更新日: 2020.06.11 相続税

新型コロナ危機が「相続税」まで直撃。実勢価格は反映されない

新型コロナ危機が「相続税」まで直撃。実勢価格は反映されない
相続税を納める基準となるのが「路線価」ですが、今年に相続が発生した人にとっては、相続税が実勢価格以上に高い評価額で計算される恐れがあります。
 
新型コロナとは無関係に見えますが、実はそうではありません。「路線価」は毎年7月ころに公表されますが、コロナ危機の影響は反映されずに、実際の取引価格より高い数値で公表されるためです。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

土地の取引価格は急速に下落

今年(2020年)になってから猛威をふるい出した新型コロナウイルスは、生命の危険を人々に植え付けると同時に、世界的に経済活動の大きな停滞をもたらしています。
 
企業活動は大きく縮小しており、それに伴い、土地や住宅の取引価格も下落しています。経済活動全体が大きな危機に直面しています。資金繰りが苦しい企業が、資金を捻出するために土地や建物を売却しようと考えても、思いどおりの値段で売ることはできません。
 
株価もかなり下落しましたが、土地や建物などの不動産価格も下落傾向にあります。特に年初までは、東京オリンピック開催に対する期待感もあり、不動産の価格は高値で推移していました。
 
ところが、新型コロナウイルス感染症が広まり、日本全体での外出制限など自粛ムードが定着すると様相が一変、経済活動の縮小は誰の目にもはっきりとしてきました。
 
これまで企業や個人の多くは、事業活動とは別にある程度の不動産を所有していました。
 
ところが活動自粛が広がり、必要な運転資金を確保するため、不動産を売却しようと考えても、なかなか買い手が見つからない、売れたとしても買いたたかれる、といった事情が見えてきました。実はこの下落の実態が、相続税にはほとんど反映されないのです。

相続税は7月公表「路線価」が基準

不動産などの相続が発生した人は、相続発生後10カ月以内に原則納税する必要があります。2018年以降、相続税の課税限度額が引き下げられており、少ない相続額でも課税対象になり、多くの人が納税することになりました。
 
土地に関する相続税額は、毎年7月公表予定の「路線価」が基準になります。公表される「路線価」が、納税時点での取引の実情を正しく反映していればよいのですが、実はそうではないのです。
 
この「路線価」は毎年7月に国税庁が公表し、土地に関する相続税と贈与税の基準になります。そもそも「路線価」は、国土交通省が3月に公表している「公示地価」をもとに、その約8割とされています。
 
そして「公示地価」は、その年の1月1日時点の、土地の取引価格を参考に決められています。つまり、コロナ危機による土地価格の下落が反映されていないだけでなく、インバウンド効果で地価上昇が続き、東京オリンピックへの期待感で上昇していた時期の価格をもとに算出されているのです。

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「路線価」と実勢価格は大きく乖離(かいり)する?

特に東京では、住宅地・商業地に関係なく、高水準の取引価格をもとに算出された「公示地価」をベース「路線価」が決まります。
 
3月に公表された東京の公示地価は、商業地平均で5%以上、住宅地でも1%以上、前年より上昇しています。他の大都市圏でも前年に比べ微増です。コロナ危機により、土地の取引価格がどの程度下落するかは見通せませんが、かなりの下落率になるのは確実です。
 
「公示地価」はもとより、7月公表の「路線価」もまったく実態を反映していないのです。下落率を織り込んだ路線価が公表されればよいのですが、可能性は低いと思われます。
 
今年に土地を相続した人は、実際には土地の取引価格が下がっているにもかかわらず、高い路線価の基準で相続税を納めることになります。「もし来年の路線価でなら」との話はできませんが、今年に比べて大きく下がるため、少ない納税額で済むことは確実だからです。
 
今年に贈与を考えている人については、来年まで待つことで納める贈与税は少ない額で済むかと思われます。

納税資金の工面にも影響が出る

相続税額が確定すると、それをもとに納税します。その際、手元の資金が少ないときには、土地の一部を売却するなどで、納税に充てる必要があります。
 
ところが、納税額は高い金額で評価されていても、実際に売却しようとすると、下落した価格でしか売却できません。売り急ぐとさらに買いたたかれるかもしれません。課税段階では高水準でも、売却段階では低水準、というダブルパンチに見舞われるのです。
 
今年下落した土地価格が、来年以降急速に回復することは望めません。安い価格でしか売ることができないのです。株式等を売却して納税資金に充てようする場合でも、半年時点の株価と比較すると2割以上下落している銘柄も多く、売却損が生まれます。
 
この際、分割可能であれば、高く評価された状態の土地で物納、という選択肢もあると思います。

不動産の売り手には不利だが、買い手には有利に

この問題の背景には、「公示地価」や「路線価」が実態取引の後追いになるため、すでに下落傾向が明確でも、それが反映されないことにあります。
 
3月に公表された「公示地価」でさえ、上昇地点の陰に隠れていますが、実際は下落地点も多く、特に河川の氾濫や崖崩れの危険がある地域では顕著に下落していました。今後、土地の実勢価格はしばらく下落基調が続くと予想できます。
 
相続税以外にも、不動産取引の面で影響は出てきます。ここ1~2年の間に、高値で戸建て住宅やマンションを購入した人は、住宅ローンの返済計画や将来の売却計画の再検討を迫られるかもしれません。
 
2021年以降、公示地価や路線価も実態に合わせて下落し、保有資産の価値が下落するからです。思いどおりの価格で売却はできなくなるからです。
 
ただ一方で、土地やマンションの購入を現在検討している人にとっては、朗報になるかもしれません。年初に想定した販売価格より確実に下がるため、期待以上に安い価格での不動産の購入が実現できそうです。
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト


 

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