夫に「退職金1000万円」で“住宅ローン”を返済しようと言うと「年3%で運用するほうが得」と言われました。実際どれだけの差になりますか? 差額をシミュレーション
一方で、「返済するより、退職金を運用したほうがメリットは大きいのでは?」という意見も耳にします。
特に最近は、株式や投資信託などで資産形成に取り組む人が増えたこともあり、「退職金は資産運用に回したい」と考えるパートナーと意見が分かれる家庭も少なくありません。
実際のところ、住宅ローンを完済せずに運用するのは本当に得なのでしょうか。本記事では、住宅ローンと運用の基本的な考え方、団信という見落とされがちなポイント、さらに現実的な折衷案について解説します。
2級ファイナンシャルプランニング技能士/日商簿記3級/第一種衛生管理者/証券外務員/英検2級など
判断の軸は「金利」と「リスク」
最初に押さえたいのが、「住宅ローンの金利」と「運用の利回り」の関係です。
一般的に、ローン金利より運用利回りが高ければ、ローンを完済せずに手元に残したお金を運用したほうが資産は増えやすくなります。例えば、住宅ローン残高が1000万円、金利0.8%のケースを考えてみましょう。
金利0.8%であれば、単純計算では
1000万円×0.8%=年間約8万円の利息負担になります。
一方、同じ1000万円を年3%の利回りで運用した場合、
1000万円×3%=年間約30万円の運用益が期待できます。
もしも住宅ローンを完済せずにローンを払いつつ、退職金1000万円を年3%の利回りで運用できたとすると、
・運用益:約30万円
・ローン利息:約8万円
となり、差額は年間で約22万円のプラスです。つまり、「返済せずに運用したほうが有利」という結論になります。
もちろん、運用利回り3%は確定ではなく、相場状況によって変動します。しかし、単純に金利と利回りの差だけを見ると、金利の低い住宅ローンを急いで返すより、手元に残して運用したほうが資産は増える可能性がある、というわけです。
住宅ローンには「団信」がついている
もう1つ忘れてはいけないのが、団体信用生命保険(団信)の存在です。団信とは、住宅ローンの契約者が亡くなったり、高度障害状態になったりした際に、残りの住宅ローンが保険によって完済される仕組みです。
つまり、ローンを返済し続けている間は、もしものときに残債がゼロになるという大きな保障が得られることになります。このため、退職金で繰り上げ返済をしてしまうと、団信の保険機能は失われます。特に、
・持病があり、新たに生命保険に入りにくい
・世帯収入が片方に偏っている
・子どもがまだ独立していない
といった家庭では、団信の価値は決して小さくありません。
住宅ローン一括返済は「手元資金」も減る
退職後は収入が減るため、手元資金をどれだけ残せるかは生活の安定に大きく関わります。
住宅ローンを全額返済してしまうと、借金がなくなる一方で、手元の資金が大きく減ってしまいます。急な医療費、家の修繕費、車の買い替えなど、想定外の支出が生じた場合に対応しにくくなる可能性があります。
ローンを完済せずに一定の資金を残しておけば、生活防衛資金としての役割を果たし、必要に応じて運用もできます。「安心できる老後」を重視するのであれば、単純に借金がゼロになるだけでなく、手元資金の余裕を残せるかも大切な判断材料になります。
一部返済+一部運用もあり
住宅ローンを「全額返すか、全額運用か」という二択で考える必要はありません。
実際には、「退職金の一部を返済に充てて利息負担を減らし、残りを手元資金や運用に回す」という折衷案を選ぶ家庭も多くあります。特に、金融リスクを取りすぎたくない家庭や、老後の生活費に不安がある家庭にとっては、現実的な選択肢の1つと言えるでしょう。
まとめ
退職後の住宅ローンについて、一般的には、住宅ローンの金利よりも運用利回りが高ければ、手元に資金を残して運用したほうが総資産は増えやすくなります。とはいえ、一括返済をする場合もしない場合も、それぞれでメリット・デメリットや考慮すべき点はあります。
退職金は人生の中でも大きな資金です。焦らず、安心して老後を迎えるために、自分たちにとって最も納得できる形を選んでいきましょう。
執筆者 : 三浦大幸
2級ファイナンシャルプランニング技能士/日商簿記3級/第一種衛生管理者/証券外務員/英検2級など