更新日: 2020.04.07 セカンドライフ
高年齢雇用継続給付を受けると、年金がカットになるって本当?
しかし、その高年齢雇用継続給付と年金が受け取れるようになると、年金の支給が調整されることがあります。
執筆者:井内義典(いのうち よしのり)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(R)認定者、特定社会保険労務士、1級DCプランナー
専門は公的年金で、活動拠点は横浜。これまで公的年金についてのFP個別相談、金融機関での相談などに従事してきたほか、社労士向け・FP向け・地方自治体職員向けの教育研修や、専門誌等での執筆も行ってきています。
日本年金学会会員、㈱服部年金企画講師、FP相談ねっと認定FP(https://fpsdn.net/fp/yinouchi/)。
60歳以降勤務する人のための高年齢雇用継続給付
勤務してきた会社の規程により60歳で定年を迎えても、同じ会社で再雇用され、60歳以降も勤務する人も多いかと思います。また、一方で、60歳以降に退職し、その後65歳までに再就職することもあると思います。しかし、再雇用されてからの賃金、再就職してからの賃金は定年前と比べて大幅に下がることもあるでしょう。
そこで、定年まで5年以上継続して雇用保険に加入し、60歳以降の賃金(給与)が60歳時点の賃金の75%未満になる場合は、雇用保険制度から高年齢雇用継続給付(高年齢雇用継続基本給付金・高年齢再就職給付金)が支給されることになり、低下した賃金の一部が補填されることになります。
ただし、60歳到達時の賃金の月額の上限は476,700円(令和元年8月から令和2年7月までの場合)となりますので、60歳到達時の賃金が50万円だった場合も上限の476,700円を元に、その何%になったかで支給が決まります。
高年齢雇用継続基本給付金は、定年後に嘱託等で再雇用されて勤務している人(雇用保険の被保険者となっている人)に支給される給付金で、60歳到達月から65歳になる月まで支給されます。つまり最大5年間支給されることになります。もし、60歳になった時点で雇用保険の加入が5年に満たない場合は5年を満たした月から65歳になる月まで支給されることになります。
一方、高年齢再就職給付金は、雇用保険の加入が5年以上あって離職して失業し、その後、再就職した人(雇用保険の被保険者となっている人)に支給される給付金となり、失業給付である基本手当の支給残日数が200日以上ある場合は2年間、100日以上ある場合は1年間を限度として65歳になる月まで支給されます。
60歳時点の賃金の75%以上の賃金を受ける場合や、60歳以降の賃金が363,359円(令和元年8月から令和2年7月までの額)以上である場合は、高年齢雇用継続給付は支給されないことになります。
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高年齢雇用継続給付の支給率
高年齢雇用継続基本給付金、高年齢再就職給付金の支給対象となる期間は前述のとおりですが、実際、給付金はいくら支給されるかについては、60歳以降の賃金が60歳時点の賃金の何%になったかによって変わってきます。
もし、61%以下であれば、60歳以降の各月について、60歳以降の賃金の15%分が支給されることになります(【図表1】「高年齢雇用継続給付の支給率」を参照)。60歳以降の賃金が61%を超えて75%未満である場合、賃金の15%は支給されず、【図表1】の「高年齢雇用継続給付の支給率」のとおり、賃金が何%に低下したかによって給付金が計算されることになります。
なお、60歳以降の賃金と給付金の合計が先述の363,359円以上になる場合は、363,359円から60歳以降の賃金を差し引いた額が給付金の額となります。
高年齢雇用継続給付を受けると、年金が一部カット
このように下がった賃金の一部を補填する高年齢雇用継続給付ですが、在職して厚生年金被保険者となっている人が特別支給の老齢厚生年金(60歳台前半の老齢厚生年金)を受給できるようになって以降、高年齢雇用継続給付を受けると、当該年金の一部が支給されないことになっています(支給停止)。
高年齢雇用継続給付として賃金の何%分を受給するかによって、当該年金の支給停止額も変わりますが、賃金(給与)の15%の高年齢雇用継続給付を受けた場合では、年金は標準報酬月額(給与)の6%がカットされることになります(【図表1】「年金の支給停止率」参照)。
在職老齢年金制度による調整も加わる
特別支給の老齢厚生年金については、高年齢雇用継続給付を受けることによる支給停止だけではありません。
在職中で厚生年金被保険者であれば、まず、在職老齢年金制度による支給停止がされることになっていますので、そこからさらに高年齢雇用継続給付を受けることによる支給停止がされると、年金のカットが2段階となります。
【図表2】のように、年金の月額が10万円で、60歳以降の給与(賃金・標準報酬月額)が、60歳時点(41万円)の61%以下である22万円だとします(賞与はなし)。まず、年金10万円と給与22万円を足すと32万円となりますが、そこから28万円を差し引いた4万円の2分の1である2万円が在職老齢年金制度によって支給停止されます。月額10万円に対する2万円の支給停止ですので、年額では120万円に対する24万円の支給停止として計算されることになります。
一方、41万円だった給与が60歳以降は22万円にまで下がると、高年齢雇用継続給付として、22万円の15%である33,000円を受け取ることになります。この月額33,000円の給付金を受け取ることになると、標準報酬月額22万円の6%である13,200円の年金がさらに支給停止となります。10万円の年金のうち、20,000円+13,200円の合計33,200円がカットされることになり、結果、受け取れる年金としては月額66,800円となります。
この66,800円に33,000円の高年齢雇用継続給付、給与22万円を足すと、1か月の収入の合計額として319,800円となるでしょう(ただし、税金や社会保険料、雇用保険料が引かれる前の金額となります。)。
このように、特別支給の老齢厚生年金に2段階で支給調整が入る場合もありますので、当該年金を受け取れる人は、60歳から65歳までの収入の見通しを立てるにあたって注意が必要となります。なお、再就職の際に受け取れる高年齢再就職給付金は同じ雇用保険の再就職手当とは併せて受け取ることはできませんので、この点も注意が必要となります。
雇用保険制度の給付金ですので、高年齢雇用継続給付の受給の手続きはハローワーク(公共職業安定所)に行うことになっていますが、基本的に勤務している会社を通して行われることになります。60歳以降勤務する人は会社からの高年齢雇用継続給付の案内や受給の可否、受給額を確認してみましょう。
Text:井内 義典(いのうち よしのり)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(R)認定者、特定社会保険労務士、1級DCプランナー