【相談実例】会社を退職。健康保険は任意継続か国保か、メリットがあるのはどっち?
配信日: 2018.09.29 更新日: 2020.04.06
しかし、お話を聞いてみると、別の問題が発覚。それは、健康保険制度の加入選択についてです。山本様は保険料が高い健康保険制度に加入しようとしていたのです。さて、どういうことでしょうか。
執筆者:前田菜緒(まえだ なお)
FPオフィス And Asset 代表、CFP、FP相談ねっと認定FP、夫婦問題診断士
保険代理店勤務を経て独立。高齢出産夫婦が2人目を産み、マイホームを購入しても子どもが健全な環境で育ち、人生が黒字になるようライフプラン設計を行っている。子どもが寝てからでも相談できるよう、夜も相談業務を行っている。著書に「書けばわかる!わが家の家計にピッタリな子育て&教育費のかけ方」(翔泳社)
退職後の健康保険制度の選択肢とは
会社を退職して個人事業主になると、健康保険の加入には3つの選択肢があります。
1、任意継続健康保険(今まで会社で加入していた健康保険組合に2年間だけ引き続き加入)
2、国民健康保険
3、家族の健康保険
それぞれ保険料が違いますから、保険料の安い制度に加入するのがベストです。山本様は会社の総務の方に相談して、保険料は2の国民健康保険が安いと聞き国民健康保険に加入することを検討していました。
しかし、実際計算してみると1の任意継続が一番安かったのです。
任意継続保険料の計算方法
任意継続の保険料は、加入する健康保険組合によって異なりますが、保険料の計算の仕組みは、どこの健保もほぼ同じです。標準報酬月額をもとに計算されます。標準報酬月額とは、健康保険料や厚生年金保険料を決定する基準となる金額で、給与をもとに決定されます。
会社員時代の保険料は労使折半ですが、退職後は全額自己負担になります。しかし、保険料負担額には上限がありますから、全額自己負担になるとはいえ、退職時の給与が高い場合は、保険料が下がるケースもあります。
では、協会けんぽに加入していたケースで保険料がいくらになるか考えてみましょう。
下記は、協会けんぽのホームページに掲載されている東京都の保険料額表です。
例えば、退職時の標準報酬月額が20万円、30歳の方の場合、会社員時代の保険料負担額は紫枠9,900円ですが、退職後は全額自己負担となるため、青枠19,800円になります。
山本様の場合、保険料は38,000円になりました。
国民健康保険料の計算
国保の計算は住民税をもとに計算しますから、少々複雑です。自治体によっては、ホームページから保険料をシミュレーションできるところもあります。その際、源泉徴収票が必要ですから、お手元に用意の上、お住まいの自治体のホームページを調べてみると良いでしょう。
山本様のケースを計算すると、保険料は58,000円でした。
なお、選択肢3番の「家族の健康保険」については、山本様の奥様が会社員で健康保険組合に加入していれば、選択可能ですが、奥様は専業主婦なので3番は選択不可でした。
会社から国保が安いといわれた理由
山本様は会社の総務に確認したところ、国保のほうが安いという回答を受けていました。しかし、計算してみると任意継続は38,000円、国保は58,000円で、国保のほうが1ヵ月2万円も高いのです。
実は、会社の総務の方は、国保の計算の際、山本様の家族分の保険料を計算し忘れていたのです。山本様はお子様1人と奥様の3人家族で、お子様も奥様も山本様の扶養に入っています。
任意継続の場合は、標準報酬月額だけを確認すれば、保険料はもとめられます。その保険料だけで家族(被扶養者)の保険証が発行されます。
しかし、国保の場合は、加入する家族の人数や所得も保険料計算に含める必要があります。会社の総務の方は、国保の計算にそれらの情報が必要であるという認識がなかったのです。
山本様は、後日会社に再確認したところ、計算に誤りがあったと謝罪されたそうです。さいわい、山本様は有給消化中で、まだ会社に在職していたため、国保加入の手続きはしていませんでした。有給終了後に任意継続の手続きをしました。
自分でも計算してみよう
今回、山本様は健康保険の件で相談に来られたわけではありませんでした。しかし、1ヵ月2万円も高い保険料を支払うことを回避できました。このようにFP相談では、思わぬところで家計改善が見つかることは、珍しくありません。
健康保険料については、会社の担当者に聞くのが最も簡単な方法ですから、相談されることが多いと思います。しかし、その回答が正しいか確認することは大切です。
任意継続か国保かシュミレーションできるサイトもいくつかありますから、自分でも確認してみましょう。そして、不明点があれば会社の担当に確認することで、より正確な回答を出すことができるでしょう。
Text:前田 菜緒(まえだ なお)
CFP(R)認定者