介護保険の「負担限度額認定証」って何? 知っておきたい介護サービス費の負担軽減のしくみ
配信日: 2020.08.18 更新日: 2021.08.31
公益財団法人生命保険文化センターの発行している平成30年度「生命保険に関する全国実態調査」によれば、介護費用は介護保険の自己負担分も含め月々平均7万8000円、平均介護期間は54.5ヶ月にも及び、介護費用の平均総額は425万円となります。これは大きな不安を感じる金額です。
介護では公的介護保険が重要な柱となりますが、介護保険を取り巻く環境は日々変化を続けています。今回は介護費用の負担を軽減させる、介護保険の負担限度額認定証について説明させていただきます。
執筆者:菊原浩司(きくはらこうじ)
FPオフィス Conserve&Investment代表
2級ファイナンシャルプランニング技能士、管理業務主任者、第一種証券外務員、ビジネス法務リーダー、ビジネス会計検定2級
製造業の品質・コスト・納期管理業務を経験し、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)のPDCAサイクルを重視したコンサルタント業務を行っています。
特に人生で最も高額な買い物である不動産と各種保険は人生の資金計画に大きな影響を与えます。
資金計画やリスク管理の乱れは最終的に老後貧困・老後破たんとして表れます。
独立系ファイナンシャルプランナーとして顧客利益を最優先し、資金計画改善のお手伝いをしていきます。
介護保険制度の利用料
【介護保険が利用できる人は?】
介護保険は、図表1の人がそれぞれ利用することができます。
【図表1】
【原則として利用した介護サービス費用の1割】
介護保険の負担額は、健康保険と同様に自己負担割合が定められており、自己負担割合は原則として1割となっています。しかし、第1号被保険者(65歳以上)で一定以上の所得がある方は2割負担、特に所得の高い方は3割負担となる場合があります。
・2割負担の判定基準
(世帯に65歳以上が1人または単身者の場合)
年金収入が280万円以上
年金収入とその他の所得の合計所額金額が280万円以上340万円未満
(世帯に65歳以上が2人以上いる場合)
被保険者の合計所得金額が220万円以上で、世帯の65歳以上の人の年金収入とその他の所得の合計所額金額が346万円以上463万円未満の場合
・3割負担の判定基準
(世帯に65歳以上が1人または単身者の場合)
年金収入とその他の所得の合計所額金額が340万円以上
(世帯に65歳以上が2人以上いる場合)
世帯の全体の年金収入とその他の所得の合計所額金額が463万円以上の場合
介護保険の負担限度額認定制度とは
【介護保険施設などを利用するときの負担が減らせる】
介護保険で利用できる介護サービスには大きく分けて施設サービス、居宅サービス、地域密着型サービスの3つがあります。
このうち、施設サービスは、要介護状態にある方が特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの介護保険施設へ入所して受けるサービスですが施設サービス費の他に居住費や食費などの費用も必要となり、費用負担が大きくなりやすい介護サービスといえます。
こうした施設サービスを利用するためには多くの資金が必要となるため、十分な収入・資産を有していないと利用を継続することが困難となってしまいます。
そこで、所得や資産が一定以下の被保険者が介護保険施設を利用しやすくするため、自己負担限度額を超えた居住費と食費が支給される負担限度額認定制度という制度があります。
【軽減対象の費用】
介護保険施設の利用で生じる居住費・食費の自己負担限度額を超えた分の金額が介護保険から給付されます。軽減対象には短期入所(ショートステイ)も含まれるため、施設サービス利用時には積極的な申請・利用をおすすめします。
どんな人が認定を受けられる? 軽減はどれくらい?
【認定を受けるための要件】
介護保険の負担限度額認定を受けるには、所得・資産の状況が重要となります。認定を受けるための目安としては市区町村民税が非課税であることに加えて、資産の額が単身者の場合は1000万円以下、夫婦の場合は2000万円以下であることが求められます。
資産は、タンス預金を含む預貯金や株式などの有価証券、金銀・プラチナなどの換金性の高い貴金属が資産とされます。宝石・腕時計・絵画・骨董品などの評価額の判定が困難なもの、自動車、生命保険は資産とは見なされません。
【要件によって負担限度額が違う】
負担限度額の認定は所得・資産状況によって4段階に区分され、居住費と食費の負担限度額がそれぞれ異なります。
・【図表2】所得による負担限度額の4つの認定区分
・認定区分ごとの自己負担額の例(特別養護老人ホーム、短期入所生活介護の場合)
食費の基準費用日額:1380円
第1段階の自己負担額:300円
第2段階の自己負担額:390円
第3段階の自己負担額:650円
第4段階の自己負担額:1380円
居住費(ユニット型個室)の基準費用日額:1970円
第1段階の自己負担額:820円
第2段階の自己負担額:820円
第3段階の自己負担額:1310円
第4段階の自己負担額:1970円
(厚生労働省HP 介護保険の解説 サービスにかかる利用料 より抜粋)
残念ながら、第4段階の場合は負担限度額の減額対象外となりますが、一定の要件を満たせば、後述する特例減額措置により第3段階の自己負担額を適用される場合があります。
申請の方法
介護保険の負担限度額認定証の申請は居住している市区町村へ申請を行います。申請に必要な書類は自治体によって若干の違いがありますが、基本的には介護保険負担限度額認定申請書と被保険者本人と配偶者の所得・資産を示すための通帳の写しなどの書類の添付が必要となります。
その他に介護にかかる費用を軽減してくれる仕組み
【高額介護サービス費とは】
介護保険の自己負担額は被保険者の所得によって図表3の4段階に区分され、月々の介護サービス費が設定された自己負担額を超過した場合、その超過分が介護保険から支給されます。
・【図表3】所得による4つの設定区分と自己負担額
*「世帯」とは、住民基本台帳上の世帯員で、介護サービスを利用した方全員の負担の合計の上限額。「個人」とは、介護サービスを利用したご本人の負担の上限額。
(厚生労働省HP 介護保険の解説 サービスにかかる利用料 より※)
また、以前は自己負担額の年間上限も設定されていましたが、2020年7月31日をもって制度は終了しています。
【特例減額措置】
介護保険の負担限度額の認定は所得・資産によって4段階に区分されますが、第4段階では負担限度額は減額されません。しかし、図表4に示す6つの要件に当てはまる場合、特例減額措置として第4段階でも第3段階の減額を得ることができます。
・【図表4】特例減額措置の要件
まとめ
負担限度額認定制度は収入・資産が一定以下の被保険者が介護保険施設を利用する場合、負担限度額を超えた居住費・食費が支給される制度です。介護の場所としてご自宅を選択されることも多くありますが、居宅サービスでは十分な介護が提供できない場合もあります。
介護保険の限度額認定証を受けることができれば介護費用を大きく節約することができる場合がありますが、所得・資産によっては利用できない場合もあります。資産として見なされない生命保険などを上手に活用し、介護保険による支援を十全に活用できるよう準備を進めてみてはいかがでしょうか。
[出典]
公益財団法人 生命保険文化センター「平成30年度生命保険に関する全国実態調査〈速報版〉」
※厚生労働省「サービスにかかる利用料」
執筆者:菊原浩司
FPオフィス Conserve&Investment代表