生命保険の契約者貸付の利用について、知っておきたいこと

配信日: 2020.06.16

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生命保険の契約者貸付の利用について、知っておきたいこと
「貯蓄タイプの生命保険」を契約している人なら、契約者貸付を利用できます。返済は「お金がある時に支払い、催促なし」です。健康状態が良い時や予定利率の高い契約など、解約して解約返戻金を受け取るのが惜しいという方もいらっしゃるかもしれません。
 
本稿では、保険を解約することなくお金を借りたい、という場合について解説します。
大泉稔

執筆者:大泉稔(おおいずみ みのる)

株式会社fpANSWER代表取締役

専門学校東京スクールオブビジネス非常勤講師
明星大学卒業、放送大学大学院在学。
刑務所職員、電鉄系タクシー会社事故係、社会保険庁ねんきん電話相談員、独立系FP会社役員、保険代理店役員を経て現在に至っています。講師や執筆者として広く情報発信する機会もありますが、最近では個別にご相談を頂く機会が増えてきました。ご相談を頂く属性と内容は、65歳以上のリタイアメント層と30〜50歳代の独身女性からは、生命保険や投資、それに不動産。また20〜30歳代の若年経営者からは、生命保険や損害保険、それにリーガル関連。趣味はスポーツジム、箱根の温泉巡り、そして株式投資。最近はアメリカ株にはまっています。

「貯蓄タイプの生命保険」なら契約者貸付を利用できる?

終身保険や養老保険、個人年金保険、長期の定期保険などには、解約返戻金がある、いわゆる「貯蓄タイプの生命保険」があります。その場合、契約者貸付を利用することができることがあります。

■契約者貸付の利用

生命保険の契約者貸付とは、「解約返戻金を担保にして、生命保険会社からお金を借りる」と言うことです。
 
契約者貸付を利用できる金額の上限は、契約者貸付を利用する時点の解約返戻金の5割~9割が目安です。5割~9割と幅があるのは、商品によって金額が異なるからで、具体的な割合は約款によって定められています。
 
また、下限が定められている場合もあり、契約者貸付の利用回数によっても異なります。例えば、「契約者貸付の利用が1回目なら5万円~、2回目以後は2万円~」と言う具合です。

■低解約返戻金型の生命保険の場合

保険料を払い込んでいる間に解約した場合の返戻率を下げ(=低解約返戻金期間)、保険料の払い込みを終えた後の期間の返戻率を高める、いわゆる低解約返戻金型の生命保険の契約の場合は、次のとおりです。
 
低解約返戻金型の場合、保険料を払込期間の解約返戻金の額が低くなっていますので、契約者貸付を利用できる下限に解約返戻金の額が達していない可能性もあります。また、たとえ契約者貸付を利用できる解約返戻金の額だったとしても、契約者貸付の額が少ないこともあります。

「契約者貸付」のメリットはスピーディーなこと

生命保険の契約者貸付のメリットは、とにかくスピーディーな点です。お金を貸し付ける生命保険会社の方も、解約返戻金という確固たる担保があるわけですから、審査を行いません。
 
例えば、午前中にファックスで契約者貸付の請求書を送ると、当日中か翌営業日には貸付金を振り込んでくれるところもあります。

契約者「貸付」=返済において利息の支払いが必要

貸付というくらいなので、当然返済が必要になりますし、日割りで利息が掛かります。利息の利率は保険会社ごとに定められていますが、契約した時期によっても異なり、予定利率の高い時期の契約は、契約者貸付の利率も高い傾向にあります。
 
また、金利の情勢によって、所定の時期に利率が見直されることもあります。この利息は、1年たつと契約者貸付の借入額に繰り入れられ、複利します。

新型コロナウイルスによる特例

新型コロナウイルスの影響により返済が困難な人に対して、契約者貸付の利息を免除する保険会社もあります。
 
ある保険会社では、今月末までに契約者貸付の利用を申し込んだ場合、今年9月末までの間は利息を免除する、としています。なお、免除は利息だけですから、借りた分は当然返済が必要です。

契約者貸付の返済方法

契約者貸付の返済方法は保険会社により異なりますが、一括や分割での返済の他に、利息のみの返済という方法もあります。また、返済のタイミングや返済の方法などを保険会社に対してあらかじめお約束する(期限を設ける)必要はありません。
 
ただし、留意しなくてはならないのは、振込手数料です。返済の都度、振込手数料を負担する必要があります。つまり、返済の回数が多いと振込手数料の累計が大きくなる可能性があります。保険会社により異なりますので、事前に確認しておきましょう。

契約者貸付に催促は?

契約者貸付には返済の催促はありませんが、利息のお知らせというはがきが届きます。

■契約者貸付を返済せず、放っておくとどうなるのか?

解約する時に、解約返戻金と相殺、つまり契約者貸付の利用額と解約日までの利息の合計が差し引かれて解約返戻金を受け取ることになります。
 
また、保険金を受け取る時も同じで、利用額と解約日までの利息の合計が差し引かれた額を受け取ります。保険金受取人である遺族は、保険証券に書かれた死亡保険金の額よりも少ない金額を受け取ることになります。
 
払済保険や延長保険に変更する場合も、利用額と解約日までの利息の合計を差し引くことを前提に、変更後の保険金を決めます。払済保険や延長保険は、変更前の解約返戻金の額が、変更後の一時払い保険料に充てられるからです。

■オーバーローン

契約貸付を利用した後も契約を続けていれば、解約返戻金の額は増えていきます。
 
ただし、解約返戻金の額が増えるよりも契約者貸付の利息が膨らむスピードのほうが速いので、「契約者貸付の利用額」と「利息の額」を併せた金額が、解約返戻金の額を超えてしまうこともあります。
 
こうなると保険契約は失効してしまいます。このことを「オーバーローン」と言ったりもします。

契約者が法人になっている生命保険でも契約貸付を利用可能

契約者が法人になっている生命保険でも、契約者貸付を利用できる場合があります。契約者貸付の利用の手順や条件等は個人契約と変わりません。
 
ちなみに、法人契約では経理処理(仕訳)が必要になってきます。契約貸付を利用しお金が入金された時は、借方に現預金、貸方に借入金という仕訳です。また、契約者貸付を返済した時には、逆に借方に借入金と利息が、貸方に現預金と記帳します。
 
借入金ですから、契約者貸付を返済せずに決算期をまたぐと、期末の貸借対照表には自己資本比率が低いまま、資産の額が膨らんでしまうことになります。

まとめに代えて

前述のとおり、契約者貸付は「貯蓄タイプの生命保険」を契約している人が利用でき、定期保険や収入保障保険などのいわゆる「掛け捨てタイプ生命保険」を契約している人は、利用できません。
 
契約者貸付を利用する前に考えていただきたいのは、そもそもなぜ貯蓄タイプの生命保険を契約したのか、ということです。解約返戻金をお子さまの教育費やご自身の老後資金などにする予定ではありませんか?
 
解約返戻金に「将来の目的」を持たせているのでしたら、それは大切な契約です。契約者貸付を利用する前に、返済の計画も練っておいたほうが良いでしょう。
 
(参考)三井住友海上あいおい生命「契約者貸付制度のご利用」
 
執筆者:大泉稔
株式会社fpANSWER代表取締役


 

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