出産・育休でハラスメントを受けている人はどれくらい?
配信日: 2021.06.23
そこで、厚生労働省の令和2年度「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」の労働者等調査(女性の妊娠・出産・育児休業等ハラスメント)結果(※)から、職場の現状について解説したいと思います。
執筆者:前田菜緒(まえだ なお)
FPオフィス And Asset 代表、CFP、FP相談ねっと認定FP、夫婦問題診断士
保険代理店勤務を経て独立。高齢出産夫婦が2人目を産み、マイホームを購入しても子どもが健全な環境で育ち、人生が黒字になるようライフプラン設計を行っている。子どもが寝てからでも相談できるよう、夜も相談業務を行っている。著書に「書けばわかる!わが家の家計にピッタリな子育て&教育費のかけ方」(翔泳社)
目次
前提<調査対象者の年齢や勤務先の規模>
この調査は20~40代の過去5年間に、就業中に妊娠・出産した女性労働者に対して行われました。20代が14.3%、30代が66.4%、40代が19.3%と30代が大半を占めています。
次に、会社の規模は、従業員数が99人以下約44%、100~299人が13.2%、300~999人が12%、1000人以上が20.6%となっており、中小企業から大企業までカバーされています。
そして、ハラスメントとは「上司や同僚からの言動で労働者の就業環境が害される行為」と定義されています。これをふまえて、調査結果を見ていきましょう。
過去5年間に妊娠・出産・育児休業等ハラスメントを受けた経験
過去5年間にハラスメントを受けたことがあると回答した割合は、約26%でした。4人に1人が経験しているという結果です。会社の規模別では大きな差はありませんが、割合の最も少ないのは従業員数が99人以下の24.6%となっています。
ハラスメントの内容
受けたハラスメントで最も多い回答が「上司による制度等の利用の請求や制度等の利用を阻害する言動」24.3%で、次に多いのが「嫌がらせ的な言動、業務に従事させない、もっぱら雑務に従事させる」24%となっています。
また、解雇を受けたという回答も一定数あり、妊娠などで仕事を辞めざるを得ない現実があることが分かります。その他、正社員では、「昇進、昇格の人事考課における不利益な評価」の割合も高くなっています。
実際、筆者もそれは経験していますし、ママ友から、時短勤務中は正社員から契約社員になる、昇給ストップする等の会社のルールがあることを聞きます。
しかし、それが不利益にあたるのかどうか、本人は判断できず、時短勤務だから仕方ないと受け入れているのも現実です。
ハラスメントを受けたことによる心身への影響
心身への影響においては、「怒りや不満、不安などを感じた」が約70%、「仕事に対する意欲が減退した」が約50%となっています。当然の感情でしょう。
仕事へのモチベーションが下がると給料アップも期待できませんし、転職を考えるかもしれません。しかし、妊娠中や育児中の転職は厳しいものです。女性の賃金低下を招く原因にもなりかねません。
ハラスメントを受けた後の行動
実際、約14%の人がハラスメントを受けて退職しているようです。ハラスメントを受けた後の行動で最も多いのが「家族や社外の友人に相談した」で約27%ですが、一方で、何もしなかったという人も約26%います。
その理由としては、「何をしても解決にならないと思ったから」という理由が半数を占め、諦めている人が多いことが分かります。
また、勤務先がハラスメントを認識していた割合は約30%、認識していなかった割合が70%ですから、何もしないと会社は気づかず、いつまでたっても改善しないともいえます。もちろん、会社側の意識の低さが問題ではありますが。
まずは信頼できる人や機関に相談を
ハラスメントを受けたことを会社に伝えるのは勇気がいりますし、会社と話し合わないといけませんから労力も必要です。
妊娠しているなら余計な労力を使って心身に負担をかけたくないですし、もうすぐ産休に入ると思うと我慢するほうが楽かもしれません。だからこそ、相談のハードルが低く、気兼ねなく相談できる問題解決能力の高い相談窓口が必要です。
2017年に妊娠・出産等のハラスメント防止として相談窓口を設置するように法律が改正されたので、会社でそのような窓口があるか調べてみるとよいでしょう。
もし、その窓口で相談しづらいようなら、各都道府県の労働局で相談できますし、厚生労働省の委託事業で「ハラスメント悩み相談室」というものがあります。平日は21時まで電話できますし、土日も対応しています。
まずは、諦めずに自分にストレスをかけずに相談する方法を見つけてほしいと思います。子どもを産み、育てるのはある意味、社会貢献です。
しかし、それを歓迎しない職場や人がいるなら、いくら法律があるとはいえ、子どもを育てやすい環境とはいえないでしょう。個々人の意識改革が必要です。
(※)令和2年度 厚生労働省委託事業「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」/P118 労働者等調査(女性の妊娠・出産・育児休業等ハラスメント)結果詳細
執筆者:前田菜緒
FPオフィス And Asset 代表
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(R)認定者
確定拠出年金相談ねっと認定FP、2019年FP協会広報スタッフ