「独身だからお金いらないよ」と言う40歳の息子。でも、貯金ゼロで本当にこの先やっていけるのでしょうか?
単身者の平均貯蓄額や老後資金の目安をもとに、40歳・貯金ゼロの人が今からどんな備えをしておくべきかを考えてみましょう。
CFP(R)認定者
大学を卒業後、保険営業に従事したのち渡米。MBAを修得後、外資系金融機関にて企業分析・運用に従事。出産・介護を機に現職。3人の子育てから教育費の捻出・方法・留学まで助言経験豊富。老後問題では、成年後見人・介護施設選び・相続発生時の手続きについてもアドバイス経験多数。現在は、FP業務と教育機関での講師業を行う。2017年6月より2018年5月まで日本FP協会広報スタッフ
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単身世帯の貯蓄額の実態
まずは、他の独身者がどのくらい貯金しているのかを確認しましょう。
金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査(令和5年)」によると、単身世帯の金融資産保有額の平均は941万円、中央値は100万円です。
つまり、半分の人は100万円以下しか貯蓄がないということになります。
「平均941万円」はごく一部の資産を多く持つ人が引き上げている数字なので、多くの独身者にとって、“貯金が少ない”は決して珍しいことではないといえます。
独身が老後に直面するお金のリスク
「結婚していないから出費が少ない」と思うかもしれませんが、老後になると、独身だからこその 「孤独コスト」が発生します。以下で、主なものを挙げてみます。
(1)生涯必要な住居費
夫婦や家族で持ち家を共有できる世帯と違い、独身者はずっと家賃を払い続けるか、自分で住宅ローンを組んで完済しなければなりません。総務省「家計調査年報(家計収支編) 2024年」によると、単身高齢者(65歳以上)の住居費は光熱費込みで月1万2693円となっていますが、賃貸の場合は5万円以上になるケースも多く見受けられます。
(2)介護や医療の支援
一人暮らしの場合、病気や介護が必要になっても頼れる人が少ないため、介護サービスや見守りサービスなどを有料で利用する必要があります。
公益財団法人生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査 (2人以上世帯)」(2024年度)」によると、要介護になった人の平均介護期間は4年7ヶ月です。介護費としての一時的な費用は平均47万2000円、月々の費用は平均9万円であるということです。
(3)年金だけで生活を賄うには不十分
「令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、老齢厚生年金を含んだ平均額は月額14万6429円となっていますが、国民年金(老齢基礎年金)の満額は令和7年で月額 6万9308円です。
一方で、家計調査年報(家計収支編) 2024年」によると、高齢単身無職世帯の平均支出は 月約14万9286円。つまり、 会社員でなく国民年金だけの場合では月8~10万円の赤字が発生しているのが現実です。
40歳からでも間に合う「備え方」
では、貯金ゼロからの資産形成について考えてみます。40代からのマネープランは、「支出を減らす」のと「資産を増やす」の両面で考える必要があります。
(1)生活費3ヶ月分の緊急資金を確保
家賃や生活費を含めた3~6ヶ月分(60~100万円程度)の確保をめざします。これだけあれば、いざというとき、失業や病気の際の安心につながります。
(2)NISAやiDeCoを活用
次に、将来の年金補完に取り組みましょう。NISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)が有効です。
■NISA:運用益が非課税で月100円や1000円などの少額から始められます。
■iDeCo:掛金が全額所得控除になり、節税しながら老後資金を準備できます。
40歳からでも、月2万円を20年積み立て、年利3%で運用できれば、シミュレーションベースですが、約650万円の資産形成が可能です。
(3)保険は「最低限・合理的」に
独身の場合、死亡保障は必要最小限で十分です。一方で、病気やけがで働けなくなるリスクに備え、医療保険や就業不能保険は検討する必要があるでしょう。
老後のために必要な金額の目安
老後資金は、「年金の不足分×余命年数」で試算できます。例えば、月々の生活費を15万円、年金月額支給額を6万6000円と仮定した場合、月額不足額は、8万4000円 × 25年(65~90歳)で2100万円と算出されます。これは、あくまで計算上なので、今後の働き方、退職金によって調整可能です。
ただ「老後に月8万円不足する」という可能性を見据えて、今から20年間で2000万円を作る計画を立てて着実に取り組んでいくことが現実的です。
まとめ
物価高と年金支給額の不足ということから、「独身だから大丈夫」という考えは、通用しづらいといえるでしょう。 「一人」ということは「自分で自分を支える」ということです。40歳からでも、以下を組み合わせて貯蓄の習慣を早めにつけ、安心した老後のために準備を始めましょう。
1. 支出の見直し(家賃・通信費・保険)
2. 給与天引きなどの仕組みを利用した自動積立
3. 投資信託の長期運用
今から少しずつでも備えを始めれば、50代・60代になったときの安心感は大きく違ってくるでしょう。
出典
金融広報中央委員会 知るぽると 家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査] 令和5年調査結果
総務省統計局 家計調査 家計収支編 単身世帯 2025年4~6月期
公益財団法人生命保険文化センター 介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?
日本年金機構 令和7年4月分からの年金額等について
厚生労働省 令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況
執筆者 : 柴沼直美
CFP(R)認定者