年収500万円・54歳の夫が「1500万円」貯まったからもう会社を辞めると言います。退職金も上乗せされるから大丈夫と言っていますが、本当に大丈夫でしょうか…?
早期退職を考えた時点で、しっかりと教育費と老後資金が準備できていれば安心ですが、その時点で安心できる状態まで準備できている人ばかりではありません。十分な生活費が用意できていなければ、65歳の年金受取期間前に生活が困窮してしまうこともあります。
早期退職するためには、通常の退職以上に「退職後の生活設計」と「社会保険制度の活用」を具体的に計画することが大切です。本記事で、主な注意点と確認事項を整理します。
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
今後のライフプランの計画をしっかりと立てること
早期退職を利用して退職しようとしたときに、ライフプランの計画を立てることは最優先としてやるべき課題です。
そのためには、まず退職後、少しでも継続して働く気があるのか、しばらく休んでから同程度もしくは副業程度に働くのか、それともまったく働かないかの確認と、退職後に大きなお金を使う予定があるのかを考えてみましょう。
退職後に少しでも収入がある状態であれば、老後資金の準備も少し楽になります。一方、大学進学など勉強をする、新しく事業を立ち上げる、趣味に人生を費やすなど、収入が少ない、もしくはない状態で、生活費は増えているという状況が続くのは問題です。
この状況が続いても問題ないライフプランかどうかを、キャッシュフロー表で赤字にならないかシミュレーションしておくべきでしょう。早期退職制度の利用者に対しては、退職金の上乗せがあるでしょうから、それも含めて計算してみてください。
まずは手元に残るお金で、年金が受給できる年齢までの生活費が足りるのかというのがポイントとなります。退職金や企業年金などは、「一時金」「年金」「年金と一時金の併用」など、さまざまな受け取り方を企業側から提案する場合も多いですが、そもそもiDeCoなどの確定拠出年金であれば60歳以上でないと受け取れません。
退職金を「いつ」「どういう形」で受け取るのかも含めて、いかにしっかりとしたライフプランを立て、キャッシュフロー表が赤字にならないような計画にできるかが、早期退職が実現できるカギとなります。
会社員であったときには気にならなかった社会保険料が重く感じるとき
正社員であれば、雇用保険、健康保険、介護保険、厚生年金に加入し、いずれも保険料を事業主が一部保険料を負担しています。退職後には、雇用保険の負担がなくなりますが、健康保険と年金制度には加入し、保険料を負担する必要があります。
会社員だったときは給与天引きであったために気にならなかった社会保険料が、今度は自分で支払い始めると負担は重く感じるはずです。会社を退職したときの健康保険の選択肢は、以下の3つのいずれかとなり、それぞれ保険料も異なります。
(1)任意継続被保険者制度
(2)国民健康保険
(3)家族の被扶養者になる
任意継続は、勤務していたときと同様の健康保険に原則2年間継続可能ですが、保険料は会社負担分とあわせて全額自己負担です。国民健康保険は前年所得で算定されるため、退職翌年は、収入が下がったことは考慮されず、保険料が高額になりがちです。
国民健康保険では扶養家族がいる場合は、加入する家族全員分の保険料が加算されることも要注意点ですから、保険料に上限のある任意継続のほうが、扶養家族がいるケースでは保険料がリーズナブルとなる可能性はあります。
次に、厚生年金に加入していれば、扶養されている妻は第3号被保険者として保険料は不要でしたが、退職後は妻と2人分の国民年金保険料が必要です。
最後に、雇用保険の負担はなくなりますが、せっかく雇用保険に加入していたのですから、失業後は一定期間保険給付を受け取ることを考えてもいいでしょう。雇用保険については、離職前2年間に原則として被保険者期間が12ヶ月以上あれば、失業の給付である基本手当が受給できます。
ただ、受給できるのは、「失業の状態」と判断される場合です。
そのため、(1)積極的に就職しようとする意思があること、(2)いつでも就職できる能力(健康状態・環境など)があること、そして、(3)積極的に仕事を探しているにもかかわらず、現在職業に就いていないことなどの条件に合致しなければなりません。
そのため、早期退職後はしばらく休みたい、もしくは趣味を満喫したいなど、すぐに就職する意思がなければ、失業しても基本手当は受給できません。
ただし、失業後1年以内に、厚生労働省指定の教育を受け、教育訓練受講後に再就職を検討するなど、教育訓練給付の給付もあり、雇用保険の活用方法はさまざまです。ぜひ、検討してください。
住宅ローンや教育費の負担が続く場合には、早期退職をしないほうがいいかも
早期退職をする時点で、住宅ローンや子どもの教育費の負担が続くようなら、今回の選択を先延ばしにするということを検討するべきかもしれません。
早く退職することで「退職金が上乗せされる」「これを機会に好きなことをしたい」など、早期退職のモチベーションはいろいろあるでしょうが、いったん退職してしまうと、生活の立て直しは難しいものです。
退職金で住宅ローンの繰り上げ返済や教育費に充てるという考え方もあるでしょうが、先に支出したことで、老後資金が不足するということはあり得ます。先に使ってしまうのであれば、年金受給までの間、「まったく仕事をしない」のではなく、少しでも収入を得る手段を残しておくことを考えておきましょう。
これまでの仕事と異なる仕事がしたいという早期退職なら、前段で説明した雇用保険の教育訓練給付(※)を受講して、新しい資格に挑戦するのもいいかもしれません。
「専門実践教育訓練」「特定一般教育訓練」「一般教育訓練」の3種類があり、かかった受講料がすべて補てんされるわけではありませんが、少しでも生活の支援となることは覚えておきたいものです。
会社員にとって、早期退職はチャンスにもなりますが、すぐに再就職しないのであれば、準備不足となり、老後難民生活に陥るケースもあります。制度の詳細を確認し、利用をするかどうかは、キャッシュフロー表で試算し、厳しめに判断することをおすすめします。
出典
(※)厚生労働省 ハローワーク インターネットサービス 教育訓練給付金
執筆者 : 當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
