更新日: 2019.08.20 その他暮らし
40歳手前の若さで脳幹出血に倒れたサラリーマンの生活習慣と生還した後の苦しい生活とは。
39歳のサラリーマンS氏の場合は、突然襲った「脳幹出血」という病気でした。
生存率は20~30%、仮に命が助かっても植物状態になることがほとんどだというこの病気。そのリアルな実体験と、生活習慣の重要性、治療費に迫りました。
執筆者:井田正幸(いだ まさゆき)
ファイナンシャルプランナー
大学卒業後、ベンチャーキャピタルにてベンチャー企業への投資業務
シリコンバレーのビジネスインキュベーターでベンチャー企業支援
ブレイク・フィールド社設立 代表取締役社長
Break Field Vietnam Co., Ltd. 会長
Break Field(Thailand) Co., Ltd. 取締役
目次
会社の盛り上げ隊長S氏。突然のめまいと吐き気「死ぬかもしれない。助けて」
都内の広告代理店で働くS氏は、お酒が大好きな39歳。ノリが良く面倒見のいい彼は、会社の飲み会を盛り上げる宴会部長としても一翼を担っています。
一昨年の12月30日。会社の忘年会から帰宅したS氏は、こたつでテレビを見ながら携帯電話をいじっていました。
そろそろ寝ようかな…そう考えていた時です。急に目の奥の方が引っ張られるような感じがありました。
「なんだ、これ…?」
寝不足か?早く寝ようと立ち上がろうしたら、そのまま倒れました。立とうと思っても、立つことができません。
強烈なめまいで景色がぐらんぐらんと揺れます。左半身がまひし、これはいよいよまずいぞとS氏は思いました。
その時、健康診断での指摘で、血圧の薬が処方されていたことに気づきました。薬で血圧を下げようと考えたS氏は、はいつくばり、やっとの思いで薬を飲みました。
薬を飲んだ後はしばらく安静にしていましたが、症状は一向によくなりません。吐き気がしてトイレで戻しました。ベッドに戻ったS氏は、忘年会で外出中の奥さんにメールをしました。「死ぬかもしれない。助けて」
自力で病院へ。脳出血の中でも最も重傷な「脳幹出血」だった
そのまま眠りについたS氏は、明け方、奥さんに起こされました。目は覚めましたが、左半身のまひが残っていて、うまく話すことができません。
異変に気づいた奥さんが医療センターに電話すると、すぐに病院に来るように指示されました。その際、救急車よりも早そうだったのでタクシーで向かいました。
検査の結果、「脳幹出血」と診断されました。
脳幹出血は脳出血の中でも、最も重症だと言われています。S氏を担当した医師の経験上、脳幹出血でありながら意識があり、かろうじて話すことができ、自力で病院に行くことができたケースは非常にまれで、今までで2例目だったそうです。
脳幹はメスを入れることが大きなリスクを伴うため、入院して安静にすることになりました。3日間、ご飯も食べずに点滴を入れます。その後、3週間の入院となりました。
S氏の生活習慣…週末の夜はビール4、5本に日本酒一升。血圧のピーク時は上が200
S氏がこのような重篤な状態に至ったのには、不摂生な生活習慣に原因がありました。
S氏は前述の通りお酒が大好きです。お酒は週末集中型で、週末の夜から明け方にかけてビール4、5本、日本酒一升を軽く飲み干します。これが金曜日の夜から土曜日、土曜日の夜から日曜日と、2回分です。
たまに、お酒を飲んだ後にサウナに入ります。サウナから出た後に再び飲むことも。
また、食事は味の濃いものが好きで、しょうゆやソースなどの塩分が強いものや、辛いものを好みました。
朝は揚げ玉たっぷりの立ち食いそば、昼はカップラーメンにおにぎり2つとコンビニのフランクフルト、夜は2人前に近い定食をたいらげました。
運動はほぼしておらず、当時の体重は100キロを超えていたと言います。さらに、S氏は愛煙家で一日に一箱はタバコを吸っていました。
35、36歳頃の血圧は上が150、下が90~100ほどでしたが、ピーク時には上が200、下が120ほどになっていたそうです。
健康診断で3カ月前に処方された血圧の薬は、あまり飲んでいませんでした。
1年4カ月が経過した今の生活は?奥さんの協力でカロリー制限。タバコはもう吸っていない
生存率20~30%と言われている脳幹出血を奇跡的に乗り越えたS氏ですが、あれから1年4カ月が経過した今、生活はどうなったのでしょうか。
まず食事ですが、朝食は600キロカロリー以内に収まるように奥さんが用意しているそうです。基本的に和食で、しょうゆやみそは減塩のものを使っています。
昼食は、奥さんが用意した450~500キロカロリー以内のお弁当。夕食は21時前に取るように意識し、量も減らしています。
お酒は今も飲んでいますが、たくさん飲むと周りから止められるため、チェイサーとして合間に水を飲むようにしています。
血圧の薬も欠かさず飲むようになりました。最近の血圧は上が120~130、下が80~85と、ピーク時よりは抑えられています。体重も、ピーク時から11キロ減量しました。
これを機に、タバコはすっぱりとやめることができたそうです。
脳幹出血でかかった費用。実出費は8万円で収まった!その後の費用は年間約12万円
脳幹出血でかかる治療費は、倒れた時の検査費用と入院費用です。
健康保険の3割負担で約24万円、高額医療制度の適用で実出費は約8万円で収まりました。
その後は毎月の薬代、定期健診で月約1万円、年間で約12万円かかっています。これについては、確定申告で医療費控除を検討しています。
さらに、1年に1回のMRI健診が5000~6000円。経過検診なので安くすんでいるそうです。そうでない場合は数万円かかります。
倒れたことでタバコを止め、お酒も節度ある飲み方になり、以前と比べて食事量も減りました。しかし、節約できる環境になったかと思えば、実は節約どころか場合によっては以前よりも出費が多くなっていることに気づいたそうです。
その理由は、減塩の調味料や外食が通常の食事よりも一般的に高いためです。そのため、毎月の検診代、薬代に加えて食費が上がってしまったのです。
さらに、家計の見直しの際に、まず見直すべき項目である保険が変更できないことも負担になっています。保険を変更するには、完治から5年経過しないと新しい保険に加入することができません。
そのため、高い保険料を払い続けるしかない状態です。
S氏は幸いなことに大事に至りませんでしたが、その分、生き続けるための家計への圧迫が大変です。奥さんが大好きな旅行やおいしいレストランなどにも行けないため、申し訳ない気持ちになるそうです。
S氏からみなさんへのメッセージ「死ぬ時に後悔したくない」
S氏が声を大にして言いたいことは、血圧が高い時は死に向かっているということ。同世代である40歳前後の友人を見ても、あまり血圧を気にしていません。
血圧が高くても体調が悪いとは感じにくいですが、それは危険。上が140を超えたり、下が90を超えたりしたら、ぜひ一度お医者さんに相談してくださいとのことです。
血圧の薬も、飲み始めると一生飲まないといけないのかと不安になるかもしれませんが、そんなことはありません。スポーツやダイエットで血圧が下がれば、飲まなくて良くなる可能性もあります。
大病後の人生観の変化は「死ぬ時に後悔したくない」ということ。
与えられた時間の中で、任された仕事を全うしたい、人生を楽しみたい。朝、早く出社するようになって、仕事の効率が大きく変わりました。そして、毎朝目覚めるたびに、日々生きていることに感謝だそうです。
※脳幹出血による症状や費用などは、あくまでもS氏のケースです。
Text:井田 正幸(いだ まさゆき)
ファイナンシャルプランナー