同じ品物でも、量や価格によって財布のヒモのゆるみ方が変わるのはどうして?
配信日: 2019.10.16
商品の値段が【単価×量】で構成されていることは、いうまでもありません。しかし、人の心理面では「値段」には敏感で値上げには痛みを大きく感じる一方、「量」の変化は値段ほど気にならないといわれています。
執筆者:上野慎一(うえのしんいち)
AFP認定者,宅地建物取引士
不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。
ユニークな日本酒販売店があります
あるBSテレビ番組に、酒場通のリポーター役が全国各地の酒場や居酒屋を訪ねるというものがあって、お酒好きには結構好評のようです。1時間で4話構成。各話でお店を訪ねる前に、まずはその周辺の名物施設などを巡ります。
その中で登場したユニークな施設。都内城南エリアのある駅の近くで、カプセルホテル1階ロビーの空きスペースを店舗にした日本酒専門の販売店です。
その番組で紹介されていたある日本酒(純米大吟醸)の値段は1瓶1000円でした。総額には一見、違和感がありませんでしたが、よく見るとサイズは1合(180ミリリットル)。実はこのお店、1合瓶の日本酒専門店だったのです。
同じ日本酒で、量と値段によって財布のヒモのゆるみ方が違うケース
ここからは、感じ方に個人差があるかもしれませんが、同じ日本酒で仮に【1合瓶1000円ならば買うが、1升瓶8000円だったら買わない】ケースについて考えてみましょう。総額だけに着目すると、【1000円の支出はオーケーだけど、8000円だったらやめておこう】という状況です。
このケースの量と単価等の関係をおさらいしてみると、次のようになります。
試しに筆者も知人10人ほど(いずれも日本酒好き)に聞いてみましたが、こうした考え方の人が大半でした。
ヒントになりそうな3つのキーワードとは?
どうしてこのようになるのか、(ピンポイントで合致するかどうかはともかく)ヒントになりそうな3つのキーワードで考えてみましょう。
(1)参照点
・人が損や得を感じる時の基準となる点(数値)のことです。この点から離れるほど、損得の感情が高まるといわれます。
・日本酒の容器サイズと価格の組み合わせはいろいろですが、【4合瓶(720ミリリットル)で1000~2000円】は平均的な値段と思われます。
・冒頭のように人は「量」(容器サイズ)よりも「値段」(総額)の変化を気にするとすれば、普段支払っている総額が一種の参照点となって、同じ総額帯の1合瓶1000円が(単価面の損得を超えて)1升瓶8000円よりも選ばれやすいとも考えられます。
(2)限界効用逓減
・消費量が増えていくと、追加の消費から得られる満足度(限界効用)がだんだん減るという考え方です。
・真夏の風呂上りに飲む1杯目のビールはとてもおいしいですが、2杯目・3杯目に進むと最初のような感動はだんだんなくなっていきますね。
・純米大吟醸の日本酒銘酒も、最初の1合なら1000円出してもよいけれど、10合(1升)目まではその“太っ腹さ”を続けられないのかもしれません。
(3)慣習価格
・世の中には価格(帯)が決まったものだと思い込みがちな商品があります。例えば、自動販売機のジュースやお茶系飲料などでしょうか。街なかであれば500ミリリットル前後のペットボトルで140~160円くらいが大半です。
・(1)の参照点にもつながりますが、日本酒ひと瓶に普段1000円~2000円を払っている人にはそれが慣習価格となって、(瓶が小さくて高単価なのに)1000円での購入には抵抗感がないとも考えられます。
まとめ
今回は、【1合瓶1000円ならば買うが、1升瓶8000円だったら買わない】という仮説をもとに、その判断の背景となりそうなキーワードをいくつか見てみました。
もちろん、この仮説の「1000円」や「8000円」の箇所の数字の感じ方や考え方は人それぞれでしょうから、上記の参照点や慣習価格も人によって違うことになります。また限界効用の逓減の仕方も同様で、風呂上りのビールのおいしさが最初の1杯でも5~6杯目でも変わらない人も、中にはいるでしょう。
それはさて置き、モノの値段(総額)を「単価」と「量」に分けて考えてみることは、物ごとをいつもと違った視点で見直すきっかけになるのではないでしょうか?
※2019/10/16 タイトルを変更しました
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士