更新日: 2021.05.21 その他年金

「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」受給額や受給要件の違いは?

執筆者 : 辻章嗣

「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」受給額や受給要件の違いは?
主に世帯主などが亡くなったときに遺族の生活を支える遺族年金には、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があります。今回は、遺族年金の受給要件と年金額について解説します。
辻章嗣

執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)

ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/

「遺族基礎年金」の受給要件と年金額は?

「遺族基礎年金」は、国民年金の被保険者等であった方が受給要件を満たしている場合、亡くなられたその方によって生計を維持されていた遺族が受け取ることができます(※1、2)。
 

1.遺族基礎年金の受給要件は

国民年金の被保険者、または老齢基礎年金の受給資格期間が25年以上ある者が死亡し、死亡日の前日において保険料納付要件を満たしていることが遺族基礎年金の受給要件となります。保険料納付要件は、以下のいずれかを満たしている必要があります。
 
(1)死亡日の前日において保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が、加入期間の3分の2以上あること。
 

 
(2)2026年4月1日前の場合は死亡日に65歳未満であれば、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までの1年間の保険料を納付しなければならない期間のうちに滞納がないこと。
 

 

2.遺族基礎年金を受給できる遺族とは

遺族基礎年金を受給できる遺族は、死亡した方によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」です。子とは次の方に限られます(子の条件については以下同)。
 

(1)18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子
(2)20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の子

 

3.遺族基礎年金の年金額は

2021年度の遺族基礎年金額は、以下のとおりとなります。
 
遺族基礎年金額=78万900円+子の加算
 
子の加算は、第1子と第2子が各22万4700円、第3子以降が各7万4900円となります。なお、子が遺族基礎年金を受給する場合の子の加算は、第2子以降について加算され、子1人当たりの年金額は上記の式で算出された年金額を子どもの数で割った額となります。
 

4.寡婦年金とは

寡婦年金は、死亡日の前日において国民年金の第1号被保険者として保険料を納めた期間、および国民年金の保険料免除期間が10年以上ある夫が亡くなったときに、その夫と10年以上継続して婚姻関係(事実上の婚姻関係を含む)にあり、死亡当時に夫に生計を維持されていた妻に対して、60歳から65歳になるまでの間支給されます(※3)。
 
寡婦年金の年金額は、夫の第1号被保険者期間(保険料免除期間を除く)だけで計算した老齢基礎年金額の4分の3です。なお、亡くなった夫が老齢基礎年金・障害基礎年金を受けたことがあるときは支給されません。
 

「遺族厚生年金」の受給要件と年金額は?

「遺族厚生年金」は、厚生年金の被保険者などであった方が受給要件を満たしている場合、亡くなられたその方によって生計を維持されていた遺族が受け取ることができます(※1、4)。
 

1.遺族厚生年金の受給要件は

遺族厚生年金の受給要件として、以下のいずれかを満たすことが求められます。
 

(1)厚生年金の被保険者が死亡したとき、または被保険者期間中の傷病がもとで、初診の日から5年以内に死亡したとき(ただし、遺族基礎年金と同様の保険料納付要件を満たす必要があります)
(2)老齢厚生年金の受給資格期間が25年以上ある者が死亡したとき
(3)1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けられる者が死亡したとき

 

2.遺族厚生年金を受給できる遺族とは

遺族厚生年金を受給することができる方は、死亡した方によって生計を維持されていた以下の遺族で優先順位の高い方が受給します(※5)。
 

第1順位:子のある妻、子のある55歳以上の夫、または子
第2順位:子のない妻、子のない55歳以上の夫、または子
第3順位: 55歳以上の父母
第4順位: 孫
第5順位: 55歳以上の祖父母

 
なお、対象遺族の受給要件などは下表のとおりです。
 

対象遺族 受給条件など
・子のある妻は、遺族基礎年金も合わせて受給可能
・子のない30歳未満の妻は、5年間の有期給付
子、孫 ・18歳到達年度の年度末を経過していない者、または20歳未満で障害年金の障害等級1・2級の者
・子は、遺族基礎年金も合わせて受給可能
55歳以上の夫、父母、祖父母 ・支給開始は60歳から
・夫は遺族基礎年金を受給中の場合に限り、遺族厚生年金も合わせて受給可能

※筆者作成
 

3.遺族厚生年金の年金額は

遺族厚生年金の額は、被保険者期間の平均の報酬相当額と月数に一定の乗数を掛けて算出されます。
 
遺族厚生年金額=平均の報酬相当額×乗数×被保険者期間の月数
 
ただし、被保険者期間が300月(25年)未満の場合は、300月とみなして計算されます。
 
また、次のいずれかに該当する妻が受け取る遺族厚生年金(注)には、40歳から65歳になるまでの間、中高齢寡婦加算として年額58万5700円(2021年度の額)が加算されます。
 

(1)夫が亡くなったときに40歳以上65歳未満で、生計を同じくしている子がいない妻
(2)40歳に到達した当時、子がいるため遺族基礎年金を受けている妻が、遺族基礎年金を受給できなくなったとき

(注)老齢厚生年金の受給権者、または受給資格期間を満たしている夫が死亡したときは、死亡した夫の厚生年金保険の被保険者期間が20年以上の場合に限ります。
 

遺族年金の受給例

18歳未満の子のある夫婦の遺族年金について、いくつか例を挙げて解説します。
 

1.自営業の夫婦の場合

自営業を営む夫婦の場合、残された子のある配偶者に遺族基礎年金が支給されますが、子どもが18歳到達年度の年度末を迎えると遺族基礎年金は支給停止となります。その後、一定の要件を満たす妻には60歳から寡婦年金が支給されます。そして、妻が65歳になると寡婦年金は支給停止され、自分自身の老齢基礎年金を受給するようになります(※2、3)。
 

 

2.会社員の夫と専業主婦の場合

会社員の夫が亡くなった場合、子のある専業主婦であった妻には遺族基礎年金と遺族厚生年金が支給されます。その後、子どもが18歳到達年度の年度末を迎えると遺族基礎年金は支給停止されますが、中高齢寡婦加算が支給されるようになります。
 
そして、妻が65歳になると自分自身の老齢基礎年金と遺族厚生年金が併給されるようになります(※2、4)。
 

 

まとめ

世帯主が亡くなったときに、残された遺族の生活を支える遺族年金ですが、加入している年金制度によってその額や支給条件が大きく異なります。特に、厚生年金に加入できない自営業者の方などは、生命保険などで万が一に備えることを考えると良いでしょう。
 
出典
(※1)日本年金機構 遺族年金
(※2)日本年金機構 遺族基礎年金(受給要件・支給開始時期・計算方法)
(※3)日本年金機構 寡婦年金
(※4)日本年金機構 遺族厚生年金(受給要件・支給開始時期・計算方法)
(※5)日本年金機構 遺族年金ガイド 令和3年度版
 
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

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