変動金利で住宅ローンを組んでいます。金利が上昇しているので、今後の支払い増が心配……固定金利のローンに借り換えたほうがいい?
CFP(R)認定者
大学を卒業後、保険営業に従事したのち渡米。MBAを修得後、外資系金融機関にて企業分析・運用に従事。出産・介護を機に現職。3人の子育てから教育費の捻出・方法・留学まで助言経験豊富。老後問題では、成年後見人・介護施設選び・相続発生時の手続きについてもアドバイス経験多数。現在は、FP業務と教育機関での講師業を行う。2017年6月より2018年5月まで日本FP協会広報スタッフ
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借り換えが「得」になるかの3つの見極めポイント
まず、借り換えがメリットをもたらすかどうかは、次の3点を基準に検討しましょう。
1. 残りのローン期間が10年以上かどうか
2. 借入残高が1000万円以上かどうか
3. 金利差が0.5%以上かどうか
これに加えて、「今後の金利上昇リスク」をどう考えるかが重要です。将来、変動金利が1~2%上昇すれば、月々の返済額は数万円単位で増加する可能性もあるからです。
それでは、以下の3点の見極めポイントについて、一つずつ深掘りしていきましょう。
ローン期間が10年以上かどうか
ローン返済期間10年以上が重要な理由として3つ挙げられます。
1. 借り換えの「諸費用を回収する時間」が必要
借り換えには、図表1のような初期コスト(諸費用)が発生します。
図表1
| 費用項目 | 目安金額(概算) |
|---|---|
| 事務手数料 | 約3万~5万円 |
| 登記費用(登録免許税、司法書士) | 約5万~10万円 |
| 保証料/融資手数料 | 数万~十数万円 |
| 印紙税 | 約2万円 |
| 合計 | 約15万〜30万円前後 |
(筆者作成)
これらの費用は、合わせれば一般的には数十万円程度になることが多いです。これらの費用を「利息の節約効果」で相殺できるだけの期間(回収期間)がなければ、借り換えしても「結局は得にはならない」ことになります。
経験則から目安として、「残り10年以上」であれば、金利差が0.5%前後でも十分に回収可能なケースが多いため、借り換えを検討する価値があります。
2. 返済初期は利息の割合が大きいため、金利差の影響が大きい
住宅ローンの返済は、元利均等返済(または元金均等返済)が主流です。元利均等では返済初期ほど利息の割合が高くなっています。
言い換えると、ローンの前半は「支払う利息」が多いため、金利が下がることで得られるメリットが大きくなります。逆に、ローン残期間が短い場合は元金の返済が中心になっていますので、金利差のインパクトが小さく、借り換え効果は限定的になります。
3. 長期金利の上昇リスクに備えやすい
金利上昇リスクは「数年間」で終わるのではなく、10年単位の長期的な上昇局面が想定される場合が多いです。そのため、残期間が10年以上ある場合は、早めに固定金利へ借り換えることで、その後の長期的な上昇リスクを回避したり、家計の支出を安定させたりして、教育費や老後資金との資金計画が立てやすくなります。
借入残高が1000万円以上かどうか
「借入残高が1000万円以上か」が、住宅ローン借り換えを検討する際の重要ポイントとされる理由として費用対効果の観点から確認します。
1. 借り換えにかかる諸費用は一定だから
借り換えを行うと、前述したように初期コスト(諸費用)が発生します。これらの費用は、借入金額が多少増減しても大きくは変わりません。つまり、借入残高が少ない人ほど「費用対効果が悪く」なりやすいのです。
2. 残高が多いほど「金利差による利息軽減効果」が大きくなる
借り換えによって得られるメリットの中心は、金利が下がることで払う利息が減ることです。
例:借入残高別で金利差0.5%の借り換えをした場合(残期間20年)
借入残高……利息軽減額(概算)
1000万円……約100万円前後
500万円……約50万円前後
300万円……約30万円前後
(筆者作成)
上記から、借入残高が多いほど金利差の恩恵が大きく、借り換え効果も高いことが分かります。
3. 借り換えの審査・手続き負担と釣り合うかどうか
住宅ローンの借り換えは、以下のように手続きが煩雑です。
・審査書類の提出(所得証明・住民票・登記簿謄本など)
・金融機関とのやり取り
・抵当権の抹消・再設定
このような手間と時間に見合う効果があるかどうかを判断するうえでも、借入残高が1000万円以上あるかどうかが重要なラインになります。
金利差が0.5%以上かどうか
1. ローン返済期間10年以上、ローン残高1000万円以上と同じ諸費用が回収できる可能性
住宅ローンの借り換えにかかる初期費用(諸費用)を、借り換えによって負担減となる利息分で回収できるかどうかが問題です。金利差が0.5%未満の場合は、多くのケースで数十万円の利息軽減効果が得られない可能性が高くなるといわれているためです。
2. 金利差が0.5%あれば「総支払額」に明確な差が出る
例えば、次の条件で借り換えをした場合の利息節約効果を見てみましょう。
借入額:2000万円
残期間:20年
現在の金利:1.5% → 借り換え後:1.0%
金利差:0.5%
この条件で借り換えると、元利均等返済の場合、約190万円前後の利息軽減効果があります。諸費用が30万円かかっても、160万円以上のメリットがあることになります。一方、金利差が0.2~0.3%では利息軽減効果は数十万円にとどまり、費用対効果が見込まれづらい結果となります。
3. 「金利差=リスクヘッジの価値」
借り換えで固定金利にする場合は、将来の金利上昇リスクを回避するリスクヘッジ的な意味もあります。これは将来の家計の予測が立てやすくなることを意味します。現在の日本では、日銀の金融政策の転換が進みつつあり、数年内にさらに金利が上昇する可能性があることを考えれば、精神的な安定を得るという金銭以外の価値にもつながります。
まとめ
変動金利の住宅ローンは、当初の金利が低く、月々の返済額を抑えられるのが魅力ですが、その一方で、市場金利が上がれば、将来の返済額も増える可能性があり、金利上昇リスクを私たち個人が負担する契約です。
また、固定金利は安心だが、初期費用や金利は高めであるという注意点を意識する必要があります。現在、日銀の金融政策の転換が進みつつあり、数年内にさらに金利が上昇する可能性もあるなかで、借り換えは「損得」だけでなく、「安心をお金で買う」という考え方も必要でしょう。
出典
金融経済教育推進機構(J-FLEC) 自分の城を手にいれる 住宅ローン虎の巻
執筆者 : 柴沼直美
CFP(R)認定者