更新日: 2019.01.10 介護
5人に1人が高齢者?親が認知症になる前に知っておかないと損する制度
例えば、介護施設への入居の手続きができなくなったり、必要なお金を定期預金から普通預金に移したり、口座から現金を引き出すことにも支障をきたすことが考えられます。このような状態になってしまっては、手の施しようがなくなってしまいます。その前に知っておきたい対策として、成年後見制度と家族信託があります。
Text:尾上好美(おうえ よしみ)
アルファプランナーズ代表
1級ファイナンシャル・プランニング技能士
CFP(R)認定者
2級キャリア・コンサルティング技能士
大学卒業後、IT関連企業で、技術支援、マーケティング職等の業務に約12年間従事した後、子育てを経て、CFP®として独立。現在、ファイナンシャルプランナーとキャリアコンサルタントを兼業し、仕事(キャリア)と資産運用に関する相談業務、講師、執筆を行っている。住宅相談、教育資金に関する相談、リタイアメントプラン、相続など、子育て世代から中高年世代からの個人相談に数多く対応。「後悔のない選択ができた」と感じてもらえるような支援やサービスの提供を志している。
特に問題になるのは、不動産収入がある親のお金の管理
不動産の所有者が、認知症などになってしまった場合を考えてみましょう。
所有者の判断がなくては、その土地や建物の家賃収入や売却を家族が代行することはできないため、不動産事業を続けるうえで大きな問題になります。たとえば、父親がアパート経営などをして、不動産所得を得ていたとしましょう。父親が認知症になったとしても、その物件の所有権は父親が持っています。
財産を売却したり、修繕したりすることを決められるのは、所有権を持っている者のみです。日頃、同じ事業を手助けしている親族であったとしても、所有者である父親の承諾を得ずに売却することはできません。
これでは、賃貸などの不動産所得で生計を立てている家族にとっては、不動産市場の景況によっては売買の好機を逃すことにもなります。このような場合に考えられる事前の対策には、成年後見制度がありました。
成年後見制度の限界
成年後見制度では、親族や弁護士、司法書士などが、本人に代わって財産管理や契約行為を行うことができる制度です。この成年後見制度には、任意後見制度と法定後見制度の2つがあります。
任意後見制度は、本人の判断が問題ない状態で、将来、自分が認知症になってしまったときのために、後見人を選べる制度です。法定後見制度は、既に判断能力が低下してしまった後に、後見人を家庭裁判所が選ぶ制度です。
どちらの制度でも、後見制度を開始した場合には、後見人が本人の代わりに、介護施設の入居の手続きや、銀行での預金の入手金などが行えるようになります。
しかし、後見人は、その人の財産を運用して利益を出すことが目的ではないため、生前贈与や不動産の買い換えや収益不動産の建設、株や投資信託、生命保険契約等の相続税対策や積極的な資産運用は行えなくなります。
家族信託とは?
このような認知症への対策として注目されているのが、家族信託です。この家族信託は「財産の所有権のうち、管理する権利だけを信頼できる家族に移す」ことができる契約です。
不動産所得がある親の場合でいうと、賃貸収入や売却代金は親に残したまま、不動産の管理は信頼できる家族に任せることができます。
元気なうちから資産の運用・処分方針等を決定しておけば、信託契約において信頼できる親族等を受託者として資産を預けることによって、家族信託が持つ「意思凍結機能」を活用し、成年後見制度の利用では実現できなかった相続税対策・資産承継対策を本人の亡くなる寸前まで行うことができます。
現在、家族信託を利用するうえで問題となるのは、まだ、社会的認知度が低く、対応できる専門家が少ないことでしょう。
家族信託では、司法書士や弁護士等の専門家は受託者になれず、家族の中に適切な受託者がいない場合には、家族信託ではなく、信託会社に手数料を払い受託者を務めてもらう商事信託を選ぶ必要があります。
さらに、家族の中に信頼できる受託者がいたとしても、その契約書を作成する司法書士や行政書士が家族信託に対する認知度が高くないため、契約までの手続きを依頼する際に困ることがあるようです。
このようなことを踏まえながら、手遅れにならないように、老後の資産管理については事前に対策を練っておきましょう。
Text:尾上 好美(おうえ よしみ)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(R)認定者
2級キャリア・コンサルティング技能士
アルファプランナーズ代表