更新日: 2020.07.20 その他暮らし
民法改正で<保証>はどう変わった? 暮らしに与える影響って?
保証とは、簡単にいえば、「借金を人で担保する」制度で、抵当権と並んで、非常によく利用されています。
特に、アパート入居者の保証人になったり、事業資金融資を受ける経営者の保証人になったりというケースがよくあります。
保証は、お金を借りた人が返済すれば問題ありません。
しかし、保証の内容をよく知らずに気軽に保証人になったら、自分の財産まで失う可能性もあります。
そのような人が出てくるのを防止するために、この4月、民法は保証のルールを改正したのです。
今回は、新しい保証のルールのうち、暮らしに直結するポイントをお話します。
執筆者:石井美和(いしい みわ)
中央大学法学部法律学科卒業。
20年に渡り司法書士・行政書士事務所を経営し、不動産登記・法人登記・民事法務・許認可などに携わる。また、保険代理店を併設。なお、宅建士、マンション管理士など複数の資格を保有。
保証って何?
まず、保証についての基本的な知識をおさらいしておきましょう。具体例で考えてみます。
Aさんが、1000万円の事業資金をB銀行から借りたとします。
その1000万円を返す義務(金銭債務)につき、CさんがB銀行と保証契約を締結しました。
このケースで、Aさんが事業に失敗して財産がなくなり、1000万円と約定の利息を期限までに返せないときは、B銀行はCさんに請求することができます。
CさんがB銀行の請求に応じなければ、B銀行はCさんの財産に強制執行することができます。
強制執行とは、裁判所で行う強制的な売却手続きのことで、Cさんは拒むことはできません。
他人の借金なのにおかしいと思うかもしれませんが、B銀行にしてみれば、お金を回収する手段としてCさんに保証人になってもらったので、返してもらう権利があります。
友人や親戚に頼まれ断り切れず保証人になったり、気軽に保証人になったりすると、大変なことになります。
保証契約をするとしても、十分に理解したうえで契約に臨みましょう。
新しい民法のルール(1)個人の根保証契約
新しい民法では、極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約は無効とされました。
「根保証契約」は馴染みのない言葉だと思いますが、債務の額がいくらにふくらむか分からない保証契約のことです。
例えば、アパートの賃借人の義務を保証する場合などが根保証契約に当たります。
アパートの賃借人の義務というと、毎月の家賃だけ保証すればよいというイメージがあるかもしれません。
しかし、決まった額の家賃保証だけでなく上限額を定めずに「賃借人の義務すべて」を保証することもあります。
賃借人は相当な注意を怠らずに、アパートを使用する義務を負います。
仮に寝たばこでアパートを焼失させたらそれこそ、とんでもない額の損害賠償義務を負います。
この損害賠償義務まで包括的に保証する場合などが、根保証契約です。
このように、主債務の上限額を定めない個人が締結した根保証契約は無効です。
無効とは、効力がないという意味であり、保証人は根保証契約で担保する債務を返済する義務を負いません。
新しい民法のルール(2)事業資金融資の保証は公正証書で
次に、事業資金融資の保証についての改正点をお話します。
友人や親戚からこのようにいわれたことはありませんか?
「商売の資金が足りないからとりあえず保証人になってくれないか」
気軽に考えて保証人になってしまうと、先述の通り、最悪の場合は自分の財産から弁済しなければなりません。
事業資金融資の保証についても非常にトラブルが多かったことから、民法では新しいルールをもうけました。
それは、公証人による保証意思の確認を経ずに下記の条件を満たす保証契約を締結した場合、保証契約は無効となるということです。
・個人が保証人になろうとする場合であること
・事業用の融資であること
なお、この公証人による意思確認の手続は、主債務者の事業と関係の深い次のような方々については、不要とされています。
・主債務者が法人で、その法人の取締役である場合
・主債務者が個人で主債務者と共同して事業を行っている共同事業者、主債務者の事業に現に従事している主債務者の配偶者など
つまり、主債務者と関係が深い人が事業資金融資の保証人になる場合、公証人による保証意思の確認がなくても保証契約は有効です。
まとめ
民法には直に「金〇円」と書いてある条文はありません。
民法は、取引や財産に関する総合的なルールを定めているだけです。
そのためか、一般の方にとってまだまだ分かり辛い法律かもしれません。
しかし、民法にはお金にまつわるルールが隠れています。
新しいルールなど、折に触れてお伝えしますので、不測のトラブルに巻き込まれないよう参考にしてください。
[出典]
法務省「2020年4月1日から保証に関する民法のルールが大きく変わります」
執筆者:石井美和