更新日: 2024.07.27 セカンドライフ
定年後も働くとどんなメリット・デメリットがありますか? 年金が一部支給停止になっても働くか、働かずに年金を全額受け取るか迷います
65歳の定年後、何らかの形で働き続けたいと思っていますが、収入によっては年金が一部支給停止になると知り、働き続けるか、働かずに年金を全額受け取るか、迷っているそうです。貯金は500万円ほどですが、退職金は1000万円ほど受け取れる予定です。
執筆者:蟹山淳子(かにやま・じゅんこ)
CFP(R)認定者
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー
蟹山FPオフィス代表
大学卒業後、銀行勤務を経て専業主婦となり、二世帯住宅で夫の両親と同居、2人の子どもを育てる。1997年夫と死別、シングルマザーとなる。以後、自身の資産管理、義父の認知症介護、相続など、自分でプランを立てながら対応。2004年CFP取得。2011年慶應義塾大学経済学部(通信過程)卒業。2015年、日本FP協会「くらしとお金のFP相談室」相談員。2016年日本FP協会、広報センタースタッフ。子どもの受験は幼稚園から大学まですべて経験。3回の介護と3回の相続を経験。その他、宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー等の資格も保有。
働き続けると年金は減らされる?
60歳以降も厚生年金に加入して働く人が受け取れる年金を、在職老齢年金といいます。在職老齢年金を受け取るときには、老齢厚生年金の額と給与やボーナスの額に応じて、年金額の一部または全部が支給停止になることがあります。Aさんが気にしていたのは、働き続けることで自分の年金がどのくらい減らされるかということでした。
年金が一部支給停止になるのは、「老齢厚生年金の月額」と「月給とボーナス(直近1年に受け取った額の1/12)」の合計が50万円以上になる場合で、その超えた額の1/2が支給停止となります。月額が50万円未満の場合、年金の支給停止はありません。
支給停止額の試算
Aさんが定年後も働き続けた場合、年金がどのくらい支給停止になるのか、試算してみましょう。年収500万円なので、給与・ボーナスは月額で42万円と仮置きします。Aさんの「ねんきん定期便」を基に計算したところ、65歳まで同じ条件で働き続けた場合、受け取れる年金の見込み額は月約18万円となりました。この金額を基に計算します。
支給停止の対象額: (42+18)- 50 = 10万円
支給停止される額: 10 × 1/2 = 5万円
受け取れる年金額: 18 - 5 = 13万円
ただし、これは定年後も年収が変わらなかった場合です。定年後は収入が減ることも多いでしょうから、年収が300万円になった場合を計算してみましょう。給与・ボーナスを月25万円、年金は月18万円とします。
支給停止の対象額: 25 + 18 - 50 < 0
支給停止される額: なし
受け取れる年金額: 18万円
定年後も働き続けたからといって、必ずしも年金が一部支給停止になるとは限りません。一部支給停止になるか、ならないか、またどのくらい支給停止になるかは、Aさんがどのような働き方をして、給与・ボーナスをいくら受け取るのかによって異なるのです。
働き続けることで年金額が増えるメリット
老齢厚生年金のうち、報酬比例部分は加入期間の給与・ボーナスの平均と厚生年金の加入月数で計算するので、加入月数が増えれば年金額は増えます。
厚生年金に加入できるのは70歳までなので、増える年金額は多くないかもしれません。年収500万円で5年間働き続けたとしても、月1万円程度ではないでしょうか。しかし、人生100年時代の備えとして、年金は少しでも多く受け取れるようにしておいたほうが安心です。
定年退職した場合と働き続けた場合の収入の差
65歳から受け取れる年金額を月18万円と仮定して、定年後に年収500万円、300万円で働き続けた場合の年収を、上記の試算を基に計算してみます。
■ 定年退職後の収入は年金のみ
年金:18万円 × 12ヶ月 = 216万円
■ 年収500万円で働き続けた場合
年金:13万円 × 12ヶ月 = 156万円
収入合計額: 156万円 + 500万円 = 656万円
■ 年収300万円で働き続けた場合
年金:216万円
収入合計額: 216万円 + 300万円 = 516万円
収入が増えれば、所得税・住民税、社会保険料も増えるので、増えた金額すべてを受け取れるわけではありません。ただ、Aさんの年金だけでは216万円、妻の老齢国民年金が80万円とすれば、合計296万円です。夫婦で年金が296万円あれば十分生活していくことはできるでしょうが、何かあれば、すぐに退職金を取り崩す必要がでてきそうです。
同じ生活レベルで定年後も働き続ければ、貯蓄が増やすこともできますし、より余裕のある老後を過ごせるのではないでしょうか。
働き続けることのメリット・デメリット
定年後も働き続けた場合のデメリットには、老齢厚生年金の額と給与やボーナスの額が一定の基準を超えると、年金額の一部または全部が支給停止になることがあります。一方、メリットとしては、厚生年金に加入して働き続ければ、老齢厚生年金の受給額が増加すること、収入が増えることで生活にゆとりができることが挙げられます。
自分の年金額が一部でも減らされるとしたら、不本意かもしれませんが、全体として、どのくらいの収入を得られるかのほうが重要ではないでしょうか。年金と月給、ボーナス(直近1年の1/12)が月50万円に達しなければ、年金が減らされることはありません。支給停止になるのも、50万円を超えた額の1/2です。
Aさんと相談した結果、年金の一部支給停止にはこだわらず、定年後も無理のない働き方で、仕事を続けたいという結論になりました。
出典
日本年金機構 在職老齢年金の計算方法
執筆者:蟹山淳子
CFP(R)認定者