マイナ保険証に変えたのですが、高額療養費制度の申請は必要でしょうか? 今度病院にかかる予定があり、給与所得の変化が反映されているか不安です。

配信日: 2025.12.23
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マイナ保険証に変えたのですが、高額療養費制度の申請は必要でしょうか? 今度病院にかかる予定があり、給与所得の変化が反映されているか不安です。
マイナ保険証には、従来の保険証にはないいくつかのメリットがあります。そのメリットの一つとして、手続きなしで高額療養費制度の適用を受けることができます。
 
しかし、受診直前に給与所得の変化などがあった場合、所得区分が高額療養費に正しく反映されないことがあるなど、注意する点があります。
 
今回は、マイナ保険証のメリットについて説明するとともに、高額療養費制度を利用する場合の注意点について解説します。
辻章嗣

ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/

マイナ保険証の5つのメリット

従来の健康保険証は、2025年12月2日から原則使うことができなくなり、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行しました(※1)。
 
マイナ保険証は、従来の健康保険証と違い次の5つのメリットがあります(※2)。
 

1. データに基づくより良い医療を受けることができる

医療情報の提供に同意することによって、過去に処方された薬や特定検診などの情報を医師や薬剤師が共有することができます。
 

2. 手続きなしで高額療養費の限度額を超える支払いが免除される

従来、高額療養費の適用を受けるためには、事前に健康保険組合等に「限度額適用認定証」を申請し、認定証を医療機関に提出する必要がありました。
 
また、認定証の申請が間に合わなかった場合は、窓口で自己負担額を全額支払った後に健康保険組合等に「支給申請書」を提出して高額療養費を超えた額の払い戻しを受ける必要がありました。
 
マイナ保険証を利用すると、認定証を申請することなく高額療養費の限度額を超える分を支払う必要がなくなります。
 

3. 救急医療の現場での活用が進められている

救急搬送時にマイナ保険証を提示することにより、救急搬送中により適切な処置や円滑な病院の選定に役立てられます。
 

4. マイナポータルで確定申告時に医療費控除が簡単にできる

マイナポータルで医療費通知情報の管理が可能となり、マイナポータルとe-Taxを連携することで、確定申告に必要な医療費控除のデータを自動入力できます。
 

5. 医療保険で働く人の負担を軽減できる

保険資格の情報をマイナンバーカードと顔認証付きカードリーダーを用いて自動取得することができるため、事務職員の負担を軽減することができ、さらに自動化により誤記リスクも減らすことができます。
 

高額療養費制度の概要

高額療養費は、同一の月(1日から月末まで)に支払った医療費の自己負担額が高額になった場合、自己負担限度額を超えた分が健康保険組合等から払い戻される制度です(※3)。
 
一人が複数の医療機関で受診した場合や世帯で複数の方が同じ月に受診した場合は、自己負担額を世帯で合算することができます。ただし、70歳未満の方が合算できる自己負担額は2万1000円以上のものに限られます。
 
自己負担限度額は、70歳未満の方と70歳以上の方で異なります。70歳未満の方の自己負担限度額は、図表1のとおりです(※3)。
 
図表1

図表1

 
図表1から、高額療養費の自己負担限度額は、所得区分で大きく違いがあることが分かります。
 

マイナ保険証で高額療養費制度の適用を受ける際の注意点

マイナ保険証を利用することで、申請することなく高額療養費制度を利用することができますが、いくつか注意する点があります。
 

1. 複数の医療機関を受診した場合

マイナ保険証を提示した医療機関で受けることのできる高額療養費は、医療機関ごとに所得区分に応じた自己負担限度額が適用され、その額を超える支払いを求められることはありません。
 
しかし、複数の医療機関を受診した場合、それぞれの自己負担額(1回当たり2万1000円以上)を合算して、高額療養費が適用されることはありません。
 

2. 家族の自己負担額を合算する場合

マイナ保険証を提示しただけでは、家族の自己負担額(1回当たり2万1000円以上)を合算して、高額療養費が適用されることはありません。
 

3. 高額療養費の多数回に該当する場合

高額療養費が適用された月が3回を超えると、それ以降の高額療養費は多数回該当となり自己負担限度額が大幅に下がります。
 
しかし、マイナ保険証では、多数回該当を自動的に判定する仕組みになっていません。
 

4. 所得区分の確定前後または年の途中で収入が大幅に変わった場合

高額療養費の所得区分は、原則前年の住民税の申告に用いた所得を基に判定されます。したがって、国民健康保険では毎年8月1日に、全国健康保険協会の協会けんぽでは7月下旬から9月頃にかけて決定されます。
 
また、大企業の健康保険組合では、標準報酬額で所得区分を判定しており、所得区分は6月から9月にかけて決定されています。また、標準報酬額は、報酬が大幅に変更された場合は、年の途中でも改定されることがあります。
 
したがって、所得区分の変更時期前後では、マイナ保険証に正しい所得区分が反映されない可能性があります。
 

高額療養費の払戻金に疑問がある場合の対処法

1. 事前に「限度額適用認定証」を申請する

所得区分の変更時期に受診する場合や、報酬が大きく変化した直後に受診する場合など、適用される所得区分が不安なときは、事前に「限度額適用認定証」を申請することができます。
 

2. 後から高額療養費の請求を行う

以下のような場合は、後から健康保険組合などに高額療養費の請求を行うことで、高額療養費の清算が可能です。
 

・複数の医療機関の自己負担額を合算する場合
・家族の自己負担額を合算する場合
・高額療養費の適用が4回目以上の場合

 

まとめ

マイナ保険証を利用することで、事前に「限度額適用認定証」を申請することなく高額療養費の適用を受けることができます。ただし、受診直前に収入が大きく変化した場合などは、正しい所得区分が反映されない恐れがありますが、事前に「限度額適用認定証」申請し医療機関へ提出することで防ぐことができます。
 
また、マイナ保険証では、家族などの医療費を合算することや、多数回該当を適用することができませんが、後から高額療養費を請求することで清算することができます。
 

出典

(※1)厚生労働省 マイナンバーカードの健康保険証利用(マイナ保険証)について
(※2)厚生労働省 マイナンバーカードの健康保険証利用のメリット
(※3)厚生労働省 高額療養費制度を利用される皆さまへ
 
執筆者 : 辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

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