更新日: 2020.05.20 その他暮らし
医療費の家計負担を軽減する高額療養費制度。さらに負担を軽減する「多数該当」って?
この家計への負担を軽減するしくみに「高額療養費制度」がありますが、さらに負担を軽減する「多数該当」をご存じでしょうか。「多数該当」のしくみと注意点を解説します。
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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高額療養費とは?
病院で病気などの治療を受けた場合、病院の窓口で支払う金額は、実際にかかった医療費の1割~3割です。しかし、医療費の一部とはいえ、重い病気などで長期入院したり、手術をする場合には、医療費の自己負担額は高額になります。
そこで、家計の負担を軽減できるように、一定の金額(自己負担限度額)を超えた部分が払い戻されるしくみがあります。これが「高額療養費制度」です。
ただし差額ベッド代や入院時の食事代等の一部負担、先進医療の技術料などは高額療養費の対象になりません。これらの費用は、民間の医療保険などで備えると良いでしょう。高額療養費は同一月(1日から月末)の医療費が一定の自己負担額を超えた場合に申請により払い戻されます。
被保険者、被扶養者ともに同一月内の医療費の自己負担限度額は、年齢および所得に応じた計算式により求めます。
例えば、70歳未満の会社員で、月収28万円~53万円未満の場合の自己負担限度額(月額)は、「8万100円+(総医療費-26万7000円)×1%」の計算式によって算出されます。
したがって。100万円の医療費で窓口での自己負担(3割)が30万円かかる場合、この計算式に当てはめると自己負担限度額は8万7430円となりますので、窓口で支払った30万円との差額21万2570円が申請により数か月後に高額療養費として払い戻されます。
なお、高額療養費の自己負担限度額に達しない場合であっても、同一月内に同一世帯で2万1000 円以上の自己負担が複数あるときは、これらを合算して自己負担限度額を超えた金額が支給されます(世帯合算)。
多数該当とは?
同一世帯で1年間(診療月を含めた直近12カ月)に3回以上高額療養費の支給を受けている場合は、4回目からは自己負担限度額が引き下げられ、さらに負担が軽減されます。これが「多数該当」です。高額療養費に該当する月は「連続」する必要はありません。
例えば、上記で見たように、70歳未満の会社員で、月収28万円~53万円未満の場合の自己負担限度額(月額)は8万7430円ですが、多数該当の場合は自己負担限度額が4万4400円に引き下げられます。
ただし、次のようなケースでは「多数該当」に回数を通算できません。
(1)国民健康保険や健康保険組合などから協会けんぽに加入した場合など、保険者が変わったときは多数該当の月数に通算されません。
(2)退職して被保険者から被扶養者に変わった場合などは、多数該当の月数に通算されません。
例えば、退職して、協会けんぽから国民健康保険の被保険者になった場合、保険者が変わるので高額療養費に該当した回数を通算することができなくなります。
ただし、協会けんぽの任意継続被保険者の手続きをすれば、退職後も2年間はそれまで加入していた協会けんぽに引き続き加入できますので通算が可能です。
退職前は保険料に関し労使折半でしたが任意継続被保険者になると全額自己負担になりますので注意しましょう。また、任意継続被保険者の手続きは、退職後20日以内に行う必要があります。
退職後の医療保険は(1)任意継続被保険者になるほか、(2)国民健康保険の被保険者になる、(3)被用者保険の被扶養者になる、といった選択肢があります。よく検討して決めましょう。
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー