「健康保険料」はこんなに引かれるの…? 何がそんなに高くなっているのですか?
本記事では、健康保険に関する最新の動向を取り上げていきます。
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。
ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。
FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。
2023年7月PHP研究所より「70歳の現役FPが教える60歳からの「働き方」と「お金」の正解」を出版し、好評販売中。
現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。
早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。
サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow
健康保険料率の上昇(協会けんぽ・組合健保 など)
日本の公的医療保険制度である健康保険は、大きく分けて「全国健康保険協会(以下、協会けんぽ)が運営する被用者保険」と「健康保険組合(組合健保)が運営する被用者保険」に分かれます。
協会けんぽは主に中小企業の従業員・家族が加入し、組合健保は大企業や業界別に設立された組合が運営しています。いずれの保険でも近年、少子高齢化や医療費の拡大、後期高齢者医療への支援金増加といった要因を背景に、保険料率が上昇傾向にあります。ここでは、その主な理由や仕組み、影響について解説します。
まず、健康保険制度において保険料が引き上げられる理由の一つとして挙げられるのが、医療費全体の増加です。
特に高齢者人口の増加に伴う医療費の伸びは顕著で、医療技術の進歩により治療の高度化・長期化が進んでいることも要因の一つです。
健康保険では、加入者同士がお金を出し合い、必要なときに医療サービスを受けられるようにする「相互扶助」の仕組みが基本となりますが、支出が増えれば保険財政は窮迫します。その結果、保険料率の引き上げや、給付内容の見直しを検討せざるを得なくなります。
協会けんぽの場合、保険料率は全国一律ではなく都道府県単位で設定され、毎年度見直されることになっています。これは地域差のある医療費水準に合わせて財政を調整するためであり、医療費が高い地域では相対的に保険料率が高くなるケースがあります。
近年では、全国平均で10%を上回る都道府県も珍しくなく、2009年頃に9%台後半であったことと比較すると、かなりの上昇幅となっています。
一方、健康保険組合(組合健保)でも、高齢者医療制度への拠出金の増大や加入者数の減少が組合財政を圧迫しており、結果的に保険料率アップや付加給付の削減などが行われる例が増えています。
「介護保険料」の上乗せも負担増の原因に
被保険者の負担増に拍車をかけるのが、40歳以上65歳未満の方が支払う「介護保険料」の上乗せです。医療保険の保険料に介護保険料分が上乗せされる形となるため、40代に入ると保険料率がさらに高くなる仕組みです。
実際、国全体として要支援・要介護認定者が増え続けているため、介護保険への財源拠出額は増大傾向にあり、将来的にも負担の軽減は見込みにくいといわれています。
保険料は企業と労働者が折半で負担していますが、こうした保険料率の上昇は、労働者個人にとっては手取り収入の減少という形で実感されやすくなります。また、中小企業では、保険料の負担が増えることで、企業経営にも直接的な影響を及ぼします。
特に新型コロナウイルス感染症の拡大による経営環境の悪化が重なった時期には、保険料のさらなる引き上げを回避するために各保険者(協会けんぽや健保組合)が財源確保に苦慮してきた経緯があります。
しかし、高齢者への医療給付費増大や、医療先進国として質の高い医療提供体制を維持する必要性を考慮すると、短期的に保険料率が下がる見通しは立ちにくいのが現実です。そのため、健康保険全体の仕組みとしては、より効率的な医療費の使い方や予防医療の推進、医療機関の機能分化などを通じて、少しでも支出増を抑えていく施策が模索されています。
また、保険者(協会けんぽ・組合健保)ごとに特定健康診査(いわゆるメタボ健診)や健康指導などの保健事業を強化することで、長期的に生活習慣病などの医療費を抑制しようと取り組む事例も増えています。
以上のように、健康保険における保険料率上昇は、医療費増加や高齢者医療への支援拡大を背景とした構造的な問題といえます。特に協会けんぽでは地域別料率により地方の財政負担が大きくなる傾向があり、一方の健康保険組合では組合独自の付加給付を維持しづらい状況に直面しているケースが多くなっています。
負担増の流れは今後も続く見込みであり、個人・企業の双方がその影響を受けることになります。社会保険制度を持続可能にしていくためにも、国や保険者、事業主、被保険者が連携して医療費抑制や予防活動に取り組んでいくことが、ますます重要になっているといえるでしょう。
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー