80代の母が大腿骨骨折で“半年以上”の入院になると言われました。「高額療養費制度」を使っても、実際にどれくらいの費用を準備しておけば安心ですか?
日本には医療費負担を軽減する「高額療養費制度」がありますが、制度を使っても全額が補助されるわけではなく、食事代や差額ベッド代などは別途かかります。本記事では、80代の母親が大腿骨骨折で長期入院した場合に、どのくらいの金額を準備しておけば安心なのかを整理してみましょう。
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目次
高額療養費制度とは
高額療養費制度は、1ヶ月にかかった医療費の自己負担額が一定額を超えた場合に、その超過分が払い戻される仕組みです。70歳以上の場合は、所得に応じて上限額が定められています。
例えば、80代で年金収入が中心の「一般所得者」に該当する方の場合、ひと月あたりの自己負担の上限は5万7600円です。これを超える医療費については、払い戻しによって最終的にこの額までに自己負担が収まります。
ただし、過去12ヶ月以内に3回以上この上限に達した場合は「多数回該当」となり、4回目以降の自己負担上限は4万4400円に引き下げられます。
一方、現役並み所得(年収約370~770万円以上)の区分では、自己負担限度額の上限が「8万100円+(医療費-26万7000円)×1%」となり、負担額はやや大きくなります。
ただし、この区分においても多数回該当になると、負担上限が4万4400円に軽減される仕組みがあります。多くの高齢者は年金暮らしで「一般所得者」に分類されるため、本記事では月4万4400円を目安に試算していきます。
半年~1年入院した場合の自己負担額
例えば6ヶ月間入院した場合、80代で年金収入が中心の一般所得者区分では、最初の3ヶ月は月5万7600円、その後の3ヶ月は多数回該当として月4万4400円が上限となるため、合計で30万6000円が自己負担の目安になります。
1年に及んだ場合は、最初の3ヶ月が5万7600円、その後の9ヶ月が4万4400円となり、合計は57万2400円となります。
このように、治療やリハビリにどれだけ医療費がかかっても、自己負担はこの範囲に抑えられます。ただし、注意すべきは「制度対象外の費用」が別に存在することです。
医療費以外にかかる負担
長期入院で大きな割合を占めるのは、医療費以外の部分です。
・食事療養費
国民健康保険に加入している方の場合、標準的な負担額は1食510円です。1日3食で1530円、1ヶ月(30日)で4万5900円、半年で27万5400円となります。
・差額ベッド代
一般的に大部屋は無料ですが、個室や少人数部屋の場合、1日5000~1万円程度の費用がかかります。1日5000円なら1ヶ月(30日)で15万円、半年で90万円となります。
・日用品・雑費
病衣レンタル、タオル、紙おむつなどで月1~2万円程度かかります。この場合、半年で6~12万円となります。
これらを合計すると、半年間の入院にかかる医療費以外の自己負担は30~100万円程度となり、差額ベッド代の有無で大きく変わります。
実際に準備しておきたい金額
医療費自己負担と医療費外の支出を合算すると、半年入院での総費用は最低でも50万円前後、個室利用が続く場合は100万円を超える見込みとなります。入院が1年に及ぶと、この倍の100~200万円程度を想定しておくのが安心です。
実際の費用は症状や病院の方針、転院やリハビリ施設利用の有無によって幅がありますが、準備資金としてはこの範囲を目安にするとよいでしょう。
制度を確実に利用するための手続き
高額療養費制度を利用するには、申請が必要です。長期入院が見込まれる場合は、事前に「限度額適用認定証」を取得しておくと、窓口での支払いが最初から上限額までに抑えられます。手続きは、健康保険組合や市区町村の国民健康保険窓口で行います。
さらに、同じ世帯で複数人が医療費を支払った場合は、1ヶ月単位で自己負担額を合算できる「世帯合算」が認められており、これにより負担をさらに軽減できる可能性もあります。ただし、別々の医療保険に加入している場合は合算できませんので、ご注意ください。
退院後の費用も視野に
大腿骨骨折は、手術やリハビリが成功しても在宅での生活復帰までに時間がかかり、介護保険サービスの利用が必要になることもあります。退院後はデイサービスや訪問リハビリ、介護ベッドのレンタルなどに費用が発生するため、医療費だけでなく介護費用を含めた生活設計が欠かせません。
家族で事前に相談し、介護保険のサービス内容や自己負担割合も確認しておくことが安心につながります。
制度を味方にして安心の備えをしよう
高額療養費制度は、長期入院の医療費を確実に軽減してくれる頼もしい仕組みです。
80代の母親が大腿骨骨折で半年以上入院する場合、医療費の自己負担は月5万7600円に収まる一方、食事代や差額ベッド代などの費用が重くのしかかります。その結果、半年で50~100万円、1年に及ぶ場合は100~200万円程度の費用を準備しておくと安心でしょう。
また、医療費だけに目を向けるのではなく、制度の対象外となる生活費や退院後の介護まで含めて見積もり、無理のない範囲で資金を準備することが大切です。いざというときに慌てることがないよう、家族で支え合える環境を整えておきましょう。
出典
厚生労働省 高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から)
横浜市 高額療養費支給制度
北区 入院時の食事代(食事療養費)
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー