奨学金返済に新たな選択肢。年収要件緩和で利用しやすくなった「減額返還制度」と「返還期限猶予制度」とは?
配信日: 2025.01.08
しかし、いざ返還の段階となると、失業や経済的な理由などから返還が困難となるケースもあるようです。
本記事では、令和6年4月から年収要件等が緩和され、利用しやすくなった奨学金の「減額返還制度」を中心に、併せて「返還期限猶予制度」などについても確認していきます。
執筆者:高橋庸夫(たかはし つねお)
ファイナンシャル・プランナー
住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。
利用しやすくなった減額返還制度
令和5年に策定された「こども未来戦略」では、施策の一つとして「子育て世帯の家計を応援」が掲げられ、大学等にかかる教育費負担の軽減を目的に「貸与型奨学金の減額返還制度」の緩和措置が講じられました。
減額返還制度とは、経済困難(収入等の基準)、失業、病気、災害などの理由から月々の返還が困難になった場合でも、延滞することなく計画的に返還できるようにする制度です。ただし、減額返還制度の適用期間に応じて、返還を終えるまでの返還期間は延びることになります。
減額返還制度は、令和6年4月より以下のように制度が改正され、さらに利用しやすくなりました。
(1)減額返還方法の追加新設
これまでの返還月額を2分の1または3分の1に減額して返還する方法に加え、4分の1または3分の2に減額して返還する方法も選択できるようになりました。
(2)収入基準の緩和
減額返還制度を利用可能な年収上限(目安)が、年間収入金額325万円以下から400万円以下に引き上げられました。本人が扶養している子どもの人数や給与所得以外の所得がある場合の基準もそれぞれ引き上げられ、現行では図表1のとおりとなります。
独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)「月々の返還額を少なくする(減額返済制度)」より筆者作成
返還期限猶予制度
減額返還方式と同様に、月々の返還が困難となった場合、返還を先に延ばすことができる制度として「返還期限猶予制度」があります。制度を利用する場合には、1年ごとに審査があり、承認を受ける必要があります。利用できる期間は最長で10年ですが、病気・猶予年限特例など一部の対象者は、一定の条件に該当する期間、猶予できる場合があります。
また、減額返還制度で返還が困難となったときでも、猶予制度を利用できる場合があります。
両制度を利用した場合の返還事例
両制度を適用する場合には、1年ごとに申請して審査のうえで承認を受ける必要があります。減額返還制度は最長(通算)で15年、返還期限猶予制度は最長(通算)で10年となっています。
また、これらの制度を利用したとしても、利子を含む返還予定総額は通常の返還の場合と変わりません。都合、両制度を適用することで、返還を終えるまでの返還期間は延長されることになります。例として、以下のような条件での返還事例を比較してみます。
定額返還方式(貸与総額に応じて月々の返還額が算出され、返還完了まで定額で返還する制度)で月々の返還金額が1万8000円、返還期間は22歳から20年間だった場合
●事例1:22歳から15年間4分の1の減額返還制度を適用
●事例2:22歳から10年間返済期限猶予制度を適用
図表2
独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)「月々の返還額を少なくする(減額返済制度)」「返還を待ってもらう(返還期限猶予制度)」より筆者作成
まとめ
第一種奨学金(無利息)の場合は、前年の所得に応じてその年の返還金額が決定される「所得連動返済方式」を選択することもできます。
また、大学院修士課程の「授業料後払い制度」を利用した場合の返還方法も、この「所得連動返還方式」となります。この場合、返還額算定のための所得計算の際に、子ども1人当たり33万円を控除できるようになりました(2024年度から)。
お困りの場合やご不明な点などがあれば、日本学生支援機構ホームページや奨学金相談センターナビダイヤル(0570-666-301)などを利用して確認することをおすすめいたします。
出典
独立行政法人日本学生支援機構 令和4年度 学生生活調査結果
こども家庭庁 こども未来戦略とは
独立行政法人日本学生支援機構 月々の返還額を少なくする(減額返還制度)
独立行政法人日本学生支援機構 返還を待ってもらう(返還期限猶予)
独立行政法人日本学生支援機構 返還方式について(定額返還方式・所得連動返還方式)
執筆者:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー