更新日: 2019.08.20 介護

もし親が認知症になったらどうする? 最低限知っておきたいお金のこと

もし親が認知症になったらどうする? 最低限知っておきたいお金のこと
内閣府によると、日本の認知症患者は2012年には約462万人で65歳以上人口の約7人に1人でしたが、2025年には約700万人に達し、これは約5人に1人を占める見込みと言われています。
 
親などの家族が近い将来に認知症になる可能性があることを頭では分かっていても、「まだ大丈夫」と安易に考えていないでしょうか。
 
そこで今回は、家族が認知症になる前に、特にトラブルの多くなるお金に関して具体的に知っておきたいことについてお伝えしたいと思います。
 
藤丸史果

執筆者:藤丸史果(ふじまる あやか)

ファイナンシャルプランナー

相続、投資信託など、身近なファイナンスを中心に活動している。

備えが必要なのは分かっているが……

「SOMPOホールディングス株式会社」が2018年9月に発表した調査結果によると、親や自分が認知症になったときに備えて費用の準備をしている人は、約1割程度にとどまることが分かりました。
 
また、約5割の人が、親が認知症になったときに備えた費用の準備を必要と認識しながら、何も準備をしていないことが明らかになりました。
 
やはり、いつか親など家族、いずれは自分が認知症になるかもしれないと思ってはいても、日々の暮らしの忙しさの中で、つい備えを後回しにしてしまう人が多いことが分かりますね。
 

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認知症で起こるお金のトラブル

認知症になると、比較的軽度の認知症の場合でも、1日のお金の出入りなどは管理できても、月払いや年払いなど中長期の金銭管理が難しくなります。
 
一人暮らしであれば、家賃の滞納や、電気・水道料金の未納、また年金の管理ができないといったトラブルも起こり得ますし、生活に必要ない高額な商品を買ってしまったり、高齢者を狙った詐欺にだまされたりといった危険も出てくるでしょう。
 
また、認知症の検査や治療にかかる医療費は原則として公的健康保険が適用されますが、認知症はやはり完治が難しく、治療が長引くことが多いようです。
 
高齢になると持病が複数ある人も多いため、認知症の医療費に加えそれらの持病の医療費が必要ですし、介護が必要になれば介護保険の自己負担も発生します。
 

介護が必要になったら

厚生労働省が3年ごとにおこなっている調査によると、2004年の時点では10.7%であった「認知症」が、2016年には全体の18.0%を占め、「要介護」となった主原因の1位となっています。
 
もちろん他の病気なども同様ですが、家族が認知症になった場合、特に介護が必要となる可能性は意識しておきたいところです。
 
その際は、介護保険の利用を検討することになります。
 
介護保険は、要支援1~2、要介護1~5で認定され、身体機能、生活機能、認知機能、精神・行動障害、社会生活への適応、特別な医療などを分析し、その認定結果によって受けられるサポートが決定し、ケアプランを作成します。
 
認定結果によって支給限度額、自己負担額が変わるので、それらを確認しておく、また地域包括支援センターや自治体の福祉課などでは介護費用についても相談ができますので、利用できる制度がないかも確認しておきたいですね。
 

認知症になると親の口座が使えない? 知っておきたい制度とは

親が認知症になった場合、介護費や病院にかかるお金などはできるだけ親のお金でまかないたいと考える人は多いのではないでしょうか?
 
意外と知られていないことかもしれませんが、銀行では口座の名義人が認知症だと分かると、スムーズに口座の資金の入出金ができないケースもあるようです。
 
もちろん、認知症と診断されたとたんに口座が凍結されてしまう、というわけでなく、窓口でやりとりした際に預金者本人の意思確認がとれるかどうかが重要になるようです。
 
あくまでも預金者の財産を守るためですが、家族が同席している場合でも、本人の意思が確認できないと払い出しを断られることもあります。
こういった場合、銀行のほうから「成年後見制度」を勧められることもあるそうです。
 
・成年後見制度とは

では「成年後見制度」とはなんでしょうか? この制度には2つあります。
 
1.法定後見人制度

すでに本人の判断能力が不十分な場合に、家庭裁判所に申し立てることで選任された後見人が、本人に代わって法的に財産や権利を守り、支援する制度です。
認知症患者のほか、知的障害者、精神障害者などの方が預貯金の解約やサービス契約の締結、遺産分割協議、不動産の売買などをする場合に、後見人が本人の代わりにおこないます。
 
2.任意後見人制度

将来、判断能力が低下した場合に備えて、本人に判断能力があるうちに、任意後見人を選び、公正証書で任意後見契約を結んでおきます。後見人に家族を指定することができますし、「後見事務をどこまで委任するか」を決めることができます。
 
ただし、1、2に共通して、この制度にはいわゆる相続税対策のための行為、たとえば将来の相続に備えて子へ贈与を行うことなどができない、といったデメリットがあります。
 
また、親族間に利害の衝突や対立があるような場合には、弁護士や司法書士等の専門家が後見人として選ばれますが、そのような場合には、たとえ子であっても本人の財産総額などは教えてもらえず、本人や子が望むような柔軟なお金の使い方や財産分与ができないという面があるのです。
 
そこで、この他に「家族信託」(民事信託)という制度がありますのでご紹介します。
 
・家族信託(民事信託)とは
この制度は、老後や介護などの目的のために、本人が財産管理や資金の出し入れを信頼できる家族に託すものです。弁護士などの専門家が間に入って作成した信託契約を、公正証書の形で公的機関に証明してもらう形をとります。
 
家族の意向が反映されやすく、意識がしっかりしているうちに準備ができますし、先ほどの成年後見制度でできることに加え、委任契約や遺言といった内容を1つの契約書でカバーできる制度と言えます。
 
ただし、成年後見制度より柔軟とは言え、受託者は目的から外れた財産の管理や運用をしてはならない、利益相反取引の禁止といった義務は負うことになります。
 

他にできることは?

・元気なうちにお金について話し合う
本人が判断できるうちにお金についてしっかり話し合っておくことが望ましいと思います。
 
お金のことを話す機会を作るのは大変かもしれませんが、家などの不動産に関することや大きなお金が動くことは、やはり本人が元気なうちに判断してもらうに越したことはありません。
 
また、いざというときのために、金融機関によっては代理人設定ができることもあるので窓口で相談をしてみる、重要書類等の場所を聞いておく、当面の生活費や入院費になるお金を預かっておくようにするといった対策は最低限、必要かもしれません。
 
・なるべく早い段階で病院へ
認知症の種類にもさまざまありますが、日本の認知症患者全体のうち半分を占めるアルツハイマー型認知症は、現在は完治させることはできません。
でも、早期発見、早期治療によって病状の進行を防いだり、遅らせたりすることが可能であることが明らかになってきています。
 
普段から持病などで通う「かかりつけ医」がいるのであれば、症状を説明して専門医を紹介してもらいましょう。
 
本人のためにも、さまざまな負担を軽減するためにも、早い段階での適切な治療が望ましいことを知っておき、もし家族が「認知症かもしれない」と感じたら、なるべく早く病院で検査をしてもらうようにしましょう。
 
[出典]:内閣府「平成29年版高齢社会白書(概要版)」
[出典]:SOMPOホールディングス株式会社「認知症」に関する調査結果
[出典]:厚生労働省 「平成16年国民生活基礎調査」
[出典]:厚生労働省「平成28年国民生活基礎調査」
[出典]:法務省「成年後見制度~成年後見登記制度~」
[出典]:一般社団法人家族信託普及協会「制度の概要」
 
執筆者:藤丸史果
ファイナンシャルプランナー

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