中小企業で「パート」をしています。「社会保険」に入らないといけないのはなぜでしょうか?

配信日: 2025.05.06 更新日: 2025.07.01
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中小企業で「パート」をしています。「社会保険」に入らないといけないのはなぜでしょうか?
短時間労働者への社会保険の適用拡大とは、主に週20時間以上働く短時間労働者も社会保険に加入させようとする政策です。これは2016年、従業員数501人以上の企業から適用を開始し、2024年10月には従業員数51人以上の企業で働く短時間労働者に対しても適用されるようになっています。
 
これに伴い、パートタイム主婦などの短時間労働者は夫の扶養が認められなくなり、自ら健康保険・厚生年金保険に加入し、保険料を負担せざるを得なくなるため、働き控えの原因にもなっています。
 
本記事では、その概要を解説していきます。
浦上登

サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー

東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。

現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。

ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。

FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。

2023年7月PHP研究所より「70歳の現役FPが教える60歳からの「働き方」と「お金」の正解」を出版し、好評販売中。

現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。

早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。

サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow

社会保険適用拡大の動き

健康保険と厚生年金保険は、一般的に「週の所定労働時間が正社員の4分の3以上」を満たす雇用者が被保険者となる仕組みでした。しかし、近年の労働市場ではパートタイムやアルバイトなどの非正規雇用が拡大し、社会保険未加入の人々が増えることで老後の年金格差や医療保障の不十分さが社会問題化してきました。
 
そこで政府は「適用拡大」と呼ばれる改正を段階的に進め、短時間労働者であっても一定要件を満たせば健康保険・厚生年金に加入できるよう変更を行っています。
 
この適用拡大の具体的な内容として、2016年10月に、まず従業員501人以上の企業で働くパート・アルバイトなどに対して、週20時間以上勤務、月収8.8万円以上(年収で106万円以上程度)といった要件を満たす場合に健康保険・厚生年金の被保険者資格を付与する措置が導入されました。
 
それまでは「週30時間以上」勤務が大まかな目安とされていたため、週20時間台の人々は社会保険に入れないケースが多かったのです。この改正により、働く時間は短いが一定の収入を得ている人の社会保険未加入状態が解消される道が開かれました。
 
さらに2022年10月からは、対象となる事業所の規模要件が「従業員101人以上」にまで引き下げられました。これにより、もともと501人以上規模の大企業のみならず、中堅企業にも適用されるようになりました。さらに2024年10月には「従業員51人以上」の企業にまで拡大されました。
 
要するに、段階的に適用の裾野を広げていくことで、パートやアルバイトなどの短時間労働者をより幅広く社会保険に取り込もうとする政策が進行しているわけです。
 

社会保険適用拡大のメリットとデメリット

適用拡大は、短時間労働者にとってメリットとデメリットの両面があります。
 
社会保険加入により、将来の年金受給額が増え、病気やけがで休業した際の傷病手当金、出産時の出産手当金などが受け取れるようになるといった安心感が得られます。
 
さらに、保険料は基本的に事業主と労働者が折半するため、加入者個人が全額を支払う国民年金や国民健康保険より負担が軽減されます。トータルで見れば、負担額に対して手厚い保障を受けられるという利点もあります。
 
一方で、月収8万8000円以上を得る短時間労働者にとっては、保険料を新たに支払わなくてはならないため、手取り収入は減少する可能性があります。とりわけ、配偶者の被扶養者になっていた人が自身の働き方を変えることで扶養範囲を外れる場合、「扶養の壁」などと呼ばれる収入調整の問題も発生します。
 
これは、個人の家計状況によっては大きな懸念材料となるため、実際には週20時間未満の働き方を選択して適用拡大の対象外となる人が増えるなどの影響も懸念されています。これが、いわゆる「働き控え」です。
 
企業側にとっても、短時間労働者の社会保険加入に伴い、事業主負担分の保険料が増大するという課題があり、中小企業にとっては負担増をどう吸収するかが経営上の大きなテーマになります。
 
また、人材確保や従業員の処遇向上という面では、適用拡大に合わせて正社員への登用制度を整えたり、パート・アルバイトの希望に応じてシフト調整を行ったりするなど、対応が複雑化するケースも少なくありません。
 
このように、短時間労働者の社会保険適用拡大は、労働者保護と負担増というトレードオフを伴いながら進行しています。高齢化が進むなかで、国民全員がなるべく均等に社会保険の恩恵と負担を分かち合う仕組みを整えることは重要ですが、現実には所得・労働形態による格差や、企業経営への影響といった課題も多岐にわたります。
 
今後、さらなる拡大が予定されていることで、多くのパートやアルバイトを抱える企業や、扶養範囲内で働きたいと考える個人にとっては、働き方や収入の設計に一層の検討が求められる状況となっているのです。
 

適用拡大の今後の動き

以下に示すのは、2025年2月時点での適用拡大の対象となる短時間労働者についての5条件です。

1. 労働時間:週20時間以上
2. 賃金:月8万8000円以上(年105万6000円)
3. 勤務時間:2ヶ月超雇用の見込み
4. 学生でないこと
5. 従業員数50人超の企業

現状では、社会保険に加入しなくてはならない短時間労働者は、5条件を全て満たした方ですが、今後は次のような予定が組まれています。

1. 2026年10月には年収条件が外れます。すなわち、従業員51人以上の会社に勤める短時間労働者は、年収106万円以下でも社会保険に加入する義務が出てきます。
 
2. 2027年10月以降には、従業員数制限もなくなる予定です。すなわち、従業員50人以下の企業に勤めていても社会保険に加入する義務が生じます。この時点で、あらゆる会社に勤めている短時間労働者は週20時間以上働くのならば、社会保険への加入義務が生じることになります。

上記のとおり、今後は短時間労働者でも、社会保険に加入の義務があり、働き手の扶養に入ることは大幅に制限されるということになります。
 

出典

厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト
 
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー

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