2018.12.15 老後

「サービス付き高齢者向け住宅」が抱える課題

執筆者 : 黒木達也

日本人の平均寿命が長くなるにつれ、介護をめぐる環境はますます厳しさを増しています。業界内での人手不足は非常に深刻で、改善すべき点も多々あります。
 
高齢者向けの施設の中で、最近増加傾向にあり、注目されている「サービス付き高齢者向け住宅」(略称・サ高住)ですが、同時に課題も浮き彫りになってきています。
 

老人ホームに入居したくてもできない

代表的な高齢者施設として、介護体制が整っているものとして公共の「特別養護老人ホーム」と民間の「有料老人ホーム」があります。
 
ところが「特別養護老人ホーム」は、費用は月に8万円から15万円と比較的安いのですが、重症な要介護者を優先的に入居させるため、要介護3程度までの人は簡単には入居できません。入居待ちの状態が長く続いています。
 
一方、民間の「有料老人ホーム」の入居条件は、自立者、要介護者ともに入居可能でハードルは低い半面、毎月かかる費用がかなり高く、月に40万円から60万円程度かかる施設が多くあり、入居を躊躇する人もかなりいます。
 
介護の現場で深刻なのが、慢性的な人手不足です。介護業界は、給与が低い、仕事がきついといった条件を抱え、離職者が絶えず、その補充が十分に進んでいません。
 
特別養護老人ホームの中には、ベッド数が余っているにも関わらず、職員を採用できないために、入所を断っている施設すら出ています。
 

サービス付き高齢者向け住宅の特性

最近増えている「サービス付き高齢者向け住宅」は、この施設は他の老人ホームと性格が多少異なります。本来は民間が運営する高齢者向けの賃貸住宅の一種で、居室スペースが広いバリアフリーの住宅で、正確にいえば「介護施設」ではありません。
 
60歳以上なら入居が可能で、運動なども出来るアクティブなシニアに適した施設です。軽度な障害を持っていても、入居に問題はありません。施設からの外出も原則自由です。
 
「サ高住」で提供されるサービスは、入居者の安否確認、生活相談サービスが基本で、食事の介助、病状の管理、夜間の緊急医療対応などは通常含まれていません。夜間の介護スタッフの常駐も不要で、緊急通報システムが完備されていれば問題はありません。
 
医師の派遣についても、必要に応じて外部業者からサービスを受ける仕組みです。そのため入居費用も比較的安く、月額10万円~25万円くらいが多いようです。
 
ただし、「サ高住」の中で「特定施設」の指定を受けていると、ここの入居者は、介護面で有料老人ホームに近いサービスが受けられます。最近では、この指定を受け、実質的に有料老人ホームの機能を担っている「サ高住」も増えています。
 
特養などの老人ホームは、介護スタッフの人員、夜間の人員配置、医師との連絡体制など施設に対する条件があり、要員が確保できないと施設の運営ができません。また離職者の補充が出来ない場合は、仮に空室があっても入居者の受け入れができません。
 
そのため特別養護老人ホームへの入居待ちの人は、全国で40万人とも50万人ともいわれています。これに対して「サ高住」は、本来介護目的の施設ではないために、新規参入も比較的容易で、市立病院などが自前でつくり、病状が改善した入院患者を、施設に移すことも可能です。
 

施設の実態は想像以上に厳しい

こうした特徴をもつ「サービス付き高齢者向け住宅」の実態を見ると、かなり厳しい現実が見えてきます。例えば、夜間に職員の手薄な時間帯に、転倒や骨折の事故が多い、また急な体調変化により死亡する人も多い、といわれています。
 
徘徊の危険のある認知症の患者や要介護3以上の人は、通常の「サ高住」への入居は無理だと思われます。しかし自宅などでは手に負えなくなり、いわば「駆け込み寺」的に入居する人も多くいます。
 
ある調査によると、実際の入居者のうち、要介護3以上の重症者の割合は30%以上、また認知症発症者の割合も40%近くになる、という驚くべき結果が出ています。これは、本来の「サ高住」に入居予定者の基準に照らしても、非常に深刻な事態です。
 
入居者の属性は、高齢者向けの賃貸住宅の対象者ではなく、民間の有料老人ホームに近い状態です。介護に対する体制整備がほとんどない施設にも、要介護者が多く入居している事実は、行政から見てもこのまま放置できず、何らかの問題解決を迫られています。
 

入居者側も施設の特性の理解を

入居希望者も「サービス付き高齢者向け住宅」について、正しい認識が必要です。介護に対応できる終身の住処とは考えないことが大切です。
 
介護が不要な自立している人にとっては、キッチンもあり居住スペースも広く、自由な行動ができ快適な施設です。ただし要介護の人はそうではありません。
 
「特定施設」の指定を受けていれば、民間の有料老人ホームに近い介護もできますが、こうした施設ばかりではありません。特定施設の指定を受けているかは、入居前に必ず確認しましょう。
 
指定がない施設なら、元気なうちに入居した人が、要介護の状態になれば、別の施設へ移ることが必要になります。
 
重度の要介護者にとって、「サ高齢住」は適した施設ではありません。重症者が一時的に「サ高住」へ入居はあり得ますが、終身の住処と考えることは危険で、あくまで次のステップを考えるべきです。
 
「サ高住」の機能が「介護施設」ではなく、高齢者向けの「賃貸住宅」であることを十分認識し、過大な期待は避けたいものです。そこに齟齬が生じると、施設への不信が生まれます。
 
施設内での介護サービスについても、施設側に任せるのではなく、信頼できる業者を自分たちで選択することも大切です。
 
「特養の入居待ちだったが家庭で看るのは大変だから」、「入居時は丈夫だったが急速に衰えが目立つ」などの状態の入居者は、出来るだけ早い機会に次の施設、とくに終身の住処となる施設を見つけるようにしたいものです。
 
Text:黒木 達也(くろき たつや)
経済ジャーナリスト
 

黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。