雇用保険料が急上昇…。「給与が増えても手取りが減る」働き手のリアルな実感とは?
本記事では、そのなかでも最も多くの企業が該当する「一般の事業」における被保険者(労働者)および事業主負担分の推移を詳細に見ていきます。
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。
ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。
FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。
2023年7月PHP研究所より「70歳の現役FPが教える60歳からの「働き方」と「お金」の正解」を出版し、好評販売中。
現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。
早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。
サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow
「一般の事業」における被保険者(労働者)および事業主負担分の推移
2022年度から実施された雇用保険料率の段階的引き上げは、新型コロナウイルス感染症の影響による雇用調整助成金などの給付拡大で悪化した雇用保険財政を回復させるための措置でした。
具体的な料率は「一般の事業」「農林水産・清酒製造の事業」「建設の事業」の3区分それぞれで異なりますが、ここでは最も多くの企業が該当する「一般の事業」における被保険者(労働者)および事業主負担分の推移を中心に説明します。
1. 2022年3月までの料率(改定前)
・労働者負担分:0.3%
・事業主負担分:0.6%
・合計:0.9%
新型コロナの感染拡大以前から続いていた標準的な雇用保険料率は0.9%でした。ここから、コロナ禍に伴う大幅な給付増加を受けて、2022年度に入ると急きょ、料率が見直されることになります。
2. 2022年4月~9月の料率
・労働者負担分:0.3%
・事業主負担分:0.65%
・合計:0.95%
3. 2022年10月~2023年3月の料率
・労働者負担分:0.5%
・事業主負担分:0.85%
・合計:1.35%
2022年4月1日から9月30日までの間は、まず事業主負担分が従来の0.6%から0.65%へと引き上げられました。
その後、2022年10月1日から2023年3月31日までの間は、労働者負担分が従来の0.3%から0.5%へ、事業主負担分も0.65%から0.85%へ拡大し、合計料率は1.35%となっています。給付拡大による財政悪化を考慮すると一気に引き上げる必要があったものの、負担が急増することを懸念し、このような「段階的措置」が採用されました。
4. 2023年4月~2024年3月、2024年4月~2025年3月の料率
・労働者負担分:0.6%
・事業主負担分:0.95%
・合計:1.55%
2023年4月1日からは、さらに労働者負担分が0.6%、事業主負担分が0.95%まで引き上げられ、合計で1.55%という水準になりました。2022年下半期に比べると、労働者・事業主ともに負担がさらに増える結果となります。こうした段階的な引き上げは、急激な負担増を緩和しつつ、必要な財源を確保するための策といえます。
なお、雇用環境の改善などを受け、2025年度の雇用保険料率は労働者負担が0.55%、事業主負担が0.9%へと引き下げられ、合計で1.45%となっています。
引き上げの背景と影響
雇用保険料の引き上げには、背景として新型コロナによる財政悪化が大きく影響していると考えられます。その影響は、労働者の手取り減少や企業の人件費増加として表れており、特に中小企業や一部業種には深刻な負担となっています。本章では、こうした引き上げの要因とその影響について詳しく見ていきます。
雇用保険財政の悪化
最大の要因は、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う雇用維持策です。雇用調整助成金や休業支援金・給付金など、企業や労働者を支える給付が大幅に増えた結果、雇用保険の積立金は急速に減少しました。
特にコロナ禍初期は、解雇を抑制するために雇用調整助成金の支給基準が大幅に緩和・拡充され、想定外の規模で支出が膨らんだことが財政難を深刻化させました。
労働者への影響
被保険者負担分が0.3%から段階的に0.6%まで倍増したため、給与から天引きされる雇用保険料が増え、手取りの減少につながります。コロナ禍で収入が不安定化しているなかで、雇用保険料の引き上げは家計を圧迫するとの声も少なくありません。
事業主への影響
事業主も、労働者と同様に料率アップ分を負担する必要があります。人件費が高騰することで経営上の負担が増すため、中小企業や感染症の影響が長引いている業種ほど苦しい状況に追い打ちをかける形になります。実際、飲食・観光など一部業種では業績が十分に回復せず、加えて人件費負担も重くなることで厳しい経営環境が続いているのが現状です。
雇用保険のセーフティーネット機能と今後
雇用保険は失業時だけでなく、育児休業給付や介護休業給付など、労働者が働き続けやすい環境を整えるための重要な役割を担っています。また、今回のような非常時には雇用調整助成金などを通じて失業の発生を抑える機能も果たすことが期待されます。制度を安定的に運営していくためには、必要な財源を確保しておくことが避けて通れない課題です。
ただし、雇用保険料の引き上げは、労働者・企業ともに経済的負担を増やすため、いつどの程度の引き上げを行うかは慎重に検討されるべきテーマでもあります。特にコロナ禍の長期化や物価上昇、世界的な景気変動など、先行きが見通しにくい状況のなか、財政と給付内容のバランスをどのように調整していくのかが今後の大きな論点となるでしょう。
以上のように、2022年度からの雇用保険料率引き上げは、主として雇用保険財政の急激な悪化に対応するために実施されました。労働者負担分は0.3%から0.5%、さらに0.6%へ、事業主負担分も0.6%から0.65%、0.85%、さらに0.95%へと段階的に引き上げられ、合計率は0.9%から最終的には1.55%まで上がりました。
コロナ禍という未曽有の事態を乗り切るための財源確保という側面はあるものの、短期間での負担増は多くの企業や家計に大きな影響を与えたことでしょう。2025年度現在、雇用保険料率は労働者負担が0.55%、事業主負担が0.9%へと引き下げられ、合計で1.45%となりましたが、今後も保険財政と給付のあり方を含めた継続的な検討が求められます。
まとめ
健康保険や雇用保険は緩やかながら値上げ傾向にあり、厚生年金保険料も高額収入者からより多くの保険料を取るべく組み換えが行われています。
それに加えて、社会保険の適用拡大により、従来は被保険者の扶養で社会保険に入ることができたパートタイムの方などが、自らの収入で社会保険料を負担するようになる制度の組み換えも行われています。この動きは、会社や自営業者として働く個人だけでなく、会社の経営を圧迫する要素にもなっています。
今後も社会保険の動向について、注視する必要があるでしょう。
出典
厚生労働省 雇用保険料率について
執筆者 : 浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー