更新日: 2020.04.07 自動車保険
消費税がかからない自動車保険が、なぜ値上がりするのか説明できますか?
もっとも、もともと消費税がかからないものは影響がありません。土地の売買や中古住宅の売買(売り主が個人の場合)、生命保険などです。
損害保険も消費税はかかりません。ところが自動車保険は、時期が異なりますが、値上げされそうです。2020年1月にも、大手損保を中心に3%程度の値上げが予定されています。消費税がかからないのに、どうして値上げするのでしょうか?
執筆者:村井英一(むらい えいいち)
国際公認投資アナリスト
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、日本証券アナリスト検定会員
大手証券会社で法人営業、個人営業、投資相談業務を担当。2004年にファイナンシャル・プランナーとして独立し、相談者の立場にたった顧客本位のコンサルタントを行う。特に、ライフプランニング、資産運用、住宅ローンなどを得意分野とする。近年は、ひきこもりや精神障害者家族の生活設計、高齢者介護の問題などに注力している。
修理費の上昇
生命保険はたいていの場合、保険金額があらかじめ決まっています。「死亡保険金●千万円」「入院給付金●千円」など、加入する時点で選択をするものがほとんどで、保険料は保険金の金額によって異なります。実際にどれだけの費用がかかろうが、損失があろうが、あらかじめ決まった金額の保険金が出ます。
損害保険は違います。実際に被害を受けた損失額が、保険金として出ます。自動車保険であれば、事故による修理費や損害賠償金が保険から出ます。
同じ保険料であっても、損害の程度によって、出る保険金額が異なります。保険会社からすると、自動車の修理費や損害賠償金によって、支出が変わることになります。
この「自動車の修理費」が上昇しているのです。修理工場でも人手不足は例外ではなく、人件費の上昇が修理費の値上げ要因となります。さらに、自動車の性能向上に伴い、部品の価格も上昇しています。このような値上げ要因が相次ぐ中、消費税の引き上げは、確実に修理費の値上げをもたらします。
消費税の引き上げで修理費が上昇すれば、保険金の支出が増え、それは保険料に転嫁せざるを得ません。自動車保険それ自体には消費税はかかりませんが、消費税の引き上げが保険料の値上げに反映されるわけです。
民法改正の影響
2020年4月に予定されている民法改正も、自動車保険に影響します。民法は、民間での契約や相続など、さまざまなやり取りの枠組みを定めた法律です。
そのうち、損害賠償金の算定などに用いる「法定利率」が変更になりました。これまでは原則5%としていたのですが、今後は3%とし、3年ごとに金利情勢に応じて変更することにしました。
交通事故で被害者が死亡または障害で働けなくなった場合には、本来なら得られるはずだった収入に基づいて、損害賠償金額を算定します。ただ、損害賠償金は一括で支払われるため、金利分を差し引くことになります。この金利分の計算に法定利率を使うのです。
法定利率が高いと、差し引く金額が大きくなり、損害賠償金額は小さくなります。今回の民法改正で、法定利率は引き下げとなりました。
ということは、損害賠償金額は大きくなるわけです。2%の違いではありますが、生涯得られるはずの賃金を計算しますので、年齢によっては1000万円以上もの増加となります。
この結果、損害保険会社が支払う保険金は増加し、それは保険料に転嫁せざるを得ません。民法改正が自動車保険の保険料に影響しているのです。
車種による違いが大きくなる
自動車の安全機能の向上と、運転する人の安全運転への意識の向上もあり、自動車事故は減少が続いています。それを受けて、自動車保険の保険料は値下げが続いていました。ただ、修理費の上昇があり、自動車保険の損益状況はひっ迫しています。
今まで値下げが続いていたのですから、値上げへと方向転換するのは、各社の競争を考えると踏み出しにくいものです。民法改正は、どの保険会社も共通に負担増となりますので、各社とも値上げしやすい環境ができたとも言えます。
そして、決定打となったのが消費税の引き上げでしょう。消費税の引き上げで、多くの商品が実質的に値上げとなりますので、保険料が上がってもそれほど目立ちません。
ただ、すべての自動車の保険料が一律で値上げとなるわけではありません。自動車保険は、車種によって保険料が異なります。その算定の基礎となっている「型式別料率クラス」が9クラスから17クラスへと細分化されるようになります。
また、今まで軽自動車は一律だったのが、車種によってクラス分けがされるようになります。車種による保険料の違いも小さくありません。これからは自動車を選ぶ際に、自動車保険の保険料も考慮に入れたいものです。
執筆者:村井英一
国際公認投資アナリスト