高齢の親が介護施設に入所した。無人になった実家、維持すべき? 売るべき?
お金と不動産相続のコンシェルジュ
宅地建物取引士・AFP・住宅ローンアドバイザー・相続診断士
空き家放置のリスクは想像以上に深刻
「親が介護施設に入る。そのとき、実家をどうすればいいのか?」
多くの方が、その日がくる直前になって慌てて考え始めます。しかし、大切な家のことだからこそ、親が元気で、家族がそろっている「今こそ」向き合うべき問題です。
無人になった実家を“取りあえず放置”する。これは、最も危険な選択肢です。
まず、「固定資産税」や「都市計画税」はかかり続けます。また、手入れを怠れば、家は急速に傷み、近隣トラブルや犯罪の温床となるリスクもあります。2023年の法改正で「管理不全空き家」に指定されると、税制優遇が解除され、税金が最大6倍に跳ね上がるリスクも生じます。
家という資産が、気づかぬうちに家族の絆やお金をむしばんでいく…… それが「空き家」がもたらす現実なのです。
生前だからこそ考えたい2つの選択肢
では、親が元気なうちに、何をどう決めておくべきか、選択肢は、大きく分けて次の2つです。
1. 実家を売却する
最大のメリットは、管理の手間から解放され、まとまった現金を得られることです。この資金は、親の介護費用やご自身の生活資金に充てることができます。売却には、不動産会社が買い手を見つける「仲介」と、直接買い取ってもらう「買い取り」があり、それぞれメリット・デメリットがあります。
特に、親御さんを亡くされた後の売却には、「空き家特例」が適用される可能性があります。これは、相続した空き家を売却した場合、最大3000万円まで売却益が控除される制度です。詳細は、国税庁のウエブサイトで確認してください。
2. 将来に備えて”仕組み“を整える
不動産は現金とは違って分けられないため、兄弟姉妹間でトラブルになりがちです。ここで有効なのが「民事信託(家族信託)」です。
もし親が認知症になると、たとえあなたがお子さんでも、親の財産は凍結され、誰も勝手に実家の売却や賃貸に出す、リフォームするといったことができなくなってしまいます。このリスクは、親がアパートなどの不動産を経営している場合も同様です。
家族信託は専門家への依頼が必要ですが、事前に決めたルールに基づいて、受託者である家族が、将来の状況に応じて売却はもちろん、賃貸として活用するなど、柔軟な対応が可能になります。
大切な家と、家族の未来を守るために
どの選択肢も正解ですが、共通していえるのは「親が元気で、家族みんなが仲良く話し合えるうちに決めておくこと」です。「実家のこと、どうする?」と親に切り出すのが難しいと感じるなら、まずはエンディングノートや遺言書の作成を、一緒に始めてみることを提案してみてはいかがでしょうか。
インターネットで何でも調べられる時代だからこそ、自己判断は禁物です。ご家族のケースに合った対策を講じるためにも、まずは専門家への相談を検討してください。ファイナンシャルプランナーや相続診断士は、ご家族の思いを丁寧にヒアリングし、今後の方向性を一緒に考え、税理士や司法書士等の必要な専門家へとつないでくれます。
「大切な家をどう扱ってほしいのか、親の思いを知ること」が、円満な相続、そして家族の未来を守るための何よりもの道しるべになります。このコラムが、その最初の一歩となれば幸いです。
出典
国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
執筆者 : 稲場晃美
お金と不動産相続のコンシェルジュ
宅地建物取引士・AFP・住宅ローンアドバイザー・相続診断士