対価を受け取っていないこと、もしくはそれに近いこと。
・継続性:一時的ではなく、長期間にわたっていること。
・専従性:片手間で行っていたのではなく、その行為に専念していたこと。
金銭的な援助については、それが「本来親が支払うべき介護費用を立て替え、親の財産が減るのを防いだ」などと証明できれば、寄与分として考慮される可能性があります。例えば、親の預貯金を切り崩さずに自分の給与から介護施設代を継続的に長期間出していた場合などは、親の遺産を「維持」したと評価されやすくなるでしょう。
今から備える証拠の残し方と話し合いの進め方
兄が「払えない」と言っている現状で、将来的なトラブルを防ぐためには、客観的な証拠を継続的に整理しておくことが重要です。感情的な主張だけでは、遺産分割協議の場で合意形成に至ることが難しいケースも考えられます。
そのため、次の3点について、早い段階から対応しておくことが有効といえるでしょう。
(1)支払いの履歴
振込明細や領収書などをすべて保管しましょう。自分から施設や業者へ直接支払っている場合は、その記録が重要な証拠になります。
(2)介護・金銭負担の記録
いつ、何のために、いくら支払ったのかを家計簿や介護日記に併記しておきます。
(3)合意形成の試み
兄に対し「今は私が多めに払うが、将来の相続時にはこの分を考慮してほしい」と伝え、可能であれば書面(合意書)を残しておくのが理想です。
また、2019年に施行された民法改正により、相続人以外の親族(息子の妻など)が被相続人の介護などに貢献した場合も、相続時に一定の金銭(特別寄与料)を請求できるようになりました。このように制度は少しずつ変化していますが、いずれも客観的な「証拠」がなければ権利を主張することが難しい点は共通しています。
相続での「争族」を防ぐカギは、お金の記録と早めのコミュニケーション
「月9万円」という決して安くない介護費を負担し続けることは、ご自身の老後資金を削ることにもつながりかねません。今回のケースのように、兄が「払えない」と言う場合、自身が費用を一時的に負担することは家族として必要な対応のひとつといえます。
一方で、その対応が将来的なトラブルにつながらないよう、現時点から記録の整理や取り決めの明確化など、必要な対策を講じておくことが重要といえるでしょう。
まずは1人で抱え込まず、必要に応じて弁護士や税理士などの専門家に相談して「現在の負担が将来どう評価されるか」をシミュレーションしてみるのもひとつの手です。親孝行の気持ちを大切にしながらも、ご自身の生活を守るための「賢い備え」を始めてみてはいかがでしょうか。
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー
