大雨で「地下駐車場の車270台」が水没…管理者に“責任”は問える? 自動車保険で補償はされる?「全損・修理扱い」の違いとは
地下駐車場という都市部特有の利便性の裏側には、大雨時の大きなリスクが潜んでいるのです。今回はこの事案をもとに、車が水没した際の補償の仕組みについて解説します。
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四日市で起きた地下駐車場の水没被害
2025年9月、三重県四日市市を襲った大雨により、地下駐車場「くすの木パーキング」が大規模な浸水被害を受けました。
報道によれば、地下2階部分の水深は一時5メートルを超え、約274台の車が水没。所有者の確認作業が進められ、9月29日からはようやく被害車両の搬出作業が始まっている中で、被害の大きさと補償の行方が注目を集めています。
都市部の駅前などに多い地下駐車場は、利便性の高さから利用者が多い一方、大雨による浸水リスクを抱えている点が改めて浮き彫りになりました。
自動車保険で補償される?
今回の大雨で水没してしまった車に対する補償はどうなるのでしょうか。自動車保険の観点から確認していきましょう。
車両保険に加入していれば補償対象になる可能性大
今回のような集中豪雨による水没被害は、任意加入の自動車保険の「車両保険」に加入していれば補償対象となるのが一般的です。逆に、車両保険に入っていない場合は補償を受けられず、修理や買い替えを自費でまかなうことになります。
全損扱いと修理扱いの違い
浸水の程度によっては、修理が可能かどうかで扱いが変わります。修理費用が車の時価額を下回れば修理対応となりますが、費用が上回ると「全損」と判断され、時価額に応じた保険金が支払われます。
地下で完全に水没した車は、電装系やエンジンに深刻なダメージが及び、全損扱いとなるケースが多いと考えられます。
免責金額や等級ダウンに注意
保険を使う場合、契約に定められた免責金額が差し引かれたり、翌年の等級が下がって保険料が上がったりすることがあります。被害が大きい場合は迷わず保険を使うべきですが、軽微な損害であれば、将来の保険料負担を踏まえて判断することも重要です。
駐車場管理者に責任を問えるか
今回は、民間の駐車場に駐車していることで発生した事案ですが、車に対する補償を、駐車場を管理しているものに問えるのかということも争点となりそうです。どのような点を問えるのでしょうか。
管理不備や過失があった場合
1つの補償の可能性として、駐車場の管理者責任があります。排水設備の不具合や過去の浸水履歴を把握していながら十分な対策を採っていなかった場合には、管理者に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
契約条項や不可抗力の主張でハードルは高い
実際に管理者に賠償を求められるかどうかは、難しい問題といえます。
多くの駐車場契約には「水害等による損害については責任を負わない」といった免責条項が含まれており、今回のような記録的豪雨は「不可抗力」とみなされることもあります。実際に賠償が認められるには、管理者側の明確な過失を立証する必要があります。
被害を受けた場合に取るべき行動
愛車がこのような被害を受けた場合、どのように行動すれば良いかまとめました。
保険会社への早期連絡
浸水被害に遭ったら、まずは加入している保険会社に早急に連絡をしましょう。事故受付の期限を過ぎると、補償が受けられない恐れがあります。
写真・動画などの被害記録
被害状況を写真や動画で残すことも重要です。水の深さ、車内の状態、周囲の環境などを記録しておくと、後の保険金請求やトラブル防止に役立ちます。
契約書・利用規約の確認
地下駐車場を利用していた場合は、契約書や利用規約に目を通しましょう。補償範囲や免責条項の記載があり、補償を求める際の判断材料となります。
まとめ
四日市での大雨被害は、地下駐車場の利便性の裏にあるリスクを改めて示しました。車両保険に入っているかどうか、契約内容がどうなっているかで補償の有無は大きく変わります。
特に、ローンが残っている車や、資産価値が高い新車購入から間もない車は、万一全損になれば家計への影響も甚大です。保険金が下りても「ローンの残債>保険金」となるケースでは、車を失ったうえで返済だけが残ることもありえます。また、買い替えには頭金や諸費用も必要で、短期的に大きな支出を伴います。
こうしたリスクを考えると、ローン返済中や新車を所有している人にとって、車両保険は事実上の必須といえるでしょう。逆に、年式が古く時価額が低い車であれば、保険料とのバランスを見て加入を判断するのも選択肢です。
都市部では「駅近で便利だから」と地下駐車場を選ぶ人も多いですが、ハザードマップや過去の浸水実績を確認し、万一の際に備えることが欠かせません。資産としての自動車を守るためには、利便性とリスクをてんびんにかけ、保険や駐車場選びを工夫することが大切です。
執筆者 : 宇野源一
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