更新日: 2023.02.18 その他保険
会社から仕事中のけがに健康保険を使うよう促された…。これって「労災かくし」ですか?
これはいわゆる「労災かくし」なるものに類されるのでしょうか。仕事中のけがの取り扱いについて考えていきます。
執筆者:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士
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2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。
労災とは
まずは労災の定義について確認していきます。労災とは労働災害の略で、業務中や通勤中に負傷や疾病を被ることをいいます。例えば、業務中に工場の機械でけがをしたり、通勤中に階段で転んで身体を痛めたり、といったことです。
このような労災によるけがや病気の治療においては、労働者の請求に基づき、労災保険から必要な保険給付が行われることになっています。従業員を一人でも雇用していれば、会社には労災保険への加入が義務付けられています。雇用されている従業員は正社員やアルバイトなどの雇用形態を問わず、この労災保険による補償の対象になります。
労災かくしはなぜ起こる?
仕事中に負ったけがの治療に、労災保険の申請をせず健康保険を使うよう促された場合、これはいわゆる「労災かくし」に該当すると考えられます。労災かくしとはその名のとおり、労災が発生したことを報告しない、または虚偽の報告をするなどして、意図的に隠すことをいいます。
労災が発生し、けがの治療に労災保険を使用する際は、労働基準監督署に労災を報告しなければなりません。
しかし、労災保険の請求には所定の手続きが必要であることや、会社によっては労災保険の利用によって保険料が上がるといった理由から、労災かくしが起こることはままあります。他にも、事故が明るみに出て社会的信用が低下することや、何らかの罰則が下ることを恐れている場合もあります。
また、労働基準監督署の監査や指導が入ることへの抵抗や、そもそも労災に未加入ということもあるようです。なお、労災かくしはれっきとした犯罪行為であり、絶対にあってはならない行為です。
そもそも労災に健康保険は使えない
そもそも、労災による病気やけがに対して健康保険を使うことはできません。万が一労災に健康保険を使ってしまうと、状況によっては非常に面倒なことになりかねません。
健康保険を使用してしまった場合、まず受診した医療機関に健康保険から労災への切り替えが可能であるか確認します。切り替えが可能であれば、所定の請求書を提出することで、支払った金額について返金が受けられます。しかし、切り替えができない場合は、一時的に医療費を全額自己負担した上で、労災保険の請求をしなければなりません。
医療費の支払いや労災保険の請求には、加入している健康保険組合から送付される返還通知書や診療明細書などが必要となりますが、これらが送られてくるまで通常2ヶ月から3ヶ月程度かかってしまいます。その後、労働基準監督署へ必要書類を提出し、労災保険を請求することになります。
このように、労災に健康保険を使ってしまうと非常に手間暇がかかってしまいます。誤って使わないよう、注意しておきましょう。
労災かくしに遭った場合はどうすればいい?
もし、仕事中のけがに対して健康保険を使うよう促されてしまったときは、会社に対して労災の使用を申し出てください。
申し出に応じてもらえない場合は、勤務先の所在地を管轄する労働基準監督署に相談してください。正しく労災を適用するよう、労働基準監督署から事業主に対して確認や指導が入ります。相談する際は、給与明細など雇用関係の分かる書類があるとスムーズに進むでしょう。
仕事中のけがに健康保険を使うよう促す行為は「労災かくし」です
仕事中のけがに健康保険を使うよう促されたときは、「労災かくし」であると判断し、会社に労災を使用したいと申し出るようにしましょう。
労災かくしはれっきとした犯罪行為であり、決して許されるものではありません。労災や労災かくしについて悩みや困ったことがあれば、会社の所在地を管轄する労働基準監督署へ相談してみましょう。
執筆者:柘植輝
行政書士