生涯東京で暮らすつもりですが、戸建てもマンションも高すぎて手が出ません。「ずっと賃貸」では将来不安でしょうか?
今回は、マイホームを持たず、生涯賃貸住宅に暮らすことのメリット・デメリットを考えてみます。
お金と不動産相続のコンシェルジュ
宅地建物取引士・AFP・住宅ローンアドバイザー・相続診断士
目次
はじめに:東京にずっと住みたいけれど…… しかし家を買うことが難しい現代
「東京にずっと住みたい。けれど、家を買うのは現実的じゃない」そのような声が、30~50代の働き盛りの方たちからよく聞かれます。
新築マンションの平均価格が1億円を超えるという首都圏の住宅事情。中古住宅でさえ、東京23区内では7000万円を超える物件も少なくありません。そのようななかで、「このままずっと賃貸で大丈夫だろうか」という漠然とした不安を抱えている人も多いかもしれません。では、実際に「ずっと賃貸」は不安な選択肢なのでしょうか?
東京で家を持つことの難しさ
株式会社不動産経済研究所の調査によれば、2025年時点で首都圏の新築マンション平均価格は1億円超です。千代田区や港区などの中心部では、1戸あたり2億円以上の価格帯も珍しくありません。
「新築は無理でも中古なら」と考えても、前述の通り、23区の中古戸建ては平均7000万円台です。これは一般的な会社員世帯にとっても、容易に手が届く金額ではありません。このような現実を前に、「家は買わない」というより「買えない」という意識が強まるのは、当然ともいえるでしょう。
老後と賃貸の不安
本当に“老後が怖い”? よく挙げられる賃貸の不安には、以下のようなものがあります。
●高齢期に家賃を払い続けられるか
●高齢者の入居審査に通るのか(入居拒否リスク)
●資産形成ができないのではないか
●家族への責任として「安定した住まい」を持つべきでは?
国土交通省の調査によれば、高齢者の入居を敬遠する賃貸オーナーは全体の約7割にものぼります。
たしかに、何の備えもないまま高齢期を迎えるのはリスクです。しかし、「賃貸」=「不安」という方程式は、今の時代には当てはまりません。
“持たない”ことで得られる自由と可能性
賃貸には、持ち家にないメリットもあります。
●転勤やライフステージに応じた柔軟な住み替えができる
●固定資産税や修繕費、管理費などの維持コストが不要
●万が一の災害や事故時にもリスクを限定できる
「今の家に一生住む」前提ではなく、「今の自分に最適な住まいを選び続ける」という柔軟な発想が、むしろ都市生活にはフィットします。また、持ち家にまわす予定だった頭金や修繕費、固定資産税などをiDeCoやNISAなどで運用すれば、将来の家賃原資や医療・介護費に備えることも可能です。
老後の住まいは「整える」もの
老後に賃貸で住み続けるには、いくつかの備えが必要です。
●年金や投資益、預貯金による家賃支払い能力の確保
●セーフティーネット住宅やUR高齢者向け住宅などの情報収集
●賃貸保証制度や居住支援協議会など、地域の支援資源の理解
「高齢者は入居を断られる」といった不安も、近年では制度や支援団体の拡充により緩和されつつあります。一方で、持ち家にも老後の修繕費(300~500万円規模)や固定資産税など、見えにくいコストがあります。どちらにも備えは必要です。
おわりに:自分らしく生きていくために今できること
「賃貸=不安」「持ち家=安心」という構図は、すでに時代遅れかもしれません。大切なのは、どんな住まいを“持つか”ではなく、どんな暮らし方に“備えるか”。住宅は“資産”ではなく、“人生の土台としてのコスト”と捉える柔軟さが、これからの都市生活には求められます。
「定年になったら田舎に帰ろうかな」と考えている方も、今が準備のラストチャンスかもしれません。人生100年時代、未来の暮らしを他人任せにせず、自分の意思で選べる力を持つことが重要です。 このコラムが、その第一歩になれば幸いです。
出典
株式会社不動産経済研究所 首都圏 新築分譲マンション市場動向 2025年4月
国土交通省 高齢者の建物賃貸借契約における実務上の課題 -ヒアリング調査を通じて見えた実態と今後の調査の視点-
執筆者 : 稲場晃美
お金と不動産相続のコンシェルジュ
宅地建物取引士・AFP・住宅ローンアドバイザー・相続診断士