更新日: 2019.01.10 その他保険

もし、激務で倒れて働けなくなったら… 労災で受けられる給付の種類と障害手当金の落とし穴

もし、激務で倒れて働けなくなったら… 労災で受けられる給付の種類と障害手当金の落とし穴
お孫さんの教育資金のことで相談に来たAさん。
 
ふとしたことから、「随分前のことだけどね……」と亡くなられたご主人の話をされ、時間いっぱいその話になってしまいました。
 
林智慮

Text:林智慮(はやし ちりよ)

CFP(R)認定者

確定拠出年金相談ねっと認定FP
大学(工学部)卒業後、橋梁設計の会社で設計業務に携わる。結婚で専業主婦となるが夫の独立を機に経理・総務に転身。事業と家庭のファイナンシャル・プランナーとなる。コーチング資格も習得し、金銭面だけでなく心の面からも「幸せに生きる」サポートをしている。4人の子の母。保険や金融商品を売らない独立系ファイナンシャル・プランナー。

脳梗塞で倒れるが……

ご主人がお勤めしていた建設会社の社長とは同世代で仲が良く、家族ぐるみの付き合いだったそうです。ご主人は、会社のために仕事一筋、休みもほとんど取らず一生懸命に働いていたそうです。
 
そんなある日、現場で倒れ救急車で運ばれました。診断は脳梗塞。会社での激務が原因かと思われるのですが、はっきりした因果関係はわかりません。労災は申請してくれるなと社長から懇願されたので申請はしなかったそうです。
 
休職扱いで無給になりましたが、傷病手当金をもらっていました。労災保険から給付を受けるには、労働基準監督署で「業務災害」または「通勤災害」に該当すると認定されなければなりません。
 

労災認定されたらどんな給付が得られたのでしょうか?

もし、労災に認定されれば、以下のような給付を受けられます。
 
【療養(補償)給付】
労災病院または指定医での療養は、自己負担なしで受けられます。それ以外の病院の場合、療養に要した費用を償還払いされます。
 
【休業(補償)給付】
傷病による療養のため、賃金を受けられない日が4日以上に及ぶ場合は、休業補償給付、休業特別支給金が支給されます(業務災害の場合は、事業主が保険から支払われない3日分の休業補償をすることになります)。
 
【傷病(補償)年金】
休業補償給付を受けている者が、療養開始後1年6カ月を過ぎても治らず、障害の程度が傷病等級の1級から3級に該当する場合は、労働基準監督署の決定により、休業給付に代えて傷病補償年金が支給されます。
 
【障害(補償)給付】
障害が治癒したときに一定の障害が残った場合に、障害補償年金または障害一時金が支給されます。
 
ほかに、遺族(補償)給付、葬祭料、介護(補償)給付、二次健康診断等給付があります。
※通勤災害の場合は(補償)の文字を抜いて読みます。
 

肘に麻痺が残ってしまった

そして、発症から1年5カ月。リハビリを頑張ってきたので、指を動かすことや、ゆっくりであれば歩くこともできるようになりました。しかし、左肘が未だに動きません。日常のことは何とか自力でできます。
 
まもなく傷病手当金の給付が終わります。仕事に復帰することを望みますが、「通常の業務ができないなら、すまないが会社を辞めて欲しい」と社長に言われてしまいました。当時、老齢年金の受給開始は60歳から。Aさんのご主人は58歳。これから働いてもあと2年。転職しようにも、この年齢とこの状態では探すのは難しい。
 
会社は、早く老齢年金の手続きをしたほうが良いと言ってきます。傷病手当金もあと1カ月で終わります。生活が不安になったAさんは、年金事務所で繰り上げ受給年金の手続きをしてしまいました。
 

繰り上げ受給したばかりに

実は、Aさんのご主人は、障害手当金に該当したのです。障害年金として受け取れる1級から3級には該当しない場合に、障害の程度により一時金として受け取ることができる制度です。
 
歩けるし、日常生活は手助けなくできるので、障害年金は無関係だと思っていたのです。
 
国民年金の障害基礎年金は2級までしかありませんが、障害厚生年金は3級、さらに障害手当金があります。
 
障害手当金は、障害厚生年金3級(報酬比例年金額、最低保障額584,500円)の2年分を一時金で受け取ることができます。平成30年の場合、最低でも1,169,000円を一時金で受け取れます。
 
初診日から1年6カ月を経過した日が障害年金の認定日(症状により、その前に認定する場合もあります)なのですが、その前に老齢年金受給の手続きをしてしまったのです。
 
繰り上げ受給権は請求書が受理された日に発生し、その後取り消すことができなくなります。障害認定日には老齢厚生年金を受け取る状態なので、障害手当金は受け取れなくなりました(厚生年金保険法第56条)。
 
「思い出す度に悔しい。障害年金のことを会社が教えてくれたら。そうでなくても、会社が老齢年金を急がせなかったら。その会社もなくなっているし、どうしようもない」と言われました。「本当に、知らないことは損だね」とも。
 
障害を負うことになってしまった。でも、こんなことでは障害年金に該当しないのでは……と思わずに、まずは年金事務所で相談してみましょう。
 
Text:林 智慮(はやし ちりよ)
CFP®認定者
相続診断士 
終活カウンセラー 
確定拠出年金相談ねっと認定FP

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