更新日: 2019.08.30 その他暮らし
別居中に妻が居住する夫所有の家へ、夫が合鍵を使って勝手に入ると住居侵入になるのか?
このようなケースで妻から住居侵入罪で訴えられた裁判がありました。結果はどうなったでしょうか。
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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事案の概要
妻が夫の浮気を疑い、夫婦仲が悪くなり、別居生活に入りました。
別居して離婚訴訟中の妻が居住する夫所有の家屋へ、別居から約3年後、夫が合鍵を使って夜間玄関から立ち入りました。
妻の浮気現場の写真を撮り、不貞を主張・立証するためです。これに、妻が腹を立て、夫を住居侵入罪で訴えました。
立ち入ったのが自分の家なので住居侵入罪は成立しないようにも思えますがどうなのでしょうか。
住居侵入罪が成立するには
住居侵入に関しては、刑法130条に、「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10円以下の罰金に処する。」と規定されています。
刑法のテキストによると、この法律が守ろうとしている利益には、住居権説と住居の平穏説の2つの考え方があるようです。
住居権説は、住んでいる人に住居に入る許可を与える権利があるという考え方、一方、住居の平穏説は、勝手に住居に侵入するのは、住居の平穏な状態を侵害する行為なので違法という考え方のようです。
いずれの考え方に立っても、別居中の妻の許可なく勝手に住居に入る行為は、たとえ自己名義(自己所有)の住居であったとしても、住居侵入罪が成立する可能性があります。
上記の判例でも夫に罰金の有罪判決が下されました。自分の家だからといって別居中の家に無断で立ち入るのは気をつけたほうが良さそうです。
妻が立ち入りに同意しない場合は弁護士などの法律の専門家にアドバイスを求めたほうが良いでしょう。
窃盗罪が成立しても刑が免除される場合がある
上記判例は、住居侵入罪に関するものでしたが、自分の持ち物を持ち出した場合は、窃盗罪(刑法235条)が成立するのでしょうか。
刑法242条には、「自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。」と規定されています。
この条文にあるように、自分の持ち物(所有物)であっても、他人(妻)が事実上支配(占有)している物を勝手に持ち出すと窃盗罪が成立します。
しかし、一方、刑法244条1項には「配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪(窃盗)、第235条の2の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。」との規定があります。
つまり、配偶者、直系血族又は同居の親族との間で行われた窃盗は、窃盗罪が成立しても、刑が免除されることになります。
したがって、無断で自分の持ち物を持ち出した夫には窃盗罪が成立することになりますが、刑は免除されることになります。
ちなみに、窃盗の罪は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金です(刑法235条)。
上記の判例のケースでは、夫婦の婚姻関係が破綻していたこと、別居から約3年がたっていたことなども住居侵入罪の成立に影響があったのではないでしょうか。
別居からまだ日が浅く、荷物の搬出途中であるような場合は、住居侵入罪を問うことが難しいケースもあるかと思います。
いずれにしても、後で取りに行くのは難しくなるので、大事なものは持って行ったほうがよさそうです。
Text:新美 昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。