20代・年収350万円、有利子の奨学金は早く返したほうがいいと思うのですが、少し無理をしてでも夏のボーナスで繰上返還するべきですか?
CFP(R)認定者
大学を卒業後、保険営業に従事したのち渡米。MBAを修得後、外資系金融機関にて企業分析・運用に従事。出産・介護を機に現職。3人の子育てから教育費の捻出・方法・留学まで助言経験豊富。老後問題では、成年後見人・介護施設選び・相続発生時の手続きについてもアドバイス経験多数。現在は、FP業務と教育機関での講師業を行う。2017年6月より2018年5月まで日本FP協会広報スタッフ
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有利子奨学金とは?
多くの方が借りている日本学生支援機構(JASSO)の第二種奨学金(有利子)は、「利率固定」と「利率見直し方式」の2種類があり、どちらも基本月額に係る利率の上限は3.0%です。令和6年現在の利率は0.3~0.5%台が中心ですが、貸与時期や市場金利の動向によって変動する場合があります。
つまり、有利子奨学金は「金利負担は決して大きくはないものの、確実に発生する借金」です。しかし、「繰上返還」をすれば利息を減らす効果が期待できるため、十分検討に値します。
ボーナス返済で家計を圧迫しないか?
ご相談者さまのケースは、年収350万円の20代会社員です。推定額として、月額手取りが約22~23万円、ボーナス(夏・冬)手取りが各20〜30万円程度と想定されます。
夏のボーナスが25万円あった場合、奨学金の繰上返還に充てたい気持ちは理解できますが、生活費や緊急資金、将来の準備との返済バランスを十分に考慮することが大事です。
例えば、ボーナスで月々の家計の赤字分を補てんしている場合や、実家帰省や冠婚葬祭などの予備費として確保する必要がある場合は、返済に充てすぎてしまうと、日常の家計生活に支障が出る可能性がありますので、慎重に検討しましょう。
繰上返還、検討のポイント
繰上返還に充てるかどうかを検討するときに、抑えておきたいポイントは以下のとおりです。
1. 「緊急予備資金」は確保できているか?
社会人にとっていざというときのために手元に残しておくべき資金として、生活費3~6ヶ月分の現金を確保しておくことは必須です。月額の支出が20万円の場合は、最低でも60万円は残しておくべきです。その金額未満であれば、緊急資金を確保してから繰上返還を検討しましょう。
2. 奨学金の金利より「高金利の借金」はないか?
奨学金はまとまった借金なので、ついつい「早く返済を完了させたい」という気持ちが先走りしがちですが、実は毎月何気なく利用しているクレジットカードのリボ払いやローンの金利のほうが高いものです(一般的に年利約10~15%)。もしそちらに残債があれば、まず優先的に返済してからにしましょう。
3. 奨学金の繰上返還で「どのくらい利息が減るのか」を把握しているか?
例えば、残高100万円で0.4%の金利なら、利息は年間約4000円です。このうち10万円を繰上返済したとしても、利息軽減は年間400円程度にとどまることもあります。
しかし、小額の繰上返還では目に見える負担軽減を感じにくく、「繰上返還を実施しても、将来に向けての負担軽減は実感できない」こともあるため、JASSOの返還シミュレーションなどを利用し、正確に把握することが大切です。
積極的な返還額より、「貯めながら返す」方法も検討
ボーナスの一部を「繰上返還用口座」にストックし、 残りを「つみたてNISA」など将来のライフイベントに向けた資産構築に充てるのもいいでしょう。別口座にあらかじめ分けることによって、なし崩し的に使ってしまうことを防ぐことができます。
ただし、緊急的に資金が必要になった場合の保険として手元にキープしておくと、いざというときに新たに高金利の借金を作ってしまうことをせずにすみます。奨学金を借りても、「何が何でも、今すぐ返済する」ことだけが正解ではないと、広い視野でとらえましょう。
繰上返還しても大丈夫な場合
以下に当てはまる場合は、ボーナスを繰上返済にまわすことを検討してもよいでしょう。
1. 緊急予備資金がすでに50~100万円以上ある
前述のとおりです。いざというときのための資金が十分に確保されていれば、積極的に返済にまわしても、新たに高金利のローンを契約する可能性は低いでしょう。
2. ほかに高金利の借金はない
より高金利の借金はない、完済してしまった場合には、繰上返還に充ててストレスを取り除くのも賢明です。
3. 今後の収支に余裕があり、金銭的ストレスを減らしたい
今後の給与やボーナスの見通しが明るく、ボーナスを繰上返還にまわしても家計を圧迫する可能性が低いということがしっかり見通せる場合には、検討・実施していいといえるでしょう。
まとめ
奨学金は「借金」ですが、「投資の成果」でもあります。完済までを焦らず、“使う・貯める・返す”のバランスを意識していきましょう。
そのために心掛けるポイントは、年0.4~0.5%程度なら繰り上げの利息軽減はそれほど大きくないこと。それよりも、一定の緊急予備資金が確保されているか、ほかに高金利ローンはないかという点を検討して、日々の家計運営が圧迫されない範囲で、部分繰り上げや将来準備の組み合わせをシミュレーションしながら進めることです。
出典
独立行政法人日本学生支援機構 第二種奨学金(有利子で借りる)
独立行政法人日本学生支援機構 繰上返還について
独立行政法人日本学生支援機構 奨学金貸与・返還シミュレーション
執筆者 : 柴沼直美
CFP(R)認定者