2025年8月から高額療養制度の限度額が「8000円」余り引き上げ!? 今後どう変わるのでしょうか?
この制度は、所得や年齢等によって異なる負担上限額を設定し、患者の経済的負担を軽減することを目的としている制度です。いわば、医療費が青天井にならないように、公的医療保険が支えてくれる制度で大変優れた制度といってよいでしょう。
ところが、2024年12月に厚生労働省は高額療養費の限度額を引き上げることを決定しました。がん患者関連団体などからの反対を受け、2025年8月からの引き上げは見送る方針となりましたが、いずれにしても、今後の動きを注意深く見守る必要があります。
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。
ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。
FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。
2023年7月PHP研究所より「70歳の現役FPが教える60歳からの「働き方」と「お金」の正解」を出版し、好評販売中。
現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。
早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。
サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow
高額療養費制度とは?
日本の医療保険制度では、病院や診療所などで診療を受けた際、まず窓口で医療費の一部を自己負担し、残りは保険者(健康保険組合や国民健康保険など)が支払う仕組みになっています。しかし、重い病気や大きな手術、長期入院などで医療費が高額になった場合、自己負担額が家計に大きな負担をもたらす恐れがあります。
そこで、1ヶ月間(暦月:1日から末日まで)の自己負担額が所得区分に応じた限度額を超えたとき、その超過分を後日払い戻すのが高額療養費制度です。現在では、前もって「限度額適用認定証」を取得しておけば、限度額を上回った分を立て替える必要もなくなっています。
限度額の基準は主に「70歳未満」と「70歳以上」で大きく区分され、さらに所得水準によっていくつかの区分に分けられます。例えば、所得が高い人ほど限度額が高く設定され、所得が低い人ほど限度額が低く設定されるという仕組みです。
また、70歳以上になると自己負担割合が2割または3割に変わり、限度額も別の基準が適用されます。さらに、同じ世帯内で複数の医療費が合算できる場合や、特定の疾病に対して特例措置が設けられていることもあります。
高額療養費の申請方法は、加入している医療保険や受診状況によって若干異なりますが、基本的には医療費を支払った領収書やレシートを基に手続きを行います。多くの場合、医療機関を受診して自己負担額が限度額を超えた後、保険者に所定の申請書と領収書の写しを提出します。保険者の審査を経て支給が決定されると、銀行口座等に払い戻される仕組みです。
なお、1ヶ月の医療費が高額になることがあらかじめ分かっている場合や、高額療養費の申請を簡便化するためには、「限度額適用認定証」の活用が有効です。これは、所得区分や被保険者資格を保険者に確認してもらい、発行してもらう書類です。
この認定証を医療機関の窓口で提示すると、その月の会計時点で自己負担限度額までの支払いで済むようになります。結果として、後から高額療養費を申請する手間が減り、大きな出費をいったん立て替える必要が少なくなるメリットがあります。
一方で、高額療養費制度には対象外となる費用もあります。例えば、差額ベッド代(個室や特別室の利用に伴う追加料金)、先進医療にかかる費用の保険適用外部分、入院中の食事代やパジャマ・シーツなどのレンタル費用などは、原則として高額療養費の算定対象外です。
また、月をまたいで入院した場合は月単位で計算されるため、入院が長引くと対象月が複数に分かれるケースもあり、支給を受ける際には注意が必要です。
高額療養費制度限度額引き上げの動き
現状では見送ることとなりましたが、当初、厚生労働省は一月当たりの高額療養費の上限額を、図表1のとおり2025年8月から2027年8月にかけて、段階的に引き上げる方針を打ち出していました。
2025年8月における負担の上限額引き上げは、年収770万円から1160万円では、2万円余り引き上げて18万8400円程度。年収1160万円以上では、4万円近く引き上げて29万400円程度にするとしています。そして、2026年8月から2027年8月にかけては年収の区分をさらに細かくし、段階的に上限額を引き上げる方針です。
詳細は、図表1を参照にしてください。
図表1
| 2025年8月からの負担上限額(70歳未満) | ||
|---|---|---|
| 年収 | ひと月当たり | 上昇幅 |
| 住民税非課税 | 3万6300円 | 900円↑ |
| ~約370万円 | 6万600円 | 3000円↑ |
| 約370万円~ | 8万8200円程度 | 8000円余↑ |
| 約770万円~ | 18万8400円程度 | 2万円余り↑ |
| 約1160万円~ | 29万400円程度 | 4万円近く↑ |
厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」より筆者作成
具体的には、▼年収370万円から770万円の場合は負担の上限額を今より8000円余り引き上げて8万8200円程度に、▼年収770万円から1160万円の場合は2万円余り引き上げて18万8400円程度に、▼年収1160万円以上の場合は4万円近く引き上げて29万400円程度にするなどとしています。
図表2
| 2027年8月からの負担上限額(70歳未満) | |
|---|---|
| 年収 | ひと月当たり |
| 住民税非課税 | 3万6300円 |
| ~約200万円 | 6万600円 |
| 約200万円~ | 6万9900円 |
| 約260万円~ | 7万9200円 |
| 約370万円~ | 8万8200円程度 |
| 約510万円~ | 約510万円~ |
| 約650万円~ | 13万8600円程度 |
| 約770万円~ | 18万8400円程度 |
| 約950万円~ | 22万500円程度 |
| 約1040万円~ | 25万2300円程度 |
| 約1160万円~ | 29万400円程度 |
| 約1410万円~ | 36万300円程度 |
| 約1650万円~ | 44万4300円程度 |
厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」より筆者作成
そして2026年8月からは、年収の区分をさらに細かくしたうえで、2026年と2027年の2段階で上限額を引き上げ、例えば▼年収650万円から770万円の場合は、最終的に13万8600円程度に、▼年収1650万円以上の場合は44万4300円程度にするとしています。
高額療養費制度限度額引き上げの見直し
前述のとおり、高額療養費制度の見直しについて、2025年8月からの引き上げは見送る方針となりました。政府は制度について改めて検討し、秋までに結論を出したいと表明しています。
これはまずは朗報ですが、全面撤回というわけではないので、今後厚生労働省がどんな条件を付けてくるかを見守る必要があります。
出典
厚生労働省 高額療養費制度の見直しについて
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー