退職金「2000万円」があるのに“生活が苦しい”という父。再就職して「月15万円」稼いでいるのに、なぜ余裕がないのでしょうか?
本記事では、こうした空白期間をどう乗り切り、老後資金を守るかについて解説します。
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目次
退職金2000万円でも「余裕がない」と感じる理由
退職金2000万円は、一見すると十分な金額に思えます。しかし、総務省が2024年に発表した「家計調査報告」によると65歳以上の高齢夫婦無職世帯の平均消費支出は1ヶ月あたり約25万円です。
年間に換算すると約300万円で、退職金だけで生活費をまかなった場合、約6年半で底をつく計算です。老後が20年以上続くと考えると、この金額だけに頼るのは心もとないでしょう。
65歳までの「空白期間」と社会保険料の負担
退職後に直面するのが、公的年金受給開始までの「空白期間」です。多くの人は65歳から老齢基礎年金・老齢厚生年金を受給しますが、60歳で退職した場合は、それまでの生活費は退職金や再就職の給与に頼るしかありません。
さらに、退職後に再就職して月15万円の給与を得ても、社会保険料と税金で約3~4万円は引かれることが一般的です。手取りは約12万円前後となり、夫婦で生活するには不足する可能性があります。
想定外の支出が家計を圧迫
医療費や住宅の修繕費、子どもや孫への援助など、想定外の支出が重なることもあります。中でも医療費は年齢とともに増える傾向にあり、高額療養費制度を利用しても一定の自己負担は避けられません。退職金を「余裕資金」と考えていると、思わぬ出費で一気に減ってしまう可能性があります。
老後資金を守るために活用できる公的制度
老齢基礎年金・老齢厚生年金は原則65歳から受け取りますが、受給開始を前倒し(繰上げ)または遅らせる(繰下げ)ことが可能です。
・繰上げ受給:60歳から開始できる一方、繰り上げた月数1ヶ月ごとに0.4%ずつ減額され、終身で減額されたままとなります。
・繰下げ受給:66歳以降に遅らせると1ヶ月ごとに0.7%ずつ増額され、75歳まで遅らせれば最大84%の増額となります。
長寿リスクに備えたい人にとっては繰下げが有効ですが、生活費を早めに補てんしたい人には繰上げが適する場合もあり、自分のライフプランに応じて選択しましょう。
働きながら受け取れる「在職老齢年金」を活用する
60歳以降も厚生年金に加入しながら働く場合は、在職老齢年金を受け取れます。ただし、給与と年金の合計額が一定基準を超えると年金が一部減額されます。
2025年9月現在の支給停止調整額は月額51万円です。ただし、2026年4月からは月額62万円に引き上げられる予定で、収入が比較的高い人でなければ減額されにくくなります。働きながら年金を受け取る選択肢が広がったといえるでしょう。
資産準備と運用で老後の安心を作ることも大切
退職金を受け取ったら、まずは「生活防衛資金」を確保することが基本です。ただし、退職金を全て銀行預金に置いておくと、インフレによる購買力低下に耐えられない可能性があります。将来の支出に備えるため、退職金の一部を資産運用に回すことも検討しましょう。
投資信託やiDeCoの活用
長期的に安定したリターンを得るには、投資信託など分散投資が有効です。株式・債券・REIT(不動産投資信託)などを組み合わせることで、値動きリスクを抑えながら成長性を取り込めます。
また、60歳以降でも加入できるiDeCo(個人型確定拠出年金)の活用や、NISA(少額投資非課税制度)を使った投資も検討の価値があります。税制優遇を受けながら資産を増やせるため、老後資金の長期的な安定につながります。
「2000万円あれば安心」ではなく戦略的な備えを
退職金2000万円は大きな金額に見えますが、生活費や社会保険料を差し引けば、余裕があるとは限りません。再就職で月15万円を稼いでいても、年金受給までの「空白期間」を乗り切るには工夫が必要です。公的制度を理解し、退職金を計画的に管理・運用することで、老後資金を守ることができます。
「2000万円あるから安心」ではなく、制度と家計の両面から戦略を立てていくことが大切です。
出典
総務省統計局 家計調査報告 家計収支編2024年(令和6年)平均結果の概要
日本年金機構 年金の繰上げ・繰下げ受給
日本年金機構 在職老齢年金の支給停止の仕組み
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー