57歳、会社から「早期退職」の声がかかりました……。退職金が増えるので迷っているのですが、早く退職するデメリットはなんですか?
今回は早期退職を選択する前に考えておきたい、退職後の注意点を整理してみましょう。
ファイナンシャルプランナーCFP(R)認定者、相続診断士
大阪府出身。同志社大学経済学部卒業後、5年間繊維メーカーに勤務。
その後、派遣社員として数社の金融機関を経てFPとして独立。
大きな心配事はもちろん、ちょっとした不安でも「お金」に関することは相談しづらい・・・。
そんな時気軽に相談できる存在でありたい~というポリシーのもと、
個別相談・セミナー講師・執筆活動を展開中。
新聞・テレビ等のメディアにもフィールドを広げている。
ライフプランに応じた家計のスリム化・健全化を通じて、夢を形にするお手伝いを目指しています。
意外と多いデメリット
相談者は57歳。そろそろ自分の進路を考える時期です。次の節目である60歳や65歳に向けて、「今の会社で働き続けるのか? 転職するのか?」などの選択を迫られることになります。そこに「早期退職」の選択肢が増えたら、どうしますか?
早期退職の場合、一般的には退職金が上乗せされます。この金額と、辞めずに働いて得られる収入をてんびんにかけるとどうなのか? これは誰しもが計算するのではないでしょうか。
「働かずにもらったお金で生活できるのなら辞めてしまおうか」という誘惑にかられます。しかし、そのように簡単ではありません。
これまで会社が負担していた、社会保険料や福利厚生を加味する必要があります。「会社を辞めた人が健康保険料の高さに驚く」という話はよく耳にします。健康保険料や介護保険料、厚生年金の保険料はいずれも労使で折半なので、会社が半分を負担しています。
また年金は、加入していた厚生年金から国民年金に変更になります。これは、将来の受給額が減ってしまうことになるので、見逃せません。このように“退職”となると、在職中には気づかなかった“会社員として働くメリット”がたくさんあることが分かります。
早期退職について、主なデメリットを整理しました。
(1)退職金の割り増しがあったとしても、毎月の収入はなくなる
(2)健康保険や介護保険は全額自己負担になる
(3)厚生年金から国民年金になることで、将来受け取る金額も少なくなる
長年働いた会社に愛情があり、会社の利益を考えて早期退職を選択する方もいます。しかし大事な決断なので“世代交代を早めるために身を引こう”ではなく、自分本位で決めることが肝心だと考えます。
57歳は、まだまだ引退するには早過ぎます。一方で転職や起業など、「やりたいことがあるのでライフプランのなかで節目にしたい」という場合は早期退職も賛成です。
しかし、退職金の割り増しだけでは賄えないデメリットもあります。“次の仕事はどうするのか”を踏まえて、熟慮することが大切です。
起業:成功の秘策は強い意志と準備
「起業したい」などの希望があれば早期退職も一案でしょうが、割増退職金をあてにして無謀にチャレンジすることは危険です。やはり、入念な準備が必要です。
そこで今回は、56歳のときに早期退職し、ファイナンシャルプランナー(FP)として独立した事例を紹介します。
Aさんは大学卒業後、大手電機メーカーに勤務していました。42歳のときに大規模なリストラがあり、50代の先輩たちが一斉退職していく姿を目の当たりにしました。この経験が自身の将来を考える上で大きな転機になりました。
いわゆるリスキリングの必要性を感じ、FP資格の取得につながりました。FPの勉強は独立する足掛かりになっただけでなく、自分の将来設計を考えることにも大いに役立ったそうです。年金制度や社会保険制度を理解して将来をシミュレーションしたことは、経済的な不安を軽減できました。
その後、50代になり自身の職場環境を見渡すと、活躍の場が少なくなったと感じたそうです。Aさんの会社の制度上、ある程度の年齢になると会社に残留していても、子会社などへの転籍や給与・待遇の降格が見込まれます。気持ちよく働けるとは思えません。
このことが、「年齢に関係なく、自身の専門性を最大限に生かせる場を求めて起業する」ことの後押しとなり、早期退職の道を選択するに至ったそうです。
早期退職についてのアドバイスは?
Aさんに注意すべきアドバイスを求めたところ、「予測不能なリスクもある」との返答でした。
「まさかのコロナ禍で収入激減に直面したことは、危機管理の教訓にしたい」と語るAさんですが、早期退職→独立した選択に後悔はないようです。準備万端が功を奏した好例だと感じました。
執筆者 : 宮﨑真紀子
ファイナンシャルプランナーCFP(R)認定者、相続診断士
